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第2話

作者: ココナッツ

胸の奥で、何かが音を立てて砕けた。

丸七年、ずっと付き合ってきた私は、穏やかな家庭を築きたいと願っていた。

それなのに、私の切実な思いを、「焦りすぎ」のひと言で切り捨てた。

ふと、最後に寄り添った夜のことが蘇った。

「これ以上プロポーズを先延ばしにするなら、ほかの人と結婚しちゃう」

私が耳元で囁くと、彼はくぐもった声で笑い、軽くかわした。

「はいはい、そんなに俺と結婚したいのか。じゃあ次の家族の集まりで、ちゃんとプロポーズしてやるよ」

私はその言葉を心から信じ、こっそり彼の指サイズを測り、自ら婚約指輪まで用意していたのに。

……

帰路の車内は沈黙が続き、私たちはそのまま家へ帰った。

身支度を終えると、彼のひんやりとした胸が私の背中に重なり、強く抱き寄せられた。

ほどなくして、重なり合う二人の体温が、その微かな冷たさを熱で塗り替えていった。

「まだ怒ってるのか」

掠れた声が耳に届いた。

私は一言も返さなかった。

彼は私の耳たぶを軽く噛み、手を寝間着の内側へ滑り込ませ、顔を寄せて唇を塞いだ。

執拗に重ねられた口づけに呼吸が苦しくなり、私は彼を押しのけ、まっすぐ彼の瞳を見つめた。

「知樹、別れましょう」

重たい沈黙が二人を覆い尽くした。彼の呼吸が次第に荒く重くなった。

その静寂を、唐突な着信音が打ち砕いた。

知樹はすぐ電話に出た。

「泣かないで。そこで待ってて、すぐ向かうから」

通話を切った彼はためらいの表情を浮かべ、眉を曇らせて私を見た。

「清花、優奈の家が突然停電したらしい。様子を見に行く。何かあってからじゃ手遅れだからな」

やはりそうだった。

私の別れの決意も、彼にはただの拗ねにしか映らなかった。

何一つ真剣に受け止めてはくれなかった。

「わかった」私は小さく頷いた。

昔の私なら、優奈への過剰な気遣いに不満をぶつけていただろう。

だが今の私には、そんな気力も残っていなかった。

知樹はしばらく私を見つめた後、上着を羽織って家を出ていった。

部屋にはフロアランプの淡い光だけが残った。

玄関のドアが閉まる音を聞き、私はソファに腰を下ろした。

引き出しの奥から木箱を取り出した。

中には高校時代から同棲直前までの、三百通の手紙がしまわれていた。

拙い文字から落ち着いた筆致へと変わり、どの紙面にも「一生離さない」という思いが綴られていた。

あの頃の約束を彼は忘れてしまったが、私はすべてを鮮明に覚えていた。

雨の中ずっと私の帰りを待ってくれたこと、体調を崩した私を病院で看病してくれたこと、寒い夜に冷えた私のために温かいココアを作ってくれたこと。

かつて彼の瞳には偽りのない熱が宿り、私だけを見つめる確かな愛がそこにあった。

私は手紙を一枚ずつ燃やした。

舞い散る灰は、七年かけて崩れ落ちた私の恋そのものだった。

荷物をまとめ終えた頃、知樹が帰宅した。

手には、私が一番好きなお菓子屋のケーキとミルクティーが提げていた。

「昨日ケーキが食べたいって言ってただろ。閉店前に間に合ってよかった」

何事もないような軽い口調に、私はただ黙って彼を見つめた。

「優奈は大丈夫?」

ストローを刺す手が止まり、知樹は曖昧に笑った。

「ああ、子供っぽいだけだ。停電程度で怖がるなんて」

いつもの癖でそれを私に持たせ、髪を撫でようと手を伸ばした。

「ミルクティーを飲み過ぎないで。もう寝る時間だ」

私はその手を避けた。

空を切った手に、知樹は戸惑いを覚えた。

「知樹。私は別れると、本気で言ってるの」

彼は一瞬視線を合わせた後、眉間を揉んでため息をついた。

「今夜二度目だぞ。いい加減にしろ、清花。社員の異変を気にかけただけだ。

それに、行く前にきちんと君に話しただろ」

そこまで言って、彼は少し無力なため息を漏らした。

「まだ指輪のことでくよくよしてるのか。そんな下らないこと、いつまで気にしてるんだ。

明日デザイナーに頼み、君が満足する指輪を作らせる。それで納得しろ。俺は疲れている、もう休もう」
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