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第510話

Auteur: 青葉凛
「ん?……もしかして、まだお昼食べてないのか?」浩一は蘭の座るデスクの上の山積みの資料に目をやり、時計を確認して眉をひそめた。

「もうこんな時間じゃないか。いくら忙しいからって、それはダメだよ。紫音が不在でみんなの負担が増えてるのは分かるけど、自分の体を壊しちゃ元も子もない」

本気で心配しているらしい彼の言葉に、蘭は少しだけ胸が熱くなるのを感じた。

「大丈夫です、塚山さん。まだそんなにお腹も空いてませんし……ここさえ片付いたら何か食べに行きますから、お気になさらず」不意の優しさに心を揺らされながらも、蘭は努めて冷静に返した。

少し前なら、こうして彼に気遣われるだけで舞い上がっていただろう。けれど、もうあの頃のような自分には戻らないと決めている。住む世界が違う彼との間に、夢を見るのはもう終わりにしたのだから。

これからはあくまで、大事な取引先の相手であり、それ以上でも以下でもない。互いの立場を弁えた、良きビジネスパートナーとして付き合っていくべきなのだ。

「ちょうど俺もまだ昼メシ食ってないんだ。一緒に食べに行こう」しかし、浩一は蘭の遠慮を意に介さず、強引に誘ってきた。

「仕
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    「母さんが許してくれるなら、あいつをこっちへ連れ帰りたい。紫音の言う通り、ここなら医療水準も高いし、少しでも早く適切な治療を受けさせてやれるから」州は琴音の目を真っ直ぐに見つめ返し、ぽつりぽつりと本音をこぼし始めた。「あいつは……これまでずっと、一人で過酷な運命に耐えてきたんだ。あんなむごい目に遭って、俺だったらとっくに心が折れていてもおかしくないのに、一人で必死に前を向いて生きてきた。それなのに、こんな病魔にまで襲われるなんて、いくらなんでも過酷すぎる」胸の奥を抉られるような痛みが、その声に滲んでいた。「俺がどんなに手を差し伸べても、あいつは拒むんだ。俺の人生の重荷になりたくない、俺にはもっと幸せで平穏な未来を歩んでほしいからって……何度も何度も。それでも、俺はあいつを切り捨てることなんて絶対にできない。だから、一度だけ俺のわがままを許してほしい。どうしても、家族に背中を押してもらいたかったんだ」感情的になることなく、ただひたすらに真摯な態度で想いを打ち明ける州。彼が急遽家に戻ってきたのは、真正面から向き合って腹を割って話すことで、母親の不安を少しでも和らげたかったからだ。その痛切な祈りを聞いて、琴音はついに大きく息をついた。「……分かったわ。息子にそこまで頭を下げられては、お母さんもこれ以上反対なんてできないわね」そこにはもう、先ほどまでの刺々しい態度はなかった。「あんなにきつく言ったのも、ただあなたに苦労してほしくない、幸せになってほしいって願う親心だったのよ。でも、もう強要はしないわ」琴音は少し潤んだ目で、息子の頬の痩け具合を痛ましそうに見つめた。「ただ、これだけは約束して。自分の体もしっかり労わること。ここ数日だけで見違えるほどやつれてしまって……そんな姿を見せられたら、お母さん心配で生きた心地がしないわ」「あなたが報われないまま、ただボロボロになっていく姿なんて絶対に見たくないの。……だから、やるからには、後悔しないように精一杯やってきなさい」最大の難関だった母親の承諾を得た瞬間、州の胸を塞いでいた重い岩がふっと消え去った。「母さん……ありがとう」わだかまりが解け、これから先の困難にも立ち向かっていける強い活力が凄まじい勢いで込み上げてくる。本当に、思い切って帰ってきてよかった……重

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