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古紫汐桜
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Novels by 古紫汐桜

腐女子の私、推しカプのはずの美人上司に抱き枕認定されました。

腐女子の私、推しカプのはずの美人上司に抱き枕認定されました。

受けだと思っていた美人上司が、実は甘い野獣でした。 腐女子の私は、今日も安全な距離で推しカプを見守るはずだったのに――。 女子校育ちのぽっちゃり腐女子・木野こずえは、社内公認の推しカプ「黒鷹×白鳩」を愛でる腐安(ファン)の一人。 余裕と色気を纏うスーパー攻め様・野宮部長と、妖艶で中性的なスーパー受け様・鳩村課長は、誰もが認める理想の組み合わせ……のはずだった。 しかしある朝、目覚めたこずえは、鳩村課長に抱き枕にされている自分に気付いてしまう。 保護のつもりだった白鳩と、最初から狙っていた黒鷹。 勘違い腐女子を巡る、甘くて危険な三角関係が始まる――。
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Chapter: 最終話:私……鳩村こずえは、貴腐人になりました!
『カラーン……カラーン……』教会の鐘の音が、澄んだ空に響き渡る。舞い散るフラワーシャワーの中を、私は麗さんと並んで歩いていた。──あの日。婚約式のあと、私たちはホテルのスイートルームで、一年分の距離を埋めるように、たくさん話をした。麗さんは、私と別れてから不眠症が再発して、眠れない日々を過ごしていたと話してくれた。その夜は、たくさん話して――まるで今まで眠れなかった時間を取り戻すかのように、麗さんは静かに眠りに落ちた。私は、そっと目の下のクマに触れる。出会った頃を思い出しながら、小さく囁いた。「また……一緒に月日を重ねていきましょうね」そして、そっと唇にキスを落とす。胸がきゅっと締め付けられる。──やっぱり、私は麗さんが好きなんだ。婚約式のあと、私たちは前のマンションよりもセキュリティの厳しい、コンシェルジュ付きのマンションへ引っ越した。それは、野宮会長の指示だった。そして──もう一つの変化。「本日より、Reiko Nomiyaの支配人を務めます。鳩村麗です」な、な、な、なんと!女性だらけの職場に、麗さんが支配人として転属してきたのだ。人事は──「借りは返してもらうって、言ったわよね?」という、麗子さんの一声で決定。新居は職場のすぐ近く。なぜか、野宮会長と麗子さんが夕飯を食べに来る日々まで始まってしまった。仕事終わりにブライダルエステを受けて帰り、夕食は麗さん担当。──あの日以来、貴生さんには会っていない。麗子さんの話では、アメリカで転居手続きをしているらしい。慌ただしい毎日が過ぎていき──そして私は、麗さんとの結婚式の日を迎えた。貴生さんからは欠席の返事。その
Last Updated: 2026-04-10
Chapter: 第七十七話:閑話休題
皆様、ご無沙汰しております。覚えていますか?私は、木野ちゃんの元同僚にして──腐女子トリオの一人、安川正恵です。え?エンディング間際に、なんでお前が出てくるんだって?分かります、分かりますよ!知りたいですよね?婚約式後の、あの二人のこと──!……でも、その前に言わせてください!私たち、会場に着いてまず何に驚いたと思います?招待状は――「野宮貴生 木野こずえ」だったのよ?それが、式場に着いたら──「鳩村麗 木野こずえ」になってるじゃない!!この衝撃、分かります!?当然、木野ちゃんに詰め寄りましたよ。そしたら、あの子、頬を赤らめてこう言うの。「実は……前に話していた彼って……麗さんなの」……は?じゃあ何?絶倫ヤバ男って──鳩村課長だったわけ!?あの、一見優しそうで「僕は性欲なんてありません」みたいな顔してるくせに……中身、野獣!?ちょっと待ってよ、そのギャップ!!最高か!!そりゃあ、ひーちゃんも白目剥くわよ!でもね。鳩村課長の隣に立ってる木野ちゃん──本当に、幸せそうだった。お互いを見つめる視線がね、もう……完全に恋人同士で。なんで相手が入れ替わってたのか──なんて、そんな野暮な話は、誰もしなかった。きっと。野宮本部長は、全部分かってて身を引いたのよ。……何それ。全然俺様じゃないじゃない。むしろ──良い男すぎるでしょ。なんて、私とひーちゃんはシャンパン片手に、二人の婚約式を見守っていたわ。木野ちゃん。おめでとう。──幸せになってね。
Last Updated: 2026-04-09
Chapter: 第七十六話:再会と、これから
マッサージ、フルメイク、ヘアアレンジ。すべてを整えられ、麗子さんが選んでくれた真っ白なワンピースに着替えた。ミニブーケを手渡されて――まるで結婚式みたいだ、と思いながら控え室へ向かう。ドアを開けた、その先にいたのは――貴生さんじゃなかった。短く切り揃えられた、色素の薄い髪。タキシード姿の――麗さん。息を呑んだ私に気付き、ゆっくりと振り向く。「こずえちゃん、久しぶり」ずっと……聞きたかった声。視界が涙でぼやけていく。「どうしてここに……? それより、その髪と服……どうしたの?」震える声で問いかけると、麗さんは柔らかく微笑んだ。「全部、片付けてきた」静かに、でもはっきりと。「僕は裸一貫だけど……それでも、こずえちゃんはついて来てくれる?」不安を滲ませながら、そっと覗き込む。「でも……貴生さんは?」「貴生が……僕に、こずえちゃんを託した」その一言で──涙が溢れた。貴生さんは、気付いていたんだ。私の中に残っていた、麗さんへの想いに。ブーケで顔を隠す私を、麗さんが優しく抱き締める。懐かしい匂い。ずっと、好きだった人。「こずえちゃん……やっぱり、僕じゃなくて貴生がいい?」不安そうな声に、私は強く抱き返した。「私……最低なんです。貴生さんを傷付けたのに……今、こうして麗さんが来てくれたことが……嬉しいなんて」その言葉を、唇で止められる。「僕がヘタレだったから、ごめん」「違います……!」首を振る。「私こそ……一方的に別れを告げて、ごめんなさい」「何言ってるんだよ。僕のために、辛い選択をしてくれたんだろ?」頬に触れる手が、あたたかい。見つめ合う。麗さ
Last Updated: 2026-04-08
Chapter: 第七十五話:別れ side 貴生
ドアが閉まり、こずえの姿が見えなくなった。込み上げる感情を押し殺すように、両頬を叩く。 「よし」小さく呟き、顔を上げた。スマホには、麗が“ざんばら髪で到着した”という連絡が入っている。……その姿を見られなかったのが、少しだけ惜しいと思った。メイク室からは、こずえとスタッフたちの明るい笑い声が聞こえてくる。ドアを一度だけ見つめて、呟いた。 「じゃあな、こずえ。幸せになれよ」踵を返し、歩き出す。向かう先は、駐車場。──伏兵は去るのみ、ってな。そう思った、その時。 「貴生!」今は一番聞きたくない声に、思わず舌打ちが出た。振り返ると、身なりを整えられた麗が立っている。 (ババア……そのまま出させろよ)心の中で毒づきながら、口元に笑みを浮かべる。 「よぉ」余裕を装う。麗は駆け寄ってきた。 「貴生……何から何まで――」その言葉を、指で遮る。 「それ以上言ったら、ぶっ飛ばす」低く告げる。 「別に、お前のためじゃねぇ」戸惑う麗を見て、ぽつりと続けた。 「俺の前だと、あいつ……笑わないんだよ」胸ぐらを掴み、顔を引き寄せる。 「いいか。次にこずえを泣かせたら――アメリカに連れてくからな」そう言って手を離した。乱れたタキシードを整えながら、背を向ける。 「分かったら、行ってこいよ」一瞬だけ、声が揺れた。 「こずえを笑わせられるのは……悔しいけど、お前だけだ」 「貴生!」呼び止められる。だが振り返らない。 「勝者が敗者にかける言葉なんか、ねぇよ」軽く手を振り、そのまま歩き出す。駐
Last Updated: 2026-04-07
Chapter: 第七十四話:婚約式
いよいよ、婚約式の日になった。 この一ヶ月、私は実家で過ごし、家族とゆっくり向き合ってきた。 そして──前日の夜。 「ねぇ、こずえ……もし、あんたに他に好きな人がいるなら、無理に結婚しなくていいからね」 突然、母にそう言われた。 「え?」 「人の気持ちってね、頭で考えるようにはいかないものなのよ」 思わず、苦笑いがこぼれる。 「こずえ。お父さんもお母さんも、あんたの幸せが一番だからね」 ……その意味が、よく分からなかった。 貴生さんとは、送迎の時に少し会話をするくらいで、以前のような恋人らしい空気はなかった。 あの日――初めてすべてを受け入れたのに。 赤ちゃんは出来なかった。 月のものが来て、ほっとしてしまった自分に、戸惑う。 覚悟を決めたはずなのに。 そう思っていると、貴生さんがぽつりと聞いた。 「こずえ……どうだった?」 「すみません……今、来てます」 「そうか……」 その時の、少しだけ寂しそうな笑顔が、頭から離れない。 ──貴生さんが、消えてしまう気がした。それでも、婚約式の準備は進んでいく。そして迎えた当日。朝早く、貴生さんが迎えに来て、私たちは会場へ向かった。流れを確認しながら車は到着し、すでに麗子さんやスタッフの方々が待っていた。そのまま控え室へ案内される。私は、この日のために用意された白いワンピースに着替える予定だった。 「準備が出来たら迎えに来るわ。少しここで待っててね」そう言って麗子さんが出ていく。 ──二人きり。あの日以来の静かな時間に、少しだけ緊張していると。後ろから、抱き締められた。 「こずえ……婚約指輪、預かってもいいか?」突然の言葉に、振り返る。 「婚約式のセレモニーで、みんなの前でつけるらしい」
Last Updated: 2026-04-06
Chapter: 第七十三話:託された想い side 麗
会場に到着すると、まるで僕が来るのを分かっていたかのように、麗子さんが立っていた。「来たわね、麗。こっちよ。ついて来なさい」歩き出す背中に声をかける。「その前に……こずえちゃんは?」「慌てないの。まだ控え室で支度中よ。ほら、あんたもこっち。そんな頭で行くつもり?」言われて、ぐっと息を飲んだ。連れて行かれた控え室には、おじい様がいた。「麗、よく来たな。しかし……これは野宮家を敵に回すことになる。それでも構わんのか?」厳しい眼差し。僕は両手を強く握り締めた。「こずえちゃんを取り戻せるなら、裸一貫からやり直す覚悟で来ました」そう言うと、おじい様はにやりと笑った。「よく言った。お前が覚悟を決めるのを待っていた。麗子、あとは頼む」そう言い残して、部屋を出て行く。すると麗子さんが、パン、と手を叩いた。「さぁ!一気に仕上げるわよ!」その声を合図に、どこからともなく現れた女性陣に囲まれ、半ば強引に椅子に座らされる。「我らが木野ちゃんの王子様を、綺麗に仕上げるわよ!」「おー!」気合いの入った声に、思わず苦笑がこぼれた。髪を整えられ、フェイスマッサージを施される。「麗……あんた、クマ酷すぎ!」そのままメイクまでされてしまった。手際よく動く彼女たちが、口々に言う。「もう……木野ちゃんを泣かせないで下さいね」「次泣かせたら、貴生様に連絡して即アメリカ送りにしますから!」「絶対に幸せにしてあげて下さいね!」激励(?)を浴びながら、最後に麗子さんが差し出した。「これは、貴生からよ」白いタキシード。僕はそれを抱き締め、涙をこぼした。「僕に……これを着る資格があるんでしょうか」思わず漏れた言葉に、麗子さんは腕を組んだまま、じっと僕を見る。「甘
Last Updated: 2026-04-05
犬猿の仲……いいえ、犬猫の仲です

犬猿の仲……いいえ、犬猫の仲です

「男が生まれない」呪いを受けた一族に、例外として生まれた少年・猫柳春馬。 彼は生きるため、“少女・春菜”として偽りの人生を送ってきた。 卒業間近、名門・狗飼家の御曹司、狗飼来人との出会いをきっかけに、二人は契約結婚を結ぶことになる。 正体を隠したまま始まる関係。 しかし、第三者の介入と誤解が、少しずつ二人の心を引き裂いていく。 犬と猫のように噛み合わない二人は、本当の想いに辿り着けるのか――。 これは、嘘と秘密の先にある恋の物語。
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Chapter: 第九十五話:閑話休題~手紙~
拝啓竜ヶ峰祐希様お元気ですか?お二人が霊山に入って、1ヶ月が経過しました。まだ一ヶ月なのに、祐希がいない生活が寂しく感じるなんて、不思議な感じです。こっちは相変わらずの毎日だけど、そっちはどうですか?来人は祓いの仕事が夜に多いからか、朝寝坊でライトの散歩の時間が遅くなって困ってます。(祐希と付き合ってた時からそうだった?)祐希はどう?きっと、小林さんと規則正しい生活を送っているんだろうな。会って、たくさん話をしたいよ。また手紙書くね。猫柳春馬拝啓猫柳春馬様元気そうだね。こっちは日が昇ったら起こされて、日が暮れたら就寝だよ(笑)来人も僕も、夜行性だったからね。朝は苦手だったよ。春馬は健康的な生活してたっぽいよね。小林? あいつ、人間じゃないよ。朝、日が昇る前に起きて境内の掃除してるんだよ。信じられない。あいつ、絶対前世は坊さんだったよ。次に会った時、ライトは触らせてくれるかな?僕、動物好きなんだけど、飼ったことないんだよね。春馬がいたら、ライトも触らせてくれる気がするんだ。ライトに触らせてくれるなら、会ってあげてもいいよ。手紙、また気が向いたら返事書くね。竜ヶ峰祐希***「春馬、どうした?楽しそうに手紙読んでるけど」手紙を読んでいると、来人が声を掛けて来た。「祐希からの手紙だよ」「あぁ……春馬と祐希は文通してるんだっけ?」来人はソファーに座る僕の横に座ると、肩に頭を預けて来た。「文通……って言ったら、祐希は怒りそうだけどね」苦笑いを浮かべた僕に「でも、手紙を出すと必ず返事が来るんだろう?あいつは基本的に面倒くさがりだから、春馬のことが気に入ったんだろう」と答えた。でも、少し拗ねているのが分かる。「なに?嫉妬してるの?」「そりゃあね。祐希から手紙が来る度、嬉しそうにされたら、嫉妬しちゃうよね」来人の言葉に小さく笑い「祐希がさ、今度会ったらライトを撫でたいんだって」と言うと「はぁ?」と、来人が頭を上げた。「あ!来人じゃなくて、ライトだからね!」僕の言葉に、来人が目を据わらせた。「春馬、お前……わざとだろう?」僕を抱き締める来人に、僕は笑い転げた。幸せな時間。幸せな瞬間。穏やかな日々……。竜ヶ峰も、こんな時間を過ごしていると良いな。***「春馬さんからの手紙です
Last Updated: 2026-04-21
Chapter: 第九十四話:友達
あの後、僕たちは猫柳家に集合した。「とりあえず、春馬、来人君。護衛、ご苦労さま」じいちゃんはそう言うと、白い封筒を差し出した。来人と顔を見合わせる。「それは、竜ヶ峰家からの報酬だ」そう言われて、僕たちは同時に首を横に振った。「祐希の護衛は、俺のけじめだったので……」来人がそう言うと、じいちゃんは険しい顔になった。「竜ヶ峰家のけじめなんだそうだ。受け取りなさい」静かに、しかし強く言われる。差し出された封筒は、見ただけでそれなりの金額が入っていそうだった。……でも。これを受け取ったら、もう竜ヶ峰に会えなくなる気がして、怖かった。すると母さんが、軽い口調で言った。「受け取りたくないなら、二人で返しに行けばいいじゃない?」僕たちは思わず顔を見合わせる。「竜ヶ峰家は……僕たちと話してくれるかな?」ぽつりと呟くと、じいちゃんは小さく笑った。「春馬、勘違いするな。これは手切れ金じゃない。むしろ、お前たちには感謝していると話しておったよ」その言葉に、胸が少し軽くなる。「祐希君がな、『僕にも友達が出来たんだ』と嬉しそうに話しておったそうじゃ」——多分、春馬のことじゃろうな。そう続けられて、僕の目に涙が滲んだ。「竜ヶ峰が……僕を?」「じゃからな、春馬にとっても初めての友達だと、そう答えておいた」じいちゃんの言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。……ああ、僕たち。ちゃんと、友達になれていたんだ。「だったら、尚更受け取れないよ。友達を助けるのは、当たり前なんだから」そう言った僕の隣で——来人がしょんぼりしていた。「春馬が友達なら、俺は?」「は? 来人は元カレ
Last Updated: 2026-04-19
Chapter: 第九十三話:反撃
僕の叫びよりも早く、来人が迫り来る黒い蛇を断ち切った。「ワンッ!」僕の腕の中に、ライトが飛び込んできた。その身体をぎゅっと抱き締めた瞬間——眩い閃光が、辺りを包み込む。次の瞬間、光の中から遠吠えが響いた。振り向いた先には——以前にも見た、あの犬の影。それが今度は、無数となって神蛇の黒い蛇へと襲いかかっていく。「これは……一体誰が?」来人が驚いた声を上げる。すると神蛇は、舌打ちをして「チッ……多勢に無勢とは、卑怯な奴等だな」そう吐き捨てた。「ハニー、また近いうちに会おう」そう言って、こちらに投げキッスをしてくる。僕が反応するよりも早く——来人がそれを一刀のもとに斬り払った。そして——気付いた時には、神蛇の姿は消えていた。「来人! 春馬君、大丈夫か?」光がゆっくりと収まり、その先から狗飼家の当主が姿を現す。「親父! あの式神、親父だったのか!?」驚く来人に、「あぁ、春馬は知らなかったか。親父は昔、術が使えなかったんだ」と説明が入る。……なんだろう。当主様の背後から感じる、母さんのドヤ顔。「あぁ……番になったことで、封印が解かれたんですね」そう呟くと、「なんだそれ!」来人がすかさず拗ねた声を上げる。「来人、なんで拗ねてるんだよ」「はぁ? 唯一、親父に勝ててたのは能力者ってところだったのによ」唇を尖らせるその姿に、「ふふふっ、来人君ったら子供みたい」と、母さんが笑った。どうやら、あの閃光は母さんの仕業だったらしい。光が完全に消え、母さんがこちらへ歩み寄ってくる。「ライトを連れて来てくれたのも、母さんたちだったんだね」そっと頭を撫でると、「これからは一緒に連れて行きなさいよ。今の来人君みたいに拗ねちゃって、大変だったんだから」と呟いた。その瞬間——来人とライトが、同時に顔を見合わせる。そっくりな表情に、僕たちは思わず吹き出した。「ごめんな、ライト。さっきは大丈夫だったか?」殴られた場所に、そっと力を流す。ライトは「くぅん」と甘えながら、僕の頬をぺろぺろと舐めた。「ライトは、僕のヒーローだよ」そう言って抱き締めた、その時——「ごほん!」頭上から、わざとらしい咳払いが落ちてくる。見上げると、来人がじっとこちらを見ていた。僕はライトを撫でながら、「はいはい、来人もかっこよ
Last Updated: 2026-04-16
Chapter: 第九十二話:対決
「やぁ、ハニー。久しぶり」背後に黒い蛇の影を従え、神蛇が現れた。その顔に、思わず眉間にしわが寄る。「険しい顔のきみも、とってもキュートだよ」楽しげに笑うその表情が、ひどく不快だった。「僕たちは、永遠に会いたくなかったけどね」そう返しながら、僕と来人は並んで鳥居の前に立つ。霊山──あの先は神域だ。簡単に踏み込ませるわけにはいかない。「きみがそんなに嫉妬深いなんて思わなかったよ。祐希を霊山に閉じ込めるなんて……。まぁ、あの美しさは芸術レベルだから、分からなくもないけどね」神蛇の言葉に、嫌悪感が込み上げる。僕は一歩下がり、来人の背中を掴んだ。「大丈夫だ、春馬。春馬は俺が守る」振り向いた来人が、優しく笑う。「来人……」その一瞬──「僕の前でイチャイチャされると、腹が立つんだけど?」神蛇の背後の蛇が、鞭のようにしなりながら襲いかかってきた。来人は右手から剣を出現させ、一閃。黒い蛇を次々と切り裂いていく。「お前、そんなんだから祐希に振り向かれないんだよ」呆れたように言う来人に、「はぁ?祐希は僕にとって、美術品みたいなものだよ。眺めて楽しむ存在だ」神蛇は平然と答えた。「ハッ!ふざけんな!あいつを絶望に突き落としたくせに!」来人の怒りに呼応するように、剣に炎が宿る。神蛇はそれを見て、くつくつと笑った。「祐希を絶望に落としたのは、きみたちだろう?」その言葉に、空気が凍りつく。「何度も呼んでたよ。“来人、助けて”ってね」神蛇の口元が歪む。「絶望に打ちひしがれる祐希も……本当に美しかった」恍惚とした表情。吐き気が込み上げる。
Last Updated: 2026-04-15
Chapter: 第九十一話:別れ
竜ヶ峰は、僕の気持ちを察したのか——「……手紙くれれば……気が向いたら返事書くし。また、会えるよ……きっと」そう呟いた。その言葉が嬉しくて、僕はぎゅっと抱き締める。「返事くれなくても……手紙送るから……」「うん」「いっぱい、いっぱい書くから……」「……」「え?いっぱいはダメ?」「小林みたいに、毎日大量は困るけど……」ぼそりと呟かれる。「え?小林さん、そんなに?」驚いて聞くと、「毎日、十通は来てた……」心底迷惑そうに言った。「え?小林さん……暇なの?」思わず漏らすと、竜ヶ峰が吹き出した。「春馬のそういうとこ、もっと早く知りたかったな」そう言ってから、「僕が言うのもなんだけど……来人のこと、頼むね」と続ける。「竜ヶ峰……」そう呟いた瞬間──来人が乱暴に僕を引き剥がし、小林さんが竜ヶ峰を背後から抱き寄せた。「祐希……早速、浮気ですか?」「春馬!お前、何浮気してんだよ!」声が重なる。「はぁ?誰が誰と浮気?」竜ヶ峰が目を据わらせる。「くだらないこと言ってる暇あるなら、さっさとご飯食べさせてよね!」ぷりぷりと怒るその一言で、来人と小林さんは、揃ってしょんぼり歩き出した。──さすがだな、竜ヶ峰。食事を終え、霊山へ向かう車の中。竜ヶ峰は、外の景色を焼き付けるように見つめていた。その横顔が切なくて、僕は何も言えなくなる。やがて──五時間の道のりを経て、竜ヶ峰家の霊山の麓に辿り着いた。入口には、僕でも破れない強力な結界。「ここまで送ってくれて、ありがとう」そう言って、竜ヶ峰は右手を差し出した。「今まで……色々ごめんね。ありがとう」その言葉に、胸が詰まる。僕は、その手を強く握り返した。「ここまで、僕たちを守ってくれていたんだよね?」小さく微笑む。——そうだ。神蛇の追っ手から、僕たちが認識されないように。来人と車、そして僕たち四人に——認識阻害の結界を張っていた。さすが竜ヶ峰だ。全部、分かっていたんだな……。そう思った、その時。「祐希、そろそろ行かないと……」小林さんが静かに促す。彼もまた、気配を感じ取ったのだろう。「最後まで、二人に迷惑かけてごめん」その言葉に、来人と顔を見合わせる。「祐希、俺たちは強いから大丈夫だ」来人が、いつもの調子で笑った。そして──「祐希……長
Last Updated: 2026-04-14
Chapter: 第九十話:近付く距離と、近付く別れ
車は、なぜか──運転手が来人、助手席に小林さん。後部座席には、竜ヶ峰と僕が座っていた。──ことの始まりは。「ちなみに、運転は大丈夫なんでしょうね?」と、小林さんが疑いの目を向けたことだった。出発して最初に立ち寄ったパーキングエリアで、「なんなんですか、あの運転は!」小林さんが怒り出し、「うるせぇな!だったら他の車に乗れよ!」来人と言い争いが始まった。「あんなに飛ばすから、他の車がついて来ていないじゃないですか!」「あーねー」「あーねーじゃありませんよ!祐希様が乗っているのですから、安全運転をですね!」車を降りて早々、激しく言い合う二人にハラハラしていると──竜ヶ峰は我関せずといった様子で、売店へ向かって歩き出した。「竜ヶ峰!一人で行動したら危ないって!」慌てて追いかけると、「来人と小林の相手してたら、ご飯食べそこなうよ。早く行こう、春馬」そう呟いた。「え?まぁ……そうだけどさ……」と答えた瞬間、僕は耳を疑った。「え?……今……」慌てて竜ヶ峰を見る。背中を向けているけど──耳まで真っ赤だった。やばい、竜ヶ峰が可愛い。「竜ヶ峰!!」思わず抱きつくと、「ぎゃー!なに抱きついてるんだよ!」真っ赤になって叫ぶ。「じゃあ、俺も祐希って呼ぶね!」ぎゅっと抱き締めたその身体は、細くて軽かった。胸が、鈍く痛む。元々身体が強くないとは聞いていた。それでも──僕と出会うまでの間、来人の背中を守り、瘴気を受け止めていたのだと思うと……切なくなる。すると竜ヶ峰は、僕に軽くデコピンして、「過去は過去だよ、春馬」そう言って微笑んだ。「僕だって、きみをたくさん傷付けた。むしろ……僕の方が酷いことをしたんだ。だから、春馬が気にすることはないよ」まっすぐに僕を見つめながら、そう言う。その姿は──本当に美しかった。……せっかく、こうして仲良くなれたのに。別れの時間が、すぐそこまで近付いている。それが、どうしようもなく──切なかった。
Last Updated: 2026-04-13
転生したら首が揺れる系ヒロインだったので、首を揺らすのを止めたら溺愛が待っていた!

転生したら首が揺れる系ヒロインだったので、首を揺らすのを止めたら溺愛が待っていた!

婚約者の浮気現場を目撃し、逃げ出した私は事故で死んだ。 目を覚ますと、そこは漫画の世界。 ヒロイン・ソフィアに憑依していた──しかも、ざまぁされる直前に。 すでに評判は最悪、逃げ場なし。 そのうえ──勝手に首が揺れる。 (いや無理無理無理!! なんで!?) このままじゃ、破滅一直線。 そんな未来、絶対にごめんだ。 運命を変えると決めた私は、悪役令嬢と手を取り立て直しを始めるが、 なぜか腹黒ドS公爵に執着されて……? 誤解と裏切りから始まる、リベンジ×再生×溺愛ファンタジー
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Chapter: 第七話:全ての元凶は、彼女だった
並本雪花。思い出した。前世で、私から婚約者を寝取った──あの女。出会いは、私が勤めていた中小商社。私は経理部で働く32歳で、社長の紹介で取引先の男性と出会い、婚約も決まって幸せの絶頂だった。職場では、同期の葉子と凛と3人で「経理三人娘」と呼ばれる仲良しトリオ。それなりに地味で平和な毎日だった。──あの派遣社員が来るまでは。繁忙期で人手が足りず、派遣を頼んだのが運の尽き。やってきた彼女は、紺のスーツに黒髪ボブ。ぱっと見は清楚系。でも、最初に思ったのは「女の敵」だった。あれはたぶん、“女の勘”ってやつ。どこか、関わっちゃいけない気がした。それでも部長に「年齢も近いし仲良くしてやれ」と言われ、しぶしぶ昼ご飯を一緒に食べるようになった。話してみると、意外とサバサバしていて面白い子だった。油断していた私に、彼女はよくこう言った。 「私、何故か女の人に嫌われちゃうの。 だから、こうして仲良くしてもらえる職場で良かった」その言葉に、私は笑って答えた。 「きっと雪花ちゃんが可愛いから嫉妬されちゃうんだよ」 ──あの時の自分を、殴りたい。経理部は男性が少なく、いても部長と課長の中年組。そんな中で、彼女は明るく話題を振ってくれるムードメーカーだった。 いつの間にか、私たちは四人で行動するようになっていた。そんなある日、彼女が突然言い出した。 「ねぇ、菜穂ちゃんの婚約者さんを見てみたいからさ、凛ちゃんの彼氏さんと、葉子ちゃんの好きな人も呼んで飲み会しない?」 「え?」 「ほら、葉子ちゃんってずっと片想いでしょ? みんなで応援してあげようよ!」その提案に、私も凛も顔を見合わせた。雪花は手帳を取り出して手際よく言う。 「菜穂ちゃんと婚約者さん、凛ちゃんと彼氏さん、葉子ちゃんと好きな人! ね、バランスいいでしょ?」 (……あれ
Last Updated: 2026-04-21
Chapter: 第六話:創造神様が……突然、降臨?
こうして羅列してみると──……改めて思うけど、ろくな男がいないわね!ちなみに、私はゲームをやっていない。だから実際の展開は、ほとんど知らない。この知識も、漫画版のキャラ紹介を読んだ程度。しかもその漫画、ざまぁ展開だった。クリフォード殿下を婚約者から奪ったソフィアが、最後に断罪されるやつ。だから、ゲームとはかなり設定が違ったはずだ。なにせ、ゲームファンの間では「こんなクリフォード見たくない!」と炎上して、不買運動まで起きたらしい。……まぁ、ざまぁ展開をやるには、王子も悪役じゃないと面白くないもんね。でも、そこで私は一つの疑問にぶち当たった。漫画では、ソフィアがざまぁされるのって──日本から転生した別の子が、逆ハーレムルートを狙ったからだよね?しかも、その子は前世の記憶を持ってたはず。だとしたら……私、記憶があるだけで恋愛なんて狙ってないし。これ……ゲームじゃなくて、普通に異世界転生じゃない?一筋の光が見えた──その瞬間。「残念!」耳元で、いきなり声がした。次の瞬間──目の前に、ドアップの見知らぬ顔!!「ぎゃ───!!!」思わず悲鳴を上げた私は、馬車の中で飛び上がった。ガッ! と音を立てて、馬車が急停車する。「どうなさいました!? ソフィア様!」御者が慌ててドアを開けた。「し、知らない人が……!」私は、目の前にいるキラッキラした女性を指さした。すると御者は、眉をひそめて首をかしげた。「ソフィアお嬢様しか、おりませんが……?」……は?私が再びその“キラキラ女”を見ると、彼女はにっこり笑って言った。「私の姿、あなたにしか見えないの」──そして、口元に手を当てて「えへっ」と笑った。「えへっ、じゃないわよ!!」そういうことは先に言ってぇ!私は動揺を隠しながら、御者に向かって咳払いした。「ごめんなさい。疲れているみたいで……あなたの影が、人に見えただけみたい」笑顔を作ると、御者がぽーっと頬を赤らめた。「ソフィアお嬢様は、いつも一生懸命ですからね。学園に着くまでお休みください」そう言って、馬車のドアを閉めた。再び動き出した馬車の中。私は、目の前で優雅に座っているキラキラ美女に尋ねた。「で、あなた誰?」「ようこそ聞いてくださいました!」叫んだかと思うと、彼女は指をパチンと鳴らした。気づけば、
Last Updated: 2026-04-18
Chapter: 第五話:攻略対象、全員地雷系でした。
魔法学園へ向かう馬車の中で、私は現状を整理していた。──まず、この世界は乙女ゲーム『きみの光が世界を救う』。通称“キミセカ”。どうやら私は──そのヒロイン、ソフィア・ハンプソンらしい。……いや、待って。可愛いのはありがたい。そこはいい。問題ない。でもさ。よりによって、ざまぁ展開の当事者ってどういうこと!?婚約破棄されて、全員から見放されて、最終的に修道院送りとか──聞いてないんだけど!?私は頭を押さえながら、記憶を引っ張り出す。ソフィアは、幼い頃に“光魔法の加護”を受けて生まれた少女。回復、浄化、さらには土地すら癒す力。ゲーム内でもトップクラスのレア能力。──いわゆる、チートヒロインだ。しかもこの国は、唯一魔法使いを輩出する特別な国で、光魔法の使い手なんて百年に一人。……うん、目立つ。めちゃくちゃ目立つ。そのせいで、男爵家のメイドに裏社会へ売られかけ、国外へ連れ出される直前──当時“子爵”だったバトレー伯爵に助けられる。その功績で子爵は伯爵へ昇進。……うん、ここは深く考えないでおこう。それ以来、ソフィアはバトレー伯爵家の援助を受け、男爵家とは思えない生活を送っている。そして──その息子、ダーネルと婚約。……この時点で、詰み確定だ。ダーネルは束縛系のくせに、自分は浮気三昧。外面は完璧。でも中身は最低。それでも尽くし続けるソフィア。……いや無理。普通に無理。そして学園に入学後──物語は本格的に動き出す。攻略対象は、全部で五人。(1)ツンデレ王子・クリフォード殿下。完璧すぎて人生が退屈な王子。恋を知らない残念イケメン。(2)弟王子・カーティス。甘えん坊の弟属性。軽い気持ちで近づいて、本気で落ちるタイプ。(3)婚約者・ダーネル。浮気三昧のくせに独占欲だけは一流。終盤で手のひら返ししてくるクズ。(4)教師・ギルバート。皇帝の弟。拗らせすぎてチャラ男化した結果、駆け落ちルート持ち。(5)魔族の王・スウェイン。ヤンデレ。愛が重いとかいうレベルじゃない。監禁エンド担当。……いや。どう見ても、まともなのが一人もいない。そのど真ん中に立つのが、私。「ちょっと待って、危険人物に囲まれすぎじゃない……?」思わず声が漏れた。もしこのまま“ざまぁルート”に入ったら──修道院送り、確定。
Last Updated: 2026-04-18
Chapter: 第四話:赤べこ卒業しました!
「そんな……。私、ソフィアお嬢様を可愛く仕上げることが生きがいなんです!」ロッテが縋るような目で訴えてくる。(ダメよ、私。ここで負けたら終わる)「でもね、ロッテ。私は、ロッテみたいになりたいの!」「お嬢様、なんと勿体ない!」ロッテはオーバーに床に崩れ落ちた。「ソフィアお嬢様は天使のように愛らしいのです!その愛らしさを武器になさってくださいませ!」……三文芝居か。私は小さく息を吐いた。「私ね……王子様と結ばれたくないの」その一言で、ロッテの顔つきが変わった。「まさか、クリフォード殿下が何か?」「違うの。よく考えたのよ。殿下にはレミリア様がいるでしょう?私は、身の丈に合った人と結婚できればそれでいいの」カタン、と櫛が落ちる。「ソフィア様……熱でもあるのですか?」額に手を当てられる。……無理もない。前のソフィアは、王太子妃を狙っていたらしい。でも今の私は違う。ざまぁされないためには──即撤退。それしかない。そう思った。私が知っている未来は一つだけ。断罪されて、北の修道院送り。……いや、無理。だったらもう、王子はレミリア様にお返しして、平和に生きるしかない。そう決めた、その時だった。──首が揺れてる。「ロッテ! これ、巻いて!」私は厚手の布を掴んで差し出した。言われるままに巻かれたそれは、もはや首用コルセット状態。「……お嬢様。本気でそれで行かれるのですか?」ロッテが呆れた顔で言う。分かってる。でもね──背に腹はかえられないのよ。鏡に映る自分を見て、私はニヤリと笑った。これなら“儚いヒロイン”じゃない。ただの“ヤバい女”だ。クリフォード殿下も、きっと逃げ出すに違いない。──これで、ざまぁ回避。そう確信した、その時。コクン、と小さく首が揺れた。……いや、違う。今のは違う。固定してるのに、なんで揺れるのよ!?布の内側で、かすかに“ゆらり”と動く感覚。(ちょっと待って、これ……止まってないんだけど!?)嫌な予感しかしない。それでも私は、気づかないふりをした。だって──ここで負けたら、本当に終わる。それでも私は、上機嫌を装って食堂へ向かった。
Last Updated: 2026-04-18
Chapter: 第三話:赤べこ卒業宣言!
ロッテは鏡台の前に私を座らせると、手慣れた手つきで髪を梳きはじめた。「あの……ロッテ、お願いがあるの」どうやら、いつものハーフアップにするつもりらしい。「何でしょう、お嬢様」「これからは、髪をアップにしたいの」ロッテの手が、ぴたりと止まる。「よろしいのですか? クリフォード殿下が“その髪型が似合う”と仰って、この簪を贈られたのですよ」差し出されたのは、しだれ桜のような繊細な簪だった。──クリフォード殿下。その名前に、胸がざわつく。ソフィア。クリフォード。そして、この世界観。……間違いない。ここは乙女ゲーム《きみの光が世界を救う》の世界だ。クリフォード殿下は第一王子。婚約者である公爵令嬢レミリアを捨てて、ヒロインと結ばれる男。……いや、ちょっと待って。ゲーム本編では、こんなに関係は進んでいなかったはず。「えっと……クリフォード殿下って……」恐る恐る尋ねると、ロッテはあっさり答えた。「お付き合いしておられますよね?“悪役令嬢から奪ってやった”と、とても喜んでいらっしゃいました」……え?背中に、冷たいものが走る。あの作品は、後にスピンオフで大ヒットした。ヒロインが王子を奪い、最後に断罪される話。──まさか。ざまぁされる側に転生した……?顔から血の気が引く。「どうなさいました?」ロッテが心配そうに覗き込む。「と、とにかく! 髪はアップでお願い!」思わず強く言ってしまう。ロッテは慌てて頷き、手を動かした。出来上がったのは、上品で清楚なまとめ髪。……いや、普通でいいんだけど!「いかがでしょうか? お嬢様」鏡に映るのは、整えられた可憐な自分。「いつもありがとう、ロッテ。でも、明日からはもっとシンプルでいいわ」ロッテは、少しだけ驚いた顔をした。──ごめんね。でも私、もう決めたの。“首が揺れるヒロイン”は、卒業する。その瞬間──コクン、と小さく首が揺れた。……いや、違う。今のは違う。揺れてない。揺れてないはず。なのに鏡の中の私は、ほんの少しだけ、可愛く頷いていた。(……は?)
Last Updated: 2026-04-18
Chapter: 第二話:あれ? 私……赤べこになってる?
「このクソ女! 私が死んでるのに、なに可愛こぶってるんだよ!」叫んだ瞬間、勢いよく上体を起こした。息が荒い。心臓がうるさい。……生きてる? 私。目に入ったのは、真っ白で統一された部屋。レースだらけのカーテンに、フリルまみれの寝具。そして──天蓋付きのベッド。……何これ。乙女の夢詰め合わせセット?嫌な予感しかしない。自分の格好を見て、さらに引いた。ピンクのフリフリナイトウェア。……無理。これ、私じゃない。慌ててベッドを飛び降り、鏡へ駆け寄る。映っていたのは──ゆるふわのピンク髪。透き通るような白い肌。宝石みたいな瞳。──めっちゃ美少女。いや待って。落ち着け。前世の私は、逆三角形の骨太体型。木から落ちても無傷で、折れるのはいつも男友達だった。それが今は──折れそうなくらい細い手足。撫で肩に、華奢な身体。(しかもスタイルまでヒロイン仕様って……どういうこと)……いや、それはいい。問題はそこじゃない。──なんで首が揺れてるの?気づけば、首がゆらゆらと揺れている。止めようとしても、止まらない。しかも──いつの間にか、両手が口元に添えられていた。その仕草、誰の指示?鏡の中の“知らない自分”に、思わず眉をひそめる。あの女の姿が脳裏をよぎって、イラッとする。……なのに。首だけは、ずっと揺れている。「お前は赤べこか!」思わずツッコミが出た。いや、やりたい人はやればいい。それでモテるなら、好きにすればいい。でも、私は嫌だ。この首、勝手に動きすぎじゃない?そんなことを考えていると、扉がノックされた。「はい」返事をした瞬間、また違和感に気づく。──声まで可愛い。ドアが開き、メイドが入ってきた。記憶を辿ると、この身体の持ち主──ソフィア付きのメイドらしい。名前はロッテンマイヤー。長いから「ロッテ」と呼んでいたようだ。「失礼いたします、お嬢様」ぺこりと頭を下げた彼女は──まさに、前世の私タイプだった。骨格がしっかりしていて、少し低めの声。(あぁ……羨ましいわ、ロッテさん)
Last Updated: 2026-04-18
花火

花火

結婚して十年。 45歳の鮫島彩花は、穏やかな夫と何不自由ない生活を送っていた。子供はいないが、それでも満ち足りた人生だと思っていた。 都内の本社勤務を命じられ、久しぶりの電車通勤に疲れていたある日。 彩花は駅の改札で、何度も顔を合わせる男――三島健人と出会う。 何を考えているのか分からない不思議な男。 だが彼は、なぜかいつも彩花の前に現れる。 しかし健人の薬指には、銀色の指輪があった。 既婚者同士。 決して踏み込んではいけない関係。 それでも二人は、夜空に咲く花火のような儚い恋に堕ちていく。
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Chapter: 別々の新しい人生
「あれ?彩花?」 アイツと別れてから、五年の月日が流れた。 会社を辞めてから抜け殻のようになった私を心配して、主人が猫を二匹もらってきた。 「俺達には子供はいないから、代わりにでもなれば……」 そう言って渡された小さな命。 その子達のおかげで、私は少しずつ日常を取り戻していった。 近所のスーパーでパートをしている私に、ある日、懐かしい人物が声をかけてきた。 「小田切!どうしたの?」 品出しの手を止めて振り向くと、小田切はベビー用品を手にしていた。 「え!小田切、もしかして!」 私が笑うと、 「違う違う!これは三島のお祝いだよ!」 と叫ばれた。 『三島』という名前に、心臓がドキリと跳ねる。 「お前が辞めたあと、あいつかなり荒れてたんだよ。それで今は、ウチの営業所にいる」 そう言われ、胸の奥がざわついた。 「まあ、何度か離婚の危機もあったみたいだけどな。奥さんが必死に立て直して、やっと今年パパになったんだ」 小田切はそう言って笑った。 「そっか……」 小さく呟く。 「なあ……お前が会社辞めたのって……」 小田切が言いかけた言葉を、私は遮った。 「ほら!お祝い包んでもらうんでしょう?」 背中を押して、話題を逸らす。 小田切は少し黙ってから言った。 「なあ彩花。お前はこれで良かったのか?」 私は笑顔を返した。 「ねえ、小田切。私にも可愛い子供がいるの」
Last Updated: 2026-03-23
Chapter: 本当の別離
「じゃあね」 私は玄関で先に靴を履き、アイツに別れを告げた。 アイツとは、この部屋で別れようと決めていた。 私が先に部屋を出て、そのあとでアイツが出る。 それが、私の最後のケジメだった。 ずっと黙っていたアイツが、握手を求めて差し出した私の手首を掴み、強く抱き寄せた。 「このまま……二人でどこかへ逃げましょう」 そう言われて、私は首を横に振る。 「もう、これで本当に最後だよ」 真っ直ぐに見つめて言うと、アイツの瞳から涙が溢れて落ちていく。 頬を伝う涙を拭ってあげたくなった。 でも私は拳を握り締め、必死に笑顔を作った。 「じゃあね。バイバイ」 背中を向けた瞬間、アイツが後ろから強く抱き締める。 「そんな顔されたら……手放せない」 その言葉に、涙が溢れて止まらなくなった。 それでも私は、アイツの腕をそっと解いた。 「健人……愛してる」 震える声で、言葉を続ける。 「でも──愛してるから……さよなら」 そう言って、私はドアを飛び出した。 閉まりかけたドアの向こうで、アイツが崩れ落ちる姿が見えた。 本当は── 引き返したかった。 震える身体を、強く抱き締めたかった。 でも、私達にはそれぞれ待っている人がいる。 それは、変えられない事実だった。 涙を拭い、私は足早に駅へ向かう。 電車の乗り継ぎでアイツと鉢合わせしないよう、わざと遠回りをして帰った。 帰り道
Last Updated: 2026-03-22
Chapter: 魔法が消えるまで……
久しぶりに重ねた肌は熱くて、このまま互いの熱で燃え尽き、灰になれたらいいのに……と思った。アイツの、私を求める熱が嬉しかった。もう、二度と誰かをこんなふうに愛せないだろう。抱かれる幸せも、女に生まれた喜びも……全部、アイツが教えてくれた。何度も肌を重ね、私は初めて、私を抱き締めて眠るアイツの寝顔を見た。長くて綺麗な睫毛に触れると、ぴくりと瞼が動く。触れ合うアイツの肌はどこも瑞々しくて、自分の老いた肌とは明らかに違っていた。こんな私を、どうしてこんなにも求めてくれるのか――分からなかった。もう少しだけ遅く生まれていたら。もう少しだけ早く出会えていたら。どうにもならない想いばかりが浮かんで、胸が痛くなる。タラレバを思ったところで、現実は何も変わらない。だったら、残された時間を大切に過ごそうと決めた。朝起きて近くの漁港へご飯を食べに行き、朝市で食材を買う。昼は二人でキッチンに並び、料理をした。すべてを忘れて、普通の恋人のような時間を過ごした。買い物をすると、すぐ荷物を持ってくれるところ。別々の物を買うと、人の買った物が気になって食べたがるところ。手を繋いで歩きたがるところ。初めて知るアイツの姿が愛しくて、私はその全部を胸に刻み続けた。「彩花」そう呼ぶ声が好きだと思った。差し出す大きな手も。風に揺れる漆黒の髪も。笑うと細くなる目も。全部、全部――大好きだった。そう思う時間が積み重なるほど、別れの時は近付いてくる。夜の帳が下り、夕飯を終えた私達は、ダブルベッドに腰掛けて窓の外を眺めていた。海辺に近いこのマンションからは、毎週土曜日に打ち上がる花火がよく見える。「綺麗……」ぽつりと呟く私を見つめて、アイツは「うん……」
Last Updated: 2026-03-21
Chapter: 偽りの夫婦
独身の頃から勤めていた職場の最終日は、あっけないほど静かに終わった。送別会の類はすべて断った私は、アイツとの待ち合わせ場所へ急いだ。元々その日は、奥さんが学生時代の友人のハワイ挙式に出席するため、前日から留守にしているらしい。アイツは前から、私と旅行に行こうとリゾートマンションの宿泊を手配していたのだという。「さよなら旅行になっちゃいましたね」そう言って、彼は悲しそうに笑った。電車を乗り継ぎ、ようやく宿泊先のリゾートマンションに到着する。マンションなので受付もフロントもなく、アイツは持っていた鍵で部屋のドアを開けた。そして振り返り、「彩花はちょっと待ってて」と言うと、先に中へ入っていく。「五分経ったら入って!」そう言い残して、ドアを閉めた。キッチンの灯りが漏れ、バタバタと走り回る影が見える。(何してるんだか……)苦笑いしているうちに五分が過ぎ、私は玄関のドアを開けた。すると――「彩花、おかえり」アイツが笑顔で迎えてくれた。「お風呂にする? ご飯にする?それとも俺にする?」努めて明るく、ふざけた調子で言うアイツ。その気持ちが胸に刺さり、涙がこみ上げる。「健人……」そう呟いた瞬間、涙が溢れた。「え? 何? どうした? 彩花?」突然泣き出した私に、アイツは慌てている。私は靴も脱ぎきらないまま、彼に抱きついた。「健人がいい!」思わず叫んでしまう。するとアイツは、くしゃくしゃの笑顔を浮かべて言った。「ネタだったのに……」そう呟きながら、私を抱きしめた。唇が重なり、ゆっくりと抱き合う。「今から明後日の昼まで、俺達は夫婦だよ」そう言って、彼の額が私の額にそっと触れる。
Last Updated: 2026-03-20
Chapter: 最初で最後の旅行
その日、私は部長に退職届を提出した。アイツと別れるには、離れるしかないと分かっていたからだ。あの日以来、アイツの奥さんが泣いている姿は見ていない。「きちんとするから……バレないようにするから……」縋るように言われ、結局、有耶無耶にされてしまった。それでも私は、アイツとの逢瀬だけは避け続けた。会社で会えば挨拶を交わす。まるで出会った頃に戻ったような関係。違うのは──書類を渡す時、指先が触れるだけで泣きたくなってしまう、この厄介な気持ちだった。そんなある日。緊急事態で残業していると、「鮫島サン、ラストですよ。サーバー切りたいんですけど」懐かしい言葉に、涙が込み上げてくる。必死に堪えて、「あ!今終わらせる。遅くまでお疲れ様」そう言って微笑むと、アイツは私の腕を掴み、スマホでどこかへ連絡を入れ始めた。「あ、俺。うん。今朝話した通り、夕飯外で食べて帰るから」そう言われ、慌てて見上げると、「じゃあ、帰りましょうか」そう言って歩き出した。駅に着いても、乗り換えても、アイツは手を離さない。「ホテルに行かなくて良いですから。飯くらいは付き合って下さいよ」そう言われ、私は小さく頷いた。「会社……なんで辞めるの?」ぽつりと呟かれ、ハッとして顔を上げる。泣きそうなアイツの顔に、胸が痛くなる。「俺のせい?俺が好きになったから?しつこく追い回すから?」歩きながら言われ、私は首を横に振り続けた。「私が……健人を好きになったから……」涙を堪えながら、必死に笑顔を作る。「だったら!」「私じゃ……私じゃ、あなたの遺伝子を残せない……」一粒の涙が、頬を伝って落ちた。「そんなの要らない!」強
Last Updated: 2026-03-19
Chapter: 別離
その日から、私は残業をしないよう、仕事を定時きっかりに切り上げるようにした。アイツとも、偶然でも会わないように時間をずらす。何か察したのだろう。二週間が過ぎた頃だった。会議が終わり、会議室の片付けをしていると、突然ドアが閉まり、鍵の掛かる音がした。ハッとして振り向くと、アイツが立っていた。「何で避けるの? 俺、何かした?」そう聞かれて、私は震える手を悟られないよう、手にしていたトレイをテーブルに置いた。(ダメだ……。まだ、こんなにもアイツが好きだ……)胸を締め付ける痛みに、ゆっくりと深呼吸をする。「ねぇ! 黙っていたら分からないじゃないか!」アイツの手が、私の手首を掴み上げた。見上げたアイツの、切なそうな顔。一度は自分の気持ちにケリをつけたはずなのに……脆くも崩れ落ちそうになる。「もう……止めよう」ぽつりと呟いた私に、アイツは目を見開いた。「何で?」肩を掴まれて問われる。「お互い、家で待つ人が居るじゃない……」絞り出すように言うと、「離婚すれば良いの?」そう返され、私は首を横に振った。恋人関係とは違う。結婚したら、簡単に離婚なんて出来ない。お互いに、それは分かっている。分かっているからこそ、今の関係を選んだのに……。「奥さん、泣いてたよ」ぽつりと呟くと、「彩花は俺と別れて平気なの?」そう言われ、泣きそうになる。「そんな事、聞かないで……」涙が溢れ出した私を、アイツはゆっくりと抱き締めた。身体に馴染んだ体温。覚えてしまった体臭《におい》。それが、私の身体を熱くさせる。どれほどアイツを求めているのか。どれほど深く愛してしまったのか。
Last Updated: 2026-03-18
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