私は栗林清花(くりばやし さやか)。古賀知樹(こが ともき)の実家での食事中、彼のコートのポケットから小さな箱が転がり落ちた。拾い上げて開けてみると、なかには婚約指輪が収まっている。知樹の母が、もどかしそうに息子の肩をポンと叩いた。「さっさと清花ちゃんをもらいなさい。良い子は他所に取られちゃうかもよ。今夜プロポーズして、明日にでも婚姻届を出しなさい」その場にいた全員が、ドッと笑い出した。私は頬を染め、彼から「結婚しよう」の言葉を待ちわびていた。だが知樹は、私の手から指輪を取り上げると、隣に座る秘書の須藤優奈(すどう ゆうな)に渡した。「いや、これは優奈のを預かってるだけなんだ」そう言って、いつもの優しい手つきで私の髪をくしゃりと撫でた。「大人しく待ってて。今度二人で、気に入る指輪を見に行こう」優奈の顔に一瞬よぎった、してやったりの笑みを、私は見逃さなかった。私は音もなく、口元だけで笑った。知樹は知らない。私たちに「今度」は、もうない。私の結婚式は、今週の日曜日に決まった。優奈が無邪気な笑顔でグラスを差し出した。「私のは適当に買った安物です。清花さんの審美眼には到底及びませんわ」私は言葉を返さず、彼女の薬指にはまる指輪に視線を落とした。リングの内側には、私と知樹のイニシャルが刻まれている。これは紛れもなく、私自身がデザインした指輪だ。知樹が背後から何げなく私の腰に腕を回し、優奈へ淡く笑んだ。「口が上手だな。おとなしくフルーツでも食べていろ」窘めるふりをしつつ、その声には優奈への親しみとかばう響きが滲んでいた。優奈は可愛らしく舌を出すと、距離を置いてフルーツをつまみ始めた。この曖昧な関わり方は、上司とアシスタントの一線を完全に超えている。ここ数年、知樹は様々な宴席に優奈を連れ歩き、見聞を広めさせるためだと言い張ってきた。今では家族の集いにまで彼女を同席させるようになっていた。周囲から、私を探るような、あるいは同情するような視線が一斉に注がれた。知樹の母も何か言いたげだったが、結局ため息をつき、黙り込んだ。その瞬間、スマホが短く震えた。母から送られた数秒の動画だ。映像には、優奈の口をつけたグラスを知樹が何の躊躇もなく受け取り、新たに酒を注いで一気に飲み干
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