LOGINかつて裕福な家の令嬢だった香坂花 26 は、すべてを失ったある日、断れない見合いをすることになる。 相手は恐ろしいほどのオーラを放つ、色気ある男性、鈴里大雅 30 。 世界を股にかける大スターなのに、花に婚姻届を突き出し、その日のうちに身も心も奪い、2人は夫婦になった。 やがて大雅の住む家に引っ越した花。 そこで信じられないものを見つけ、大スターが自分のような一般人(しかも相当貧乏)と結婚した本当の理由を理解する。 誤解と、実は悲しい真実を隠し、妻となり家族になってゆく花を溺愛するようになる大雅だが、隠された秘密を知った花は。 大スターと苦労を知りすぎた落ちこぼれ令嬢の、時に笑い、時に泣く、訳ありすぎる恋愛物語。
View More「俺、家庭があるんですよ。……それなのに歩美、子供を産んじゃったわけで、」「自分に責任はないと?」「そうは言いませんけど、事故で怪我をしたことについては咎めませんから……その、」子供を引き取る気はない、ということ……昨夜、姉の部屋で見つけた婚姻届を見たことが脳裏をよぎり、拳をギュッと固めた。「俺には可愛い子供がいるんです。……もう大きくなっちゃったけど、娘はいまだに可愛くて、」和成は知っていたようなことを言うが、姉は既婚者であることを知らなかったのだろう。だからこそ子供を産み、婚姻届に自分の名前を書いて、そっと保管していた……怒りが溢れ返って言葉が出ない。それでも何か言ってやろうと口を開いた瞬間、病室に看護師と医師が入ってきた。……結局その日はもう面会を許されず、怒りは矛先を失って俺の中にくすぶり続けた。そして翌日、再び病室を訪ねると、ベッドが片付けられているという状況に唖然とする。「……前日に入院費を精算して、夜のうちに病室を抜け出したらしいです」治す気のない患者を追う義務もないわけで……病院には、はるきという子供だけが残った。「俺が連れて帰る」未成年後見人の手続きを取り、春希と一緒に暮らすことになった。母子手帳によると、春希は1歳。すくすくと育つ姿に目を細めながら、認知もせずに逃げ出した香坂和成という男を、俺は許せずにいた。探し出してその責任を取らせ、社会的に抹殺する……そんな思いを抱きながらその行方を追っていたのだ。「……香坂、花?」「和成の娘です。20代で、小さな出版社に勤めていることはわかりましたが……」娘か……和成が可愛いと漏らしていた言葉を思い出した。「ちょっと調べてほしい。俺とつながる何か、ないかな……」「大雅さん、それは……」「話してみたいだけだよ。父親の行方とか知ってるかもしれないしさ」心配そうな権堂に、この時俺は、本心を言わなかった。20代の娘なら、俺を確実に知っている。あのVÉLOURSのボーカルである俺に会ったら、平常心でいられないだろう。「和成が可愛いがっている娘に子供を作って、同じように捨ててやるとか……」姉と同じ目に合わせる。それとも……「結婚して逃げられないようにして、春希に会わせる。……それが父親の子供だと知ったら、さすがに居場所を吐くだろう」胸に渦巻く黒い感情で、あの
「……はい、カーットっ!」助監督の声でハッと我に返った。胸ぐらをつかんだ状態で、ヒロイン役の花園ミミを見下ろす。「大雅さん、迫真の演技で素晴らしいんだけど……ミミちゃんが振り回されてるから、少し力を抜いてやって」「あ、すみません」演技に集中できないと、つい力が入ってしまうのは俺の悪い癖だ……胸ぐらを離し、助監督とミミ、両方に向けて謝罪した。「権堂さんに聞いたよ?……探してた人、見つかったんだって?」「本人じゃない。……その娘」「おびき寄せる道具にするつもりでしょ。うまく引っかかるといいけどね」撮影の合間、わずかな休憩時間にミミに話しかけられた。彼女は、2年前の事故を知る数少ないうちの1人。……詳しい事情までを知るのは、彼女と権堂の2人だけだ。「おびき寄せるのは、無理そうだな。今どき携帯を持ってないんだから」2年前、信じられない知らせを受けたのは、こんな風に撮影の合間で休憩をしている時だった。それは後に俺の代表作となる日韓合同映画「境界線のレクイエム」の撮影で海外ロケをしていた時のこと。「……大雅さん、携帯が何度も鳴っています。確認しますか?」権堂が手渡した携帯に表示されたのは、知らない番号からの着信。「……もしもし」「町蔵警察署の松本と申します。鈴里大雅さんの携帯で間違いありませんか?」はい……と返事をすると、信じられない情報が耳に流れてきて言葉を失った。「鈴里歩美さんが運転する車が事故を起こしまして、本人と同乗者2名が救急搬送されました」鈴里歩美は、5歳年上の姉……早くに両親を亡くした俺にとって唯一の家族だ。携帯を取り落とし、呆然とする俺の代わりに権堂が細かい事情を聞き、一旦撮影を離れることになった。たくさんの人間が関わる撮影に穴をあけるなんて、後にも先にもこの時だけ。少々の怪我や体調の異変くらいなら、歯を食いしばってステージをこなし、撮影に挑んできた。だがこの時だけは、ダメだった……「大雅……ごめんね、大事な時に、」病院に到着した時、姉は痛々しく包帯を巻かれた姿で……それは油断ならない状態だと一目でわかった。「子供が、いるの。はるきって、いうの。……好きな人と、結婚の……約束を、」「姉さん、母親になってたのか?なんで教えてくれなかったんだよ、バカだな……」「幸せに、なりたかったよ……」まさに、虫の息…
「はなちゃ〜ん!おうまさんのほんよんでぇ」「あ……わかったよ!」週刊誌の表紙にギリギリまで目をやり、笑顔の2人を脳裏に焼き付ける。女性の方が誰なのかわからない……今日からテレビをつけて、少し情報を入れないとダメだわ。私、何も知らなすぎる……子供に絵本を読み聞かせるスペースには、春希と同じくらいの子供とお母さんらしき人が何組かいた。自分も母親に見えるかな、なんて、妙にくすぐったい気持ちを抱えながら春希を膝に乗せる。「……お馬さんのお母さんは『ヒヒィ〜ン』と笑って、赤ちゃん馬を背中に乗せ、パッカパッカと歩き出した」続きを読もうとして、ふと春希を見ると、いつの間にかウトウトしている。昨夜は早めに大雅さんと横になってぐっすり眠ったと思ったのに、まだ眠いのか……「おうまさん、おわっちゃった?」しばらくユラユラしながら寝かせていたが、ハッとして起き出す春希。「昨日春くん眠れなかったの?たいがー、寝相悪かった?」いたずらっぽく聞いてみれば、春希は意外なことを言う。「たいがーずうっとモゾモゾしてたの」よくよく聞いてみれば、何度も寝返りを打っていた、ということらしい。ふと、さっき見てしまった週刊誌が思い浮かんだ。……女優との密会を撮られ、揉み消せなくて事務所に責められたとか。芸能人はスキャンダルが原因でCM契約を打ち切られたり、下手をすれば違約金が発生すると、以前瑠璃に聞いた事がある。「私との結婚だって、もしもバレたら……」世間に公表しないのは私のためなんて言っていたけど、やっぱりどう考えても困るのは大雅の方だ。春希は花の膝から降りて、読み聞かせ用の絵本を自分で開いて覗き込んでいる。その姿を見守りながら、花の思考はまた、さっき目にした週刊誌に戻ってしまう。密会する恋人がいるのに結婚なんかして……大雅さんはいったい何を考えているんだろう。「春希くんのこと、恋人さんは知ってるのかしら」というより、春希のことを公表していないなんて、まるで存在を否定されてるみたいで。「鬼ムカつく……」近いうち意見してやろう。そう心に決めたところで、ハッと思い出した。「そういえば権堂さん、どこにいるんだろう」こういうとき携帯を持っていない不便さを思い知る……大きなショッピングモールの中、権堂さんを見つけるのは大変そうだ。ところが権堂は、車のトラン
「花さん、お待たせしました……!」「おはようございます、権堂さん。……それではタッチ交代ということでよろしいですか?」「はい!大丈夫です。駅まで送れたら良かったのですが」翌朝、大雅の言葉通り権堂がやってきた。リビングのドアを開けた途端、喜び勇んで駆けつけた春希。早速大きな体によじ登っているところを見ると、相当懐いているのだろう。「いえ、歩けるので大丈夫です!それでは行ってまいります」春希を置いていく罪悪感も薄れ、昨夜丁寧に書いた退職願いを持って家を出た。駅までの道を歩きながら、花は昨夜のとんでもないハプニングを思い出す。バッチリ裸体を見られてしまった……「とんでもなく恥ずかしいけど、驚かせたお詫びで謝ったのにな……」昨夜、ハラリと落ちたバスタオルを慌てて巻き直し、逃げるように寝室を出たものの、どこで寝たらいいか聞き忘れてまたリビングのソファで寝た。翌朝起きてきた大雅に気づいて、すぐに昨夜のことを謝った。「あの、昨夜は変なものを晒してしまい、すみませんでした」悪夢は見ませんでしたか?……と、ちょっとジョークを入れつつ笑いにくるんで忘れて欲しかったのに。「俺は何も見ていない」ハッキリと不機嫌な声、そして表情が、声をかけられた不快を表していた。朝は機嫌が悪い、という人は一定数存在する。……大雅もそういうタイプか。芸能人だし激務だろうしプライベートないし、朝の機嫌が悪いのは仕方がない。「だからぁ、急にこんなものを持ってきて辞めさせてくれって……話が通らないだろ?」「はい。……そこで、私の代わりに入社してくれるスタッフを手配をしました。必要であれば今すぐ紹介しますが」急な退職で社長にごねられたらそう言うように伝えてくれたのは権堂だ。……ということは、きっと大雅さんの指示。「私とまったく同じ条件で働けるスタッフですが、どうしますか?」迅速な対応策を持ってきた花に、文句をつけられなくなって、社長は黙り込む。「……いらないよ花ちゃん。社長はゴネたいだけだから!」苦虫を噛み潰したような表情で拳を握る社長を見かねて、ベテラン社員が口を挟んだ。「そうよ!花ちゃんが抜けても私たちだけで十分回るわ。……先代も少し人件費を見直せってこの前言ってたしね?」「え、父さんが?……そうなの?」「やだ!……社長に言わないで私たちに言うなんて、樹木也