第1066話

先生は笑って言った。「あら、麻耶ちゃんのお父様でしたか。どうりで。ご家族皆さん、本当に整ったお顔立ちですものね」

佑くんは結翔に向かって、いたずらっぽく笑った。「おじさん、これ、僕が言ったんじゃないからね。先生が言ったんだからね」

結翔は笑って佑くんの頭をこつんと叩いた。彼は特に何も説明せず、笑いながら言う。

「妹をちゃんと連れて、早く中に入りな。先生の言うことを聞いて、騒ぐんじゃないぞ。分かったな？」

佑くんはすぐに麻耶の小さな手を引き、まるでお兄ちゃんのように言った。

「麻耶ちゃん、これからはお兄ちゃんが守ってあげるから。もう誰も、君をいじめたりしないからね」

そう言うと、二人の子供は手を繋いで、先生と一緒に教室へ入って行った。

二人が去っていく後ろ姿を見つめ、智哉は意味深な視線を結翔に向けた。そして、彼の耳元に顔を寄せ、笑いながら囁いた。

「お義兄さん、昨日はよく眠れたかい？」

結翔は、彼がよからぬ想像をしていると分かり、すぐに彼を睨みつけた。

「お前みたいに、ゲスな考えはしてない。病院に付き添ってやっただけだ」

智哉は眉を片方上げた。

「ただ、お義兄さんの目の下にクマができてたから、心配しただけだよ。別に深い意味はないのに、まさか誤解されるとは」

彼は何度も何度も「お義兄さん」と呼び続け、結翔は全身に鳥肌が立つのを感じた。

普段、呼んでほしい時には、ちっとも素直じゃないくせに。

結翔は腹立ちまぎれに智哉の腰をつねった。

「いい加減なことばかり言ってると、妹に頼んで、お前と離婚させるぞ」

智哉は低く笑った。

「お前の妹が言うことを聞くとでも？彼女は俺の妻だ。お前より、俺の方を少しは多く愛してくれてるさ。お前も、早く嫁さんを見つければ、こういう幸せな日々がどんなものか分かるよ」

そう言うと、彼は結翔に手を振り、笑いながら言った。

「じゃあな。俺は晴貴と芽依を注射に連れて行かないと」

その得意げな後ろ姿を見つめ、結翔は思わず「クソが」と悪態をついた。

それから、彼はそばにいる花穂に向き直って言った。「行こう。君を送っていく」

花穂は首を横に振った。

「いいえ、大丈夫です。これから会社に辞表を出しに行きます。この近所ですので。明日の朝一番で、必ず出社いたします」

結翔は眉をひそめて彼女を見た。「手伝おうか？」

「結