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第870話

Auteur: 風羽
その言葉のあと、澪安の目尻から涙が落ちた。

彼はいつから泣くことを忘れたのか思い出せなかった。けれど、この年齢になって、慕美の言葉ひとつで涙がこぼれた。鼻先から耳の後ろまで赤く染まり、声はわずかに震えていた。

「慕美、何を言ってる?

自分が何を言ってるのか分かってる?

俺をいらないならまだ理解できる。男を選ぶ権利はお前にある。でも、どうして思慕まで手放す?十ヶ月も身ごもって、命がけで産んだ子だろう。どうしていらないなんて言える?

思慕を何だと思ってる?俺と同じ扱いか?都合のいいとき使って、都合が悪くなったら捨てる……擦り切れた雑巾か?」

「違う……」

慕美は小さく呟いた。

次の瞬間、澪安の手が彼女の手首を掴んだ。

車の鍵は奪われ、そのまま歩き出した澪安に引かれるように、慕美はよろめきながらついて行った。

地下駐車場に着き、車に押し込まれると思っていた。

だが背中が車体に叩きつけられ、次の瞬間、息が止まるほどのキス。

怒りも、悔しさも、痛みも、全部その中にあった。

慕美は最初こそ抵抗した。

けれど、途中からもう抗わなかった。

心が砕ける音の中で、静かに彼の肩
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