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完結編・・・第四章4

last update Huling Na-update: 2025-05-09 23:01:56

   *

十月になり、美花はどんどん成長してきた。

声を出して笑うようになり、ますます可愛くなっていく。大くんの血を引いているためか音楽がすごく好きなようで音楽を流すと楽しそうにするのだ。

自分の家に戻って暮らすことになり、今日私と美花は実家を出てきた。

「いなくなると寂しいな……」

「またすぐ会いに行くし遊びにも来て」

「そうすることにする」

両親は寂しそうな顔をしていたけれど、またすぐに会いに行く約束をした。

父の車でマンションまで送ってもらって戻ってきた。

部屋に入ると久しぶりなので若干の違和感を覚えるが、映画の撮影も落ち着いたそうで今日の夜から大くんも戻ってくる。

やっと家族で過ごすことができるのだ。

美花は車の中でぐっすり眠って今もまだ熟睡中だ。ベビーベッドに寝かせると、はなのしおりをお供えコーナーにおいて、実家で持たせてもらったお菓子を添えてから、手を合わせた。

「家に戻ってきたね。これからいろんなことがあると思うけど見守っていてね」

はなの姿はどこにも見えないし、声も聞いたことはないけれど、天国から私たちのことを温かく見守ってくれているのだという確信はあった。

今日は久しぶりに大くんに手料理を振る舞おうと私はキッチンに立つ。最近は朝晩冷えてきたので温かくなる料理がいいかなと、ミネストローネと、鶏肉のグリルと、サラダを作ることにした。

夕方になり美花にお乳をあげる。

安心したような表情で美味しそうに飲んでいる。たまらなく愛おしい。

「おいちい? ゆっくり飲んでね」

飲み終えると抱き上げてゲップをさせる。

満腹になった美花は眠くなってきたのか、グズりだした。

体をゆすりながらあやしているとドアが開く音が聞こえた。

玄関から入ってきたのは、大くんだ。

「美羽、美花、ただいま」

「おかえりなさい」

「抱きしめたいところだけどウイルスがついていたら困るからまずは手洗いをしてくる」

手洗いを終えた大くんは両手を広げて私たちのことをまるごと抱きしめてくれた。

「これからはしばらく自宅で過ごすことができそうだ」

「お疲れ様でした」

「待っていてくれると思うだけで心強かった」

彼のぬくもりを感じて私も心から安堵した。

「美花、帰ってきたぞ。いい子にしてたか」

優しい声で話しかけている。

さっきまで眠そうにしていた美花は、大くんの顔を見るとニコニコと笑っている。

「パパ
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