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第7話

Auteur: ピーチウーロン
翌朝、穂花は早起きして、荷造りを始めた。

鏡湖はちょうど夏の季節だったので、日焼け止めなどの対策グッズを多く詰め込んだ。

穂花が荷造りを終えた直後、徹が慌ただしく駆け込んできて、申し訳なさそうな顔で言った。「穂花、ごめん、急な仕事が入ってしまったんだ。先に鏡湖へ行ってくれないか?こっちが片付いたら、すぐに向かうから」

徹の会社の海外支店が立ち上がったばかりで、彼が判断を下さなければならないことが山積みだと、穂花は知っていた。

午後2時の飛行機まで、まだ時間はあった。

【じゃあ、徹の方が片付いてから、一緒に行くわ】

徹は安心したように笑った。「穂花、わかってくれて助かるよ。できるだけ早く終わらせるから」

徹が出て行ったあと、穂花は12時を過ぎても彼の帰りを待ち続けたが、彼は戻ってこなかった。

何度か電話をかけてみたが、応答はなかった。

搭乗時間が迫っていたので、穂花は会社へ向かうことにした。

週末のビル内はひっそりとしていた。エレベーターに乗った瞬間、頭上で警報音が響き渡った。

火災報知器が鳴り、エレベーターの扉が閉まったかと思った途端、エレベーター内の照明がすべて落ちた。

一瞬で、穂花は暗闇に呑み込まれた。

彼女には幼い頃から閉所恐怖症があり、暗闇がひどく苦手だった。まるで水から引き上げられた魚のように、息ができなくなる感覚に襲われた。

穂花は膝をついたまま這うようにしてエレベーターの扉へ向かい、震える指で唯一光っている赤い非常ボタンを必死に押し続けた。

しかし、何十秒経っても応答がない。穂花は震える手でスマホを取り出し、徹に電話をかけようとした。

電話がつながると、コール音が繰り返し鳴り続けるだけで、徹は一向に出なかった。

穂花はスマホを握る指に冷や汗を滲ませながら、必死に祈るように呟いた。「お願いだから電話に出て……徹、どこで何してるの?お願いだから、早く出て、怖いよ……」

通話が切れかけたその時だった、ようやく電話がつながった。

しかし、穂花が言葉を発するより早く、暗いエレベーター内に美優の妖艶な声が響いた。

「徹、さっきのはやりすぎよ、火災報知器まで押しちゃって。

ビル中の人がみんな逃げ出して大騒ぎになってるわよ。どう収拾つけるつもり?」

徹は鼻で笑った。「一番楽しんでたのはお前だろ?」

残業など嘘で、徹は美優とただ一緒にいただけだったのだ。

どれほど刺激的なことをしていたのだろうか、すべてを忘れ、警報まで鳴らして、ビル中の人々を混乱させるほどだったのだろう。

知っていたはずなのに、耳にしてしまえば、胸の奥が容赦なく締めつけられる。

穂花は思った。いっそ、この心臓ごと取り出してしまえたなら、もう何も感じずに済むのに。

穂花はその場にうずくまり、自分の腕をきつく抱きしめたまま動けなかった。電話を切る力さえ残っておらず、意識は次第に遠のいていった。

徹と美優が何かを言い合う声をどこか遠くに聞きながら、穂花の意識はそのまま途切れた。

目が覚めると、視界に飛び込んできたのは、徹の心配そうな表情だった。

徹は穂花を抱きしめた。「穂花、やっと目が覚めたか。管理会社に助け出される君を見て、心臓が止まるかと思った。ごめん、全部俺が悪かった。スマホがマナーモードになっていて、電話に気づかなかったんだ」

穂花は彼の胸に顔をうずめ、彼の心臓の鼓動を聴いた。

力強い鼓動だったが、それはもう穂花のためではなかった。

何度か問いかけようと思った。「ねえ、こんな生活、疲れない?美優と肌を重ねた後、何事もなかったかのように、私を慰めるために言い訳をして」と。

しかし、その言葉は喉の奥で止まった。どうせ明日にはここを出て行くのだから、すべてがどうでもよかった。

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