Masuk鳩村課長と野宮部長は頭を抱え、それはもう……深くて長~い溜め息をついた。
「?」首を傾げる私に 「貴生……僕は人生で初めて、きみに同情したよ」そう呟いた。そして、どうやら私が妄想に耽っている間に、三人で寝ることになったらしい。野宮部長はナイトウェアに着替えに、一旦、退室。鳩村課長は私に 「良い?僕が眠ってしまった後、貴生に何かされそうになったら、遠慮なく僕を起こして良いからね」と、何故か念を押された。 「はぁ……?」首を傾げる私に、鳩村課長は深い溜め息をついてから 「……木野さんは、好きな人とかいないの?」そう呟いた。 「好きな人……ですか。私はこんな感じなので、男の人に好かれないですから」ヘラッと笑う私に、鳩村課長が首を傾げた。 「こんな感じって……前にも言ったけど、木野さんは可愛いよ?」真顔で言われて、一瞬ウルッとしてしまう。そんな私に気付いたのか、鳩村課長が私の頭を優しく撫でる「おはよう、こずえちゃん」にっこり微笑んだ鳩村課長の笑顔は、朝の光より眩しいです。「おはようございます」戸惑いながら答えた私に、鳩村課長が「こずえちゃん、もう僕以外の前でお酒飲むの絶対禁止だよ」と言いながら、綺麗な人差し指で私の鼻先をちょんっとつついた。「あの……麗さん?」「ん?」「これは一体……」戸惑う私に、「覚えてない?」きゅるんと瞳を潤ませ、小首を傾げる。グハッ……!吐血しそうです。目眩がして左手の甲を目元に当てると──薬指に、見覚えのない指輪が。鳩が花をくわえたデザインで、花の中心は……多分ダイヤモンド?その周りの花びらがガーネットっぽい。石は小さいけど……。「これ? ラブリング」「ラブ……リング?」「そう。真ん中のダイヤは貴生の誕生石、周りの花びらは僕の誕生石。意味、分かる?」鳩村課長の言葉に首を傾げ、ハッと我に返る。「まさか……黒鷹×白鳩のLoveリング?」私の問いに、鳩村課長がにっこり微笑む。「……ということは、これは黒鷹×白鳩への愛のリング!だから、ラブリングなんですね!」目を輝かせる私。「わぁ……凄いファンサです!」「気に入ってくれた?」「はい!」「返品できないからね」「返品? そんなこと、しませんよ!」可愛いリングを見つめながら答えて、ふと思った。「あれ? なんで麗さん、私の指のサイズ知ってるんですか?」「なんでだろうね?」頬杖をつき、ベッドの上で気怠げに微笑む鳩村課長。その色気に、気を失いそうになる。私……女だけど、負けてる気がする。そんなことを考えていると、鳩村課長が私の腰を抱き寄せた。「こずえちゃん」その声が、やけに色っぽい気がする。なんか、ヤバい気配がします。「昨日のこと、覚えてる?」……覚えてるけど、覚えてると言っちゃいけない気がします。「昨日? ……あ! 海鮮丼、美味しかったですね」ここは、話題を逸らしましょう。「ふぅん? かなり酔ってたもんね。覚えてないのかな?」あれ?いつもの鳩村課長の声になりました。「飲み過ぎはダメですね」えへへ……と笑うと、鳩村課長がにっこり微笑む。私も微笑み返した──その瞬間。何故、ベッドに押し倒されているのでしょうか?「こずえちゃん、好きだよ。こずえちゃんは?」肩から鳩村課長の髪がサラサラと流れ落
「ん……」寝返りを打とうとして、私は普段とは違う違和感に気付いた。目を開ける。そして――私は思わず掛け布団の中を覗き込み、秒速で閉じた。「え……?」思考が止まる。なんで……私と鳩村課長、全裸?しかもここ……どこ?そっと部屋を見回すと、どう見てもホテル。しかも、かなり豪華なスイートルームっぽい。そのベッドの上で、私は鳩村課長に抱き締められたまま眠っていた。なんでしょう。今朝の鳩村課長……色気五割増しです。状況が理解できず、頭を抱える。すると、昨夜の記憶がゆっくりと蘇ってきた。あのあと、少し遠出をして美味しいもの巡りをした。いちご狩りをして、海まで行って海鮮を堪能して。さぁ帰ろう、となったその時。突然の土砂降りの雨。「これじゃあ、帰れないね」そう言われて――なぜかスイートルームに宿泊。ルームサービスを頼み、最初は普通に並んでお酒を飲んでいた。……はずだった。お酒が進むにつれて、私はふわふわしてきて。そして――私、鳩村課長の腕に抱き着いたんだ。「こずえちゃん、もう酔ったの?」驚いた鳩村課長の声。「酔ってないれすよ」にへらと笑う私に、鳩村課長は頭を抱えた。「相変わらず酒癖悪いね。もう、飲んじゃダメだよ」グラスを取り上げられる。「嫌れす~。もっと飲みます」そう言って私は鳩村課長に抱き着き、「グラス返すまで、離しませんよ~」……なんか言っちゃってる!私のバカ! バカバカ!鳩村課長は呆れた顔で言った。「もう寝たら?」すると私は――「お風呂入ります! 麗さんも一緒に入りましょうよ~」と誘い……。それ以上は、私の口からは言えません。あぁ……。壁のはずが、壁のはずが……。頭を抱えて悶えていると、「ん……」小さく呻いて、鳩村課長が目を覚ました。
「嫉妬……とは?」鳩村課長の言葉に、思わず聞き返してしまった。「え? 僕に彼女がいるって聞いて、胸がモヤモヤしたんじゃないの? それとも、なんとも思わなかった?」首を傾げ、きゃるるんと目を潤ませながら聞いてくる。(誰か~! 今なら野宮部長でもいい! 助けて~!)あざとかわいい顔で、鳩村課長は私をじっと見つめている。「し……嫉妬だなんて、私みたいな壁が……」「こずえちゃんは、人間でしょう?」狭い車内。遠慮なく、鳩村課長の指が私の髪に触れる。「僕ね、心配なんだ」「し……心配?」「こずえちゃん、どんどん綺麗になっちゃうでしょう?鳶に油揚げをさらわれるんじゃないかって……」熱い眼差しで見つめられ、心臓が口から飛び出しそうです。「と……鳶ですか?」「あぁ……今、差し当たっては……鷹かな?」「鷹?」「そう。黒い鷹。……でも、鷹だけに目を光らせていたら、横からカラスにかっさらわれるとか……嫌なんだよね」な、なんでしょう。いつもの穏やかな鳩村課長じゃありません。「れ……麗さん? どうしました?」必死に笑顔を作ってみても、鳩村課長は離れてくれません。「ねぇ、こずえちゃん? 僕にキスされるの、嫌?」いきなりそう聞かれ、思わず見上げる。頬に触れられ、耳元で囁かれた。「さっき……ショックだったよ。キス、拒まれて」「れ、れ、れ……麗さん?」「責任……取ればいいよね?」にっこり微笑まれて、頭がクラクラしてきました。「だ、ダメです、麗さん! 麗さんには、貴生さんという恋人が……」「じゃあ、女性の恋人は……こずえちゃんがなってよ」鳩村課長は、さらりと続けた。「カモフラージュ……必要でしょう?」その瞬間――腐った全私が反応した。「か……カモフラージュ?」「そう。カモフラージュ」一気に脳が活性化する。「それは、私が鳩村課長の彼女になることにより、お二人の愛が無事に育まれると?」目を輝かせて問いかけると、鳩村課長はそれはそれは綺麗な笑顔を浮かべた。見蕩れている、その隙に。私の唇は、再び鳩村課長に奪われてしまった。
え? 何がどうしたの? いきなり抱き締められて、私は混乱していた。 「れ、れ、麗さん?」驚く私に、麗さんは少し困ったように笑う。 「ごめん。誰にでも、触れられたくない事ってあるよね」その言葉に、私は小さく息を吐いた。 「心配させてごめんなさい。そんな大した事じゃないんです。ただ……麗さんも貴生さんも優しいから、つい……」言いながら、照れくさくなって笑った。 「自分が普通の女の子なんじゃないかって思っちゃうんです」えへへ、と笑うと、麗さんは突然真剣な顔になる。 「こずえちゃん!」私の肩を掴み、力強く言った。 「きみは普通の女の子……いや、普通より全然、可愛い女の子だよ」 「信じられないって言うなら、僕が何度だって言ってあげる」真剣な言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。 「麗さん、ありがとうございます」微笑んで言うと、麗さんがそっと私の頬に触れた。あ……これ、ヤバい空気だ。長いキス……来そう。私はとっさに自分の口を手で隠した。 「……何してるの?」 「え? 今、キスしようとしてますよね?」 麗さんは少し驚いた顔をする。 「こずえちゃん、嫌なの?」 「嫌とか嫌じゃないとか以前に……こういう事は恋人とするべきだと思うのです」私の言葉に、麗さんが「なるほど……」と呟く。 (よし……なんとか流されキスは回避できた)ほっとした、その瞬間。 「じゃあ、こずえちゃん」 麗さんがにっこり微笑んだ。 「僕の恋人になってよ」私は目が点になる。 「麗さん? 恋人いるんですよね?」 「…………はぁ?」 今度は麗さんが目を点にした。 「職場
気が付くと、私は鳩村課長と車の中だった。 「お、意識戻った?」 鳩村課長は運転しながら声を掛けてきた。 「え? 私……」 混乱していると、鳩村課長が苦笑する。 「あぁ……途中で目を開けたまま失神してるみたいだったから、麗子さんと別れて、そのまま目的地に向かってたんだ」 あははは、と笑う鳩村課長。 さすが鳩村ママ。 私の対処法をよく分かっていらっしゃる。 「ご迷惑をお掛けして、すみません」 小さくなって言うと、 「迷惑なんて思ってないよ。気にしないで」そう言われて「はぁ……」と返事をしたその時──私は視線の端に、後部座席の麗子様のお店のショップバッグを見つけてしまった。 (待って待って待って! なんであんな大きな紙袋が三つも後部座席に乗ってるの?)ぐりんっと顔を前に向け、冷や汗が流れる。いや、待って! 鳩村課長のお母さんとかお姉さんに渡すプレゼントかもしれないじゃない!ヤダ、私ったら!自意識過剰すぎ!ペチペチと軽く頬を叩く。 「どうしたの?」そんな私に鳩村課長が心配そうに声を掛けてきた。 「あはは……自意識過剰な己を律していました」そう答えると 「自意識過剰? こずえちゃんが?」鳩村課長は赤信号で止まり、私を見て首を傾げた。 「はい! 私ごとき腐った壁女が、恐れ多いことを考えてしまいまして」すると鳩村課長は少し考える顔をして 「ふぅん? でも、こずえちゃんは少しくらい自意識過剰でもいいんじゃない?」と言った。私は物凄い勢いで鳩村課長を見る。 「前から思っていたのですが……麗さんも貴生さんも、私を甘やかし過ぎです」そう答えると、信号が青になった。鳩村課長は視
「うん、よく似合うよ。こずえちゃん」ご機嫌な笑顔を浮かべる鳩村課長に、私は戸惑いながら自分の服を見下ろした。「これは……?」今の私は、全身“鳩村課長コーデ”。野宮部長のコーデは甘め。麗子様は、きちんとしていながら少し甘め。それに比べて鳩村課長のコーデは、シックで品のある大人の雰囲気。三者三様の好みなんだなぁ……と思いながら、「あの……今日の服装、気に入らなかったですか?」しょんぼりしながら尋ねると、鳩村課長は優しく首を振った。「今日の服装も素敵だったよ。でもね、僕がコーディネートした服も着てほしかったんだ。迷惑だった?」目をきゅるるんっと潤ませながら、私の手を取り、小首を傾げる。グッハ……。吐血案件です。鳩村課長、その可愛い顔は反則です。ドキドキする胸を押さえていると、「あら!麗じゃない?」奥の扉から、麗子様が現れた。「こんにちは、麗子さん。忙しいだろうから挨拶はいいって言ったのに」苦笑いする鳩村課長に、麗子様はふふっと笑う。「何言ってるのよ。たまには可愛い甥っ子の顔、見たいじゃない?」そう言って、鳩村課長の頭を優しく撫でた。そして、私を見ると、「あらあら……独占欲、丸出しね」小さく笑った。(……独占欲?)首を傾げる私をよそに、二人は普通に会話を続ける。「あぁ、そうだ。売上貢献ありがとうね」「いえ。女性の服のサイズは分からないので、行きつけの麗子さんのお店なら、デザインを選べばいいだけですから」「はぁ……。うちのバカ息子も、麗くらい賢いといいのに」「貴生は……天才肌ですからね。僕みたいな凡人は、貴生に追いつくだけで精一杯ですよ」二人の会話を聞いているうちに、私の腐女子スイッチが入った。(なんか今の会話……嫁姑っぽい!)