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第2話

Author: 草原の晴天
紙切れが、床にぱらぱらと落ちていく。

「愛理。お姉ちゃんが歩けるようになってから、もう一度受験するってことでいいでしょう?」

母は目を真っ赤にして、私に尋ねる。

私は何も言わない。

しゃがみ込み、床に散らばった紙切れを一枚ずつ拾い集める。

泣かなかった。

あの日から、私は二度と大学の話をしなくなる。

リビングは静まり返っている。

両親は廊下に背を向けている。

「これからは、愛理にももう少し優しくしてあげよう」母が声を潜める。

そのとき――ギィと、車椅子がフローリングの上を進む音が突然響く。

両親が勢いよく振り返る。

綾音が、いつの間にか部屋から車椅子を押して出てきている。

二人の顔色が変わる。

さっきの会話を綾音に聞かれて、また怒らせてしまったと思ったのだろう。

母は慌てて立ち上がり、気まずそうに口を開く。

「綾音、お母さんはそういう意味じゃ……」

綾音は俯いたまま、何も言わない。

怒ることもなく、自分で車椅子を動かしてテーブルのそばまで来る。

そして、テーブルの上のスペアリブを見つめ、ふいに口を開く。

「これからは、私のことばかり気にしなくていいよ」

両親は呆然とする。

綾音は顔を上げ、テーブルの上の料理を見つめる。

「愛理は毎日、夜中まで配達してる。

私なんかより、ずっと頑張ってる。

これからは、もっとあの子のことを気にかけてあげて」

父は眼鏡を外し、目元を揉む。

そして、力強く頷く。

母は背を向け、テーブルを見ないようにしながら、こっそり涙を拭う。

私は部屋の入り口に立ち、綾音を見つめている。

こんなに長い間、綾音が私のために口を開いてくれたのは、これが初めてだ。

私は綾音のところへ行きたい。

そして言いたい。

――お姉ちゃん、私は全然つらくないよ。

私は口を開く。

けれど、声が出ない。

ようやくこの家族が、私に優しくしようとしてくれている。

でも私はもう、大雨の中で死んでしまった。

綾音のリハビリ費用を貯めるため、私は配達の仕事を始める。

毎日、16時間走り続ける。

一円たりとも無駄に使いたくない。

生理中でさえ、生理用品を買うのを惜しむ。

安いトイレットペーパーを何重にも折りたたみ、下着に詰める。

配達中、粗い紙が何度も擦れる。

太ももの内側の皮膚は擦り切れてしまう。

血が汗に混じり、ズボンの裾へと流れていく。

しばらく走ると、私は電動バイクを路肩に停める。

しゃがみ込み、袖で血を拭う。

そしてまたバイクに跨り、配達へ戻る。

配達仲間から、どうしてそこまで必死に働くのかと聞かれる。

私は何も答えない。

毎日、日記に一行だけ書く。

【私はお姉ちゃんから両脚を奪った。だから、一生をかけて償う】

毎月、配達で稼いだお金はすべて母に振り込む。

自分の手元には、ほんの少しだけ残す。

毎日、パンだけで済ませる。

壁の時計が7時半を指す。

父が立ち上がり、玄関まで行って外を覗く。

「もう7時半か。

愛理は、いつもならこの時間には帰ってくるはずだ」

そう言って、母を見る。

「電話してみてくれ」

母はスマホを手に取り、私の番号を押す。

プルルル――プルルル――プルルル――

しばらく鳴り続けても、誰も出ない。

母が眉をひそめる。

一度切って、もう一度かけ直す。

それでも、応答はない。

母の顔に、不安の色が浮かび始める。

半月前。

私はもう、お腹の痛みに耐えられなくなっていた。

お腹を押さえながら、両親に具合が悪いと訴える。

母は綾音のためにリンゴの皮を剥いていて、顔すら上げない。

「お姉ちゃんは毎日車椅子に座ってても、痛いなんて言わないでしょう」

「また仮病を使って同情を引こうとしてるの?」

父も顔をしかめ、私を怒鳴る。

「配達したくないなら、そう言えばいいだろ。言い訳するな」

私はもう何も言えない。

歯を食いしばり、一人で近所のクリニックへ向かう。

医師は検査結果を手にすると、眉間に深い皺を寄せる。

「重度の貧血、骨盤内炎症、それから初期の胃潰瘍です。

体が限界まで消耗していますよ。

すぐに薬を飲んで治療してください。これ以上、放置してはいけません」

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