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私は旦那の愛人に血を与えるためだけの道具だった
私は旦那の愛人に血を与えるためだけの道具だった
作者: 空に浮かぶ雲

第1話

作者: 空に浮かぶ雲
「んっ……」

夜も更けた頃、寝室にあるキングサイズのベッドは乱れ、部屋には甘く濃密な余韻が漂っていた。

結婚して3年、橘遠時(たちばな えんじ)は毎晩のように橘夏美(たちばな なつみ)を抱き、執拗なまでに求め続けた。

夏美は何も身にまとわぬまま、細い腰を男の大きな手に強く抱き寄せられ、熱い吐息を肌に感じていた。

情事を終え二人が落ち着くと、遠時は何事もなかったかのようにバスローブを羽織り、振り返ることなく浴室へと消えていく。

夏美が服を着終えた直後、部屋の外で待機していたボディーガードたちが無言で入ってきて、そのまま彼女を地下室へ連れて行った。

そこには、すでに執事がいて、採血器具を用意して待っていた。「奥様、篠原様の体調が優れず、輸血が必要との電話が病院からありました」

冷たい針が夏美の血管を貫き、真っ赤な血が少しずつ体から抜き取られていく。

そして、これが遠時と夏美が結婚できた理由だった。遠時の愛する篠原晴香(しのはら はるか)は重い血液の病を患っており、夏美だけが彼女と同じ希少なRhマイナスAB型なのだ。

3年前、夏美の父親である浅倉健三(あさくら けんぞう)は母親の浅倉百合(あさくら ゆり)を盾に、夏美に政略結婚を強要した。その縁談を断ることなどできなかった夏美だが、相手が遠時だと知った瞬間だけは違い、その夜は嬉しさのあまり一睡もできなかった。

なぜなら、誰にも打ち明けたことはないが、夏美は10年前から、ずっと遠時だけを想い続けていたのだ。

18の時、夏美は健三に連れられ接待の席に赴いた。すると、年配の男たちは品定めをするような視線を夏美に向け、遠慮なく彼女の体に触れてくる。そして、夏美の初夜を買うと言うのだ。

そこには偶然、遠時も居合わせていた。男たちに囲まれた夏美を見るなり、彼は冷え切った声で言い放つ。「命が惜しくないなら、触れればいい」

それ以来、遠時は夏美の人生に差し込む一筋の光となり、彼女を暗闇から助け出してくれた存在となった。

だからこそ、彼が自分と結婚した理由が、愛ではなく、晴香への輸血を続けるためだと知っても構わなかった。

結婚してこの3年、遠時は人参が苦手な夏美のために、料理に入っていれば、それを毎回丁寧に取り除いてくれたし、出張に行けば、いつも夏美へお土産を買ってきてくれた。

ある時など、何兆円もの契約を投げ出してまで、夏美の誕生日に駆けつけてくれたことさえあった。

だから、遠時も少しは自分に愛情を持ってくれているのだと、夏美は思っていたのに……

採血を終え、真っ青な顔で携帯を手に取ると、父の健三からURLが届いていた。

そのURLを開いた途端、耳を劈くような絶叫が流れ出す。

それは、何も衣服を身につけていない母親の百合が、縄で縛られ、覆面を被った男たちに竹刀で叩かれている映像だった。

下品な怒声が響く。「200億だ!旦那の遠時さんなら工面できるだろ?もし用意できなければ、お前は母親の遺体を回収することになるからな」

ボトッと、夏美の手から携帯が落ちた。

頭を鈍器で殴られたような衝撃が夏美を襲う。携帯を拾い上げる夏美の手の関節は、力が込められ、真っ白になっていた。

この3年、健三は百合を使い、夏美から金をむしり取り続けてきたが、自分に金を出させるためだけに、まさか父親がここまで母親を痛めつけるとは思いもしなかった。

母にこのようなことをされるなら、自分が死んだ方がましだ。

採血後の立ちくらみを必死にこらえ、地下室から外へ出ると、ちょうど車に乗り込もうとしている遠時の姿が見えたので、夏美は死に物狂いで走り、彼を引き留めた。

夏美の青ざめた顔を見た遠時は、不快そうに眉をひそめる。「何か用か?」

夏美が口を開きかけた時、車の中からか細い声が聞こえた。「遠時、どうしたの?」

車の中に晴香がいると思っていなかった夏美は、ちらりと晴香に視線を向けた後、遠時に言った。「二人で話せない?」

すると、車の中にいた晴香が薄っすらと目を開けた。「遠時、どうかしたの?夏美さんに何かあった?」

晴香の声を聞いた途端、遠時の表情が優しいものに変わる。「晴香より大事なことなんてないから、俺たちはまず病院に行こう」

そう言うや否や、遠時は夏美を避け、車に乗り込もうとした。

さっきまで自分の体をあんなに求めていた遠時の目は、今や晴香以外の姿を映してはいない。

夏美は再び遠時の腕を掴む。「ねえ、私の両親を離婚させてくれるって、約束してくれたよね?」

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