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第2話

Author: 匿名
点滴が終わると、私はベッドから降りて医療費を払い、そのまま病院を後にした。

海沿いの風は体に冷たく突き刺さり、思わず身震いをした。

タクシーを呼ぼうとしたその時、目の前にマセラティが止まった。

派手な赤色は、俊輔のお気に入りだ。

助手席の窓がゆっくりと開き、人当たりのよさそうな笑みを浮かべた、萌香の顔が現れた。

彼女は笑顔のまま挨拶をしてきた。「梨乃さん!ちょうど直美さんが私と買い物に行きたいとおっしゃったから、俊輔くんが私を乗せてくれたの」

桐谷直美(きりたに なおみ)は、俊輔の母親だ。

直美は萌香を溺愛しており、俊輔と私が結婚して8年経っても、まだ萌香を桐谷家の嫁にしたがっていた。

桐谷家で私に親しく接してくれるのは裕貴だけで、それ以外の人間はみんな冷たい目を向けてくるのだ。

最初は落ち込んでいたが、今ではどうでもよくなった。

俊輔は私を嫌そうに見やり、「早く乗れ。時間を無駄にするな」と言った。

萌香が後部座席に移動する気配も全くなかった。

私はその場から一歩も動かなかった。

私が動かないのを見て、萌香は首を傾げ、平然とした様子でこう言った。「梨乃さん、後部座席に座ってくれない?ちょうど今、俊輔くんと会社の件で打ち合わせをしなくちゃいけないの。ごめんなさいね」

私は萌香を冷ややかに見下ろした。「副社長である私じゃなくて、ただのモデルであるあなたと会社の話をするの?」

萌香はすぐに顔を引きつらせた。

俊輔も苛立った様子でサングラスを外し、私を睨みつけた。「梨乃、いい加減にしろ。俺たちはわざわざ迎えに来てやってるんだぞ。その態度は何だ」

隣で萌香が笑顔を作って言った。

「梨乃さん、私たちはもう長い付き合いなのに、どうしてまだ私のことが気に食わないの?もし私が俊輔くんと一緒になりたかったら、もうとっくにそうしているでしょ?」

私は萌香をじっと見たが、何も言わなかった。

当時、萌香と俊輔が別れたのは、彼女の素行に問題があったからだ。

そして裕貴は、そんな人間が大嫌いなのだ。

裕貴と私は、萌香がどのような下劣な人間なのか分かっていた。

あいにく、俊輔だけがそれを理解していないのだ。

私は一歩後ろへ下がり、車から距離を置いた。「迎えはいらないわ。タクシーに乗って帰るから」

俊輔が眉間にしわを寄せた。「梨乃、またなにか企んでるのか?おじいさんが俺がお前を一人で帰らせたことを知ったら、絶対に怒るだろ」

「それは私には関係ないでしょう?」

そう言い放ち、私は二人を振り返ることなく、タクシーを捕まえて帰路についた。

桐谷家に戻ると、直美が、私と俊輔の息子・桐谷陽太(きりたに ようた)を連れて現れた。

陽太は私に見向きもせず、一直線に俊輔と萌香のもとへ駆け寄った。

「パパ!萌香さん!やっと帰ってきた。遊び相手がいなくて退屈だったよ」

私は眉をひそめ、陽太に向かって真剣に言った。「陽太。ママには挨拶しないの?」

陽太は私を振り返ると、鼻で笑った。「ママなんていらないよ。パパが離婚して萌香さんと結婚したら、萌香さんが僕のママになるんだ」

私は怒りで胸が苦しくなった。

陽太は生まれてすぐに桐谷家に引き取られたので、私とは滅多に顔を合わせていなかった。

私が会いたくなかったのではない。直美が、頑なに会わせようとしなかったからだ。

俊輔は、これが桐谷家の子育ての方針だと私に教えた。

だが後から分かった。直美はただ、私が陽太と親しくなることを避けていただけだったのだ。

その代わり、頻繁に萌香と俊輔に、陽太を連れて遊びに出かけるよう仕向けていた。

さらに、私の悪い噂を陽太に吹き込み、私を最低な母親だと思い込ませていたのだ。

今となっては、陽太にとって私よりも萌香の方がずっと身近な存在になっている。

あれほど大切にお腹の中で育て、命がけで産んだというのに、この仕打ちだ。

胸が痛んだが、今の私にはどうすることもできない。

直美は面倒くさそうに私を一瞥した。「いい加減にしてちょうだい。帰ってきてすぐに子どもに八つ当たりするの?ずっと陽太くんの面倒を見ていたのは萌香ちゃんだし、あなたは母親としてこの子に何かしたことはあるの?」

私が何を言っても、この人たちには言い訳にしか聞こえないのだろう。

私から子どもを奪っておいて、後から母親として失格だと言い張る。あまりに理不尽だ。

萌香はすぐに取り繕った。「梨乃さんもお忙しいでしょうし。私には時間があるから、大丈夫ですよ」

直美は萌香の手を握り、こう言った。「萌香ちゃんは人気モデルなのに、毎日ちゃんと陽太くんの面倒を見てくれるわ。梨乃、感謝しなさい」

萌香は直美に寄り添って甘えた。「陽太くんを本当の息子だと思っているから、当然のことですよ」

私は4人の姿を眺めた。

どう見ても彼らこそが本当の家族であり、私はただの他人だ。

彼らを無視して、私はそのまま部屋の奥へ歩いていった。

すると、直美は私の背中に向かって罵声を浴びせ、萌香はそんな直美を甲斐甲斐しくなだめていた。

私は俊輔の部屋へ行き、直美が以前から用意していた離婚届と離婚協議書を取り出した。

直美がとっくに俊輔のサインまで終わらせた書類を準備しているのは知っていた。

離婚協議書の財産分与は妥当な内容だったが、親権は俊輔が持つことになっていた。

親権のために離婚を躊躇していたが、今日になってようやく、私は吹っ切れた。

未練はない。

このクズ男も、もういらない。

他の女を母親にしたがる子どもの親権なんて、もういらない。

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