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第737話

Author: 藤原 白乃介
誠健は不満そうな顔を浮かべながら、知里にぴったりと体を擦り寄せてきた。

そのせいで、知里は全身がムズムズして、居心地が悪くてたまらなかった。

彼の言外の意味なんて、知里に分からないはずがない。

このクソ男、どう見てもこの機に乗じて下ネタをぶっこんできてる。

彼女はムカッときて、誠健を睨みつけた。

「誠健、ちゃんとしゃべれっての!気持ち悪くて鳥肌立ったわ!」

すると誠健は、さっきまでの甘ったるい態度をピタッと止め、いつものチャラけた雰囲気に戻った。

「ほらな、結局お前が好きなのは、今の俺ってことだろ?知里、いつか絶対、君を俺に夢中にさせてやるよ」

知里は鼻で笑った。

「世界が終わったって、無理だから」

「まあ見てな。最後に勝つのは、君の口の硬さか、俺のアレの硬さか……」

いきなりの下ネタ全開に、知里の頬は一気に真っ赤になった。

このクソ男、ほんとに恥も外聞もない。しかも今の彼女は手術したばかりで、まともにやり合えない。

知里は顔を布団に埋め、もう何も言いたくなかった。

そんな彼女の様子を見て、いつもは強気な直球娘が今は黙り込んでるのが面白いのか、誠健はニヤッと口元を歪めた。

「怖がんなって。ちょっと硬いくらいのが、気持ちいいんだろ?」

知里は布団の中で歯ぎしりしながら、怒鳴った。

「消えろ!」

そして目を閉じて、これ以上このクソ男と話す気力も失せていた。

一方その頃。

佳奈が目を覚ましたのは、もう昼近くだった。

体中がバキバキに痛くて、まるで全身が筋肉痛だった。

昨夜、彼女と智哉は完全に暴走していた。

新しい場所、新しい体位……あまりの激しさに、さすがの佳奈もついていけなかった。

ベッドから起き上がろうとしたその瞬間、自分が全裸だと気づいて一瞬フリーズ。

ちょうどその時、智哉が部屋に入ってきた。

彼は佳奈の目が覚めたのを見て、ニコッと微笑み、彼女の額にキスを落とした。

「まだ疲れてる?」

佳奈は彼の胸に顔を埋めて、コクリと頷いた。

「智哉……ちょっと控えめにしないと……」

智哉は低く笑いながら言った。

「それは高橋夫人があまりに魅力的だから、我慢できなかっただけ。次はちゃんと気をつけるよ」

失って、また手に入れた幸福。

佳奈はその現実が夢のようで、ふわふわした気持ちだった。

白くて柔らかい手で、智哉の
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