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第6話

Author: にゃんこ虫
彼女は強く突き飛ばされ、体勢を崩したまま地面に尻もちをついた。足首に走った鋭い痛みに思わず声を上げるが、その瞬間、彼女は気付いた――声を上げたのは自分だけではなかった。

振り返ると、顔をくしゃくしゃにして、今にも泣き出しそうな表情の雪華が、茂仁を見つめていた。

その位置を見た瞬間、先ほどの突き飛ばす力が誰からか、夕帆はすぐに察した。

二人の異変に気づいた茂仁はすぐに戻ってきて、唇を尖らせた雪華が訴える。

「茂仁......足を挫いちゃったみたい。痛いよ......」

甘えたような声が出た瞬間、彼の心は大きく波立ち、目には彼女への憐れみが浮かんだ。

「俺が背負って山頂まで連れて行くよ、ね?」

彼は優しく語りかけ、心のすべては雪華だけに向けられていた。まるで、同じ足を挫いた夕帆の存在など初めからなかったかのように。

彼女は何も言わず、ただ黙って立ち上がった。幸いにも彼が雪華を背負っていたおかげで、何とかついていけた。

足を引きずりながらようやく山頂に着いたころ、ようやく一息つけると思った矢先、雪華が声を上げた。

「あっ、カメラを車に忘れちゃった!」

それを聞いた彼は彼女を見つめ、優しく微笑んだ。

「俺が取ってくるよ」

その瞬間、雪華の視線が自分に向けられたことを感じた夕帆の胸に、警鐘が鳴った。案の定、次の瞬間、彼女はにこやかにこう言った。

「いいの、夕帆さんが付き合ってくれればいい」

有無を言わせず手を引かれ、ふたりは山を下り始めた。

茂仁の視界から外れたところで、雪華は急に足を止め、夕帆を見つめながら得意げに笑った。

「夕帆、昨日はあなたの誕生日だったよね?プレゼントを渡すのを忘れてたけど、今からでも遅くない」

そう言ってスマホを取り出し、何かを操作したかと思うと、それを夕帆の前に差し出した。

画面に映ったのは、こっそり撮られた日記帳の写真だ。

そこに綴られた文字は、筆跡からして茂仁のものだとすぐに分かった。

【雪華は他の人を選んだ。長年守ってきたけれど、彼女は結局俺のものにはならなかった】

【彼女はプロポーズを受け入れた。俺の気持ちを知ってるくせに、俺を介添人に指名した。きっと彼女は、俺が彼女を愛してるから、何を言っても断れないって分かってるんだ。いいさ、彼女が笑ってくれるなら、地獄だって喜んで行くよ】

【雪華は今幸せじゃない。彼女は知らないのだろう。俺が毎日、彼女の家の前で待っていることを。時には数時間、時には一晩中。彼女が振り向いてくれさえすれば、そこに俺がいることに気づくはずなのに】

【今日、俺に好意を寄せる女性に出会った。名前は橋本夕帆。彼女は俺のために来たと言った。ずっと俺を愛し続けると。

でも、他人の気持ちなんて、俺にはどうでもいい。俺がこの一生で望むのは、雪華の愛だけだ。少しだけでもいい。日々、少しずつ、何年も、何十年もかけて、どうてもいい、長く続く愛が欲しいんだ】

......

写真が次々と切り替わるたびに、夕帆の脳裏には、机に向かってこれらの言葉を書き綴る彼の姿が浮かんだ。

まるでその全ての言葉に、雪華への想いが溢れんばかりに込められているかのようだった。

夕帆は彼に愛されなかった。茂仁は雪華を愛し、そしてその想いは報われないままだった。

結局、誰も報われていなかった。

呆然と画面を見つめる夕帆を、雪華の鋭い声が現実へと引き戻した。

「分かったでしょ?茂仁がずっと好きだったのは私よ。分を弁えて、さっさと身を引きなさい。でないと恥をかくのはあなただけよ」

「身を引くわ。でも、今じゃない」

最初から、彼が好きなのは雪華だと知っていた。それでも夕帆は、傍にい続ければ、いつかその心の中に自分の居場所ができると信じていた。

だが雪華が戻ってきた今、それがただの幻想だったと気づいた。

一途なサブキャラが愛するのは永遠にヒロインだけ。他の誰かを愛することなど、あり得ないのだ。

それでも、彼女はまだこの場を離れるわけにはいかなかった。茂仁と雪華が結婚するまでは。

夕帆が返そうとしたその時、雪華が手を掴んだ。

「今じゃないって、いつならいいの?はっきり言いなさいよ!」

二人の立っている場所は、山道のすぐ脇の斜面で、決して安全とは言えなかった。

夕帆は眉をひそめ、周囲を確認しながら、争いを避けようと彼女の手を振りほどこうとした。

「手を離して!」

「答えなさい!」

だが、雪華は応じようとしなかった。返事がないことに逆上し、さらに力を込めてきた。

行こうとする夕帆と、引き止めようとする雪華。二人の力が拮抗する中、バランスを崩した雪華が、足を滑らせた。

そのまま彼女は斜面へと倒れ込んでいった。

そして、手を掴まれていた夕帆もまた、逃れられず――そのまま、引きずられるように斜面へと落ちていった!

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