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第845話

Author: 風羽
夜は更け、雨はまだ静かに降っている。

十時を回った頃、澪安はどれほど後ろ髪引かれようと、先に席を立った。

周防家の運転手が、すでに彼の黒いロールスロイスをマンション前へ回していた。

澪安は運転席に乗り、窓を少しだけ下ろす。

フロントガラス越し、雨に濡れた街路樹が滲み、葉先から水滴が落ちていく。

澪安はじっと前方を見据え、視線を逸らさないまま煙草に火をつけた。

火が灯った瞬間、顎のラインがわずかに浮かび上がり、その横顔は街灯よりも鮮やかに際立つ。

ゆっくりと煙を吐き出すと、表情から温度が消えていき、次の瞬間、彼の視線は静かに上階へと向かった。

そこに灯る温かな橙色の光。

しかし、今夜、その光は、自分の居場所ではない。

革靴でアクセルを踏む。

ロールスロイスは濡れた落ち葉を踏み潰し、雨に溶けてゆくように走り出した。

まるでその落ち葉のように、澪安の気持ちはぐしゃりと崩れ、雨に流されていく。

……

四階。

マンションの中には、久しぶりの再会の温度が満ちていた。

慕美と允久の関係は、ずっと悪くはなかった。

ただ、親密と言うには距離があり、そもそも一緒に暮らした
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