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終曲、そして二度と
終曲、そして二度と
Author: 雨宮澪花

第1話

Author: 雨宮澪花
「やっと……私たちの関係、世間に明かすつもりなの?」

御影舟真(みかげ しゅうま)は眉をひそめ、彼女を横目で見てふっと笑った。「何を明かすんだよ?明日、うちでお見合いなんだ。お前は場を和ませる役。相手に気を遣わせないようにな」

その一言一句が、雷のように朝霧汐音(あさぎり しおん)の耳に落ちた。

心臓が止まりそうになるほどの衝撃。脳が真っ白になった。「お見合い?じゃあ、私は何?」

舟真はすでに服を身につけながら、彼女の方をちらりと見て、怠そうに言った。「お前?お前は俺のいろんな『相棒』だろ。食事の相棒、ゲームの相棒……あと、性欲処理のベッドの相棒」

その言葉に、汐音の身体は冷たくなっていく。顔からは血の気が引き、唇が小刻みに震えた。

そんな彼女の表情を見た舟真は、冗談めいた笑みを浮かべたまま、顔を近づけた。「まさか、汐音、お前、俺たちが恋人同士だとでも思ってたのか?」

その軽い口調が、鋭い刃のように汐音の心を貫いた。

鼻の奥がつんと痛んだが、必死にこらえて微笑みを作った。「そんなわけ、ないじゃん……ちょっと、シャワー浴びてくるね」

汐音はふらふらと立ち上がり、足元のおぼつかないまま浴室へと消えていった。

扉を閉めた瞬間、全身から力が抜けて、その場に崩れ落ちた。

舟真の言葉が、耳の奥にこびりついて、何度も何度も胸を締めつけた。彼に刻まれた無数の痕跡を見つめながら、涙が止まらなくなった。

二人は、二十年以上の付き合いだった。同じミルクを飲み、同じ漫画を読み、同じ夢を語った。

十八の夜、酔った勢いで一度身体を重ねてしまってから──それから先は、何度も、何度も……終わりなんて来なかった。

夜はただひたすらに身体を重ね、昼は何食わぬ顔で恋人のように手を繋ぎ歩き、年越しには当たり前のようにキスをして、毎晩、眠るまで他愛のない話を電話で交わしていた。

汐音は信じていた。私たちはもう付き合ってる、ただ公表していないだけだと。

でも舟真はそうではなかった。

彼の一言で、汐音の世界は崩れ落ちた。喉の奥から嗚咽が漏れそうになり、水を最大に出してやっと声を上げて泣くことができた。

どれだけ泣いたか分からない。ようやく涙が枯れた頃、気持ちを整えて浴室を出ると、舟真はすでに服を着てソファで電話をしていた。

「明日は人数多いから、大きめの個室。相手はあっさり系の味が好きだから京料理で。ケーキはブラックフォレスト、花は白とピンクのバラ。

準備できたら写真送って。あと、黒のスーツ十数着用意しといて。帰ったら選ぶから。宜野は黒しか好まないからな」

その名前を聞いた瞬間、汐音の心が大きく揺れた。

思わず目を向けると、舟真は口元に甘い笑みを浮かべていた。

宜野?彼のお見合い相手はあの綾瀬宜野(あやせ ぎの)?

その名を聞いて、汐音は全てを悟った。

高校の頃、舟真は宜野に恋をしていた。毎日彼女の名前を何十回も口にしていた。

けれど、想いを伝える前に彼女は海外へ留学してしまった。

それ以降、舟真は宜野の話を一度もしていなかった。

汐音はてっきり、彼がもう忘れたのだと思っていた。

でも、そうじゃなかった。彼の中で、宜野はずっと、初恋のまま生き続けていた。

胸を締め付ける痛みに、手に持っていたスマホを落としそうになった。

「ガンッ!」物音に舟真が振り返り、にこにこと笑いながら言った。「もう上がった?じゃあ、チェックアウトよろしく。代は払ってあるし」

そう言って、上着を手に立ち上がり、部屋を出ようとしたが、ふと振り返って汐音を見た。その目は、どこまでも残酷で、どこまでも無邪気だった。

「汐音、俺はずっとお前を兄弟だと思って接してたよ。そんな絶望的な顔、俺の前で見せるなよ。変な誤解しちゃうだろ?

俺はお前のこと、全部分かってる。一目見れば何を考えてるかすぐに分かるし、そんなの、つまんなくない?もし恋人になったら、すぐに飽きるに決まってるじゃん」

彼の足音が遠ざかっても、その声は、ずっと汐音の胸に残っていた。

冷え切ったベッドに腰を下ろし、彼女はぽつりと笑った。笑って、笑って——やがて、涙に変わった。

舟真は、ずっと、こんな風に思ってたんだ。

その夜、彼女は一人で夜更けまで座り込み、ようやく重たい足を動かしてホテルを出た。

外は土砂降りだったが、濡れていることすら気づけないほど心は空っぽだった。帰宅すると、朝霧家の両親はびしょ濡れの娘を見て慌ててタオルを差し出した。「なんでこんな雨の中、タクシー使わなかったの?」

汐音は虚ろな瞳で二人を見つめ、かすれた声で言った。

「パパ、ママ。前に言ってたでしょ、会社の都合で海外移住の話。私、もう決めた。移住しよう。二度とここには戻らない」

半年もの間、何を言っても首を縦に振らなかった娘が——あまりの急展開に、朝霧家の両親は思わず顔を見合わせた。驚きながらも、その決意が心から嬉しかった。

「本当に吹っ切れたのか?あの彼氏とはもう別れたんだな?」

汐音は、舟真の言葉を思い出し、胸がきゅっと締め付けられた。乾いた笑みを浮かべ、首を横に振った。

「彼氏なんて、最初からいなかったの。結婚のプレッシャーを避けるために、嘘ついてただけ」

どこまで本気なのか分からないけど、朝霧家の両親はそれでも素直に喜んで、さっそく移住の手続きを進めながら、汐音に荷造りを急かしていた。

汐音は自室に戻ると、舟真にまつわる全てのものを処分した。

十年以上かけて大切にしてきたアルバム、彼から贈られた宝石や服、小物——一つ残らずゴミ箱へ。

「お嬢さま、こんなに高価なもの、全部捨てるんですか?」

家政婦が惜しそうに言うのに対して、汐音は微笑んで頷いた。

「いらないの」

物だけじゃない。この想いも、この男も、もう何もかも——いらないのだ。

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