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第536話

Penulis: 藤原 白乃介
双方の専門医たちは話し合いを重ねた末、まずは子供を救うことを決断した。

佳奈の怪我は命に関わるものではなかった。

だが、赤ちゃんを今すぐ取り出さなければ、命の保証はできない状態だった。

手術が始まって四十分後、赤ちゃんが取り出された。

その小さな命を初めて目にした瞬間、智哉の頬に再び涙がこぼれ落ちた。

医師の腕の中に抱かれた、小さくて儚い存在。

その小さな身体は目を閉じ、眉間に深い皺を寄せている。

まるで苦しんでいるかのようだった。

智哉は慌てて声を上げた。

「赤ちゃんは……どうなんだ?」

産婦人科医が答えた。

「まだ何とも……これから救命処置をして様子を見ます」

智哉の両拳は強く握りしめられ、首筋の血管が浮き上がる。

張り詰めた心は、深い闇の底を彷徨うように、どこにも光を見いだせなかった。

さらに一時間が過ぎた。

知らせが届いた。

赤ちゃんは助かった、と。

だが未熟児のため、保育器に入れられることになった。

佳奈は肋骨を二本折り、大量出血の影響で今も意識が戻らない。

そして清司は、頭部への重傷により、植物状態になる可能性が高いという。

その報告を聞いた瞬間、智哉は魂が抜けたように、椅子に座り込んだ。

佳奈は助かった。赤ちゃんも助かった。

けれど、佳奈が一番大切にしている父親が、もう目を覚まさないかもしれない。

智哉の心に、どうしようもない痛みが広がった。

佳奈は、彼と一緒にいるために、命を落としかけた。

赤ちゃんも失いかけた。

そして彼女の父親まで、こんなことに……。

どれだけ自分に言い訳をしても、目の前の現実は変わらなかった。

智哉は、佳奈に傷しか与えられなかった。

高橋家の問題で、母親を亡くし、幼い頃に家を追われた佳奈。

玲子や美桜に何度も陥れられ、心も体も深く傷つけられた佳奈。

何度も命を狙われ、ようやく幸せをつかめると思った矢先の、この惨劇。

すべて、自分が原因だった。

もし自分と一緒にならなければ、佳奈の人生は違ったのではないか。

もしあの時、父の言葉に従い、佳奈を手放していれば、こんな悲劇は起きなかったのではないか。

「愛してる」と口にしながら、結局自分は彼女を不幸にしていた。

智哉は両手で頭を抱え、胸が張り裂けそうな痛みに耐えた。

呼吸すら苦しい。

――手放すことが、佳奈と赤
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