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第690話

Auteur: 藤原 白乃介
上の名前を一瞥して、唇の端が意地の悪い笑みを描いた。

そして、自分の部屋へと歩いていった。

全てのゲストが揃い、生配信もまもなく始まる。

最初のコーナーは「ときめきギフト」

4人の男性ゲストがそれぞれプレゼントを用意し、女性ゲストがその中から一つを選ぶ。どのプレゼントに心が動いたかによって、初デートの相手が決まるという仕組みだ。

知里はくじ引きで三番目の選択権を引き当てた。残っていたのは一本のリップと、一枚のスケッチブック。そこには、少女の後ろ姿が描かれていた。

彼女は誠健が絵なんて描けるわけがないと確信して、迷わずそのスケッチブックを手に取った。

監督が教えてくれたのは、それが四番目の男性ゲストのプレゼントだということ。そしてデート場所は、リゾート地にある観覧車。

その瞬間、知里の脳裏にある記憶が蘇った。以前、誠健と観覧車でデートする予定だったのに、あのクソ男は美琴に誘われてドタキャンしたのだ。

その夜、知里は酔い潰れてしまい、誠健とわけもわからず一晩を共にしてしまった。

思い出すだけで、気分が悪くなる。

だからこそ、今回はちゃんとしたデートをして、あの時の後悔を取り戻したいと思っていた。

知里は丁寧に身支度を整え、清楚なワンピースを選んだ。淡いブラウンの巻き髪も綺麗にセットし、今季の新作リップを唇にひく。

清純さと色気を兼ね備えたその姿に、配信を見ているファンたちは歓声を上げた。

彼女はスケッチブックを手に、観覧車の前へと足を運んだ。

このリゾート地は番組のために貸し切られており、観覧車には他の客はおらず、彼女一人だけがその下に立って空を見上げていた。

ふと、誰かに言われた言葉が頭をよぎる。

――観覧車が一番高いところに達した瞬間にキスすると、その二人は永遠に結ばれるんだって。

思わず、知里は鼻で笑った。

永遠なんて、どこにあるっていうの。

計画なんて、いつだって変化には勝てない。

あの佳奈と智哉でさえ、あんなに仲が良かったのに、結局は二年も離れてしまった。

そんなことを考えながら空を見上げていると、背後から聞き覚えのある、そして耳障りな声が響いた。

「知里、俺のこと考えてた?」

その声を聞いた瞬間、知里は勢いよく振り返った。

そこには、誠健がいつものチャラい笑みを浮かべながら歩いてくる姿があった。

信じられな
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