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桃色の花は甘い花粉を撒く。蕩けてしまいそうだ……。

last update Terakhir Diperbarui: 2026-01-01 11:10:42

新木葵や「生きとし生けるもの合同会社」について調べ始めて一週間ほど経ったが、

成果は何もなかった。

合同会社の名前自体、

SNSや5chでの噂程度しか出て来ず、

本当に存在するのかも不明だ。

噂の内容としては合同会社から商品を購入すれば夢のように甘い恋愛を堪能できると言われている。

だが、

具体的なエピソードは全く出て来ない。

「小中学生立ちんぼ倶楽部」に関しても利用していたという声は一切出て来ず、

5chなどでも当時の関係者は全員死んだのではないかと言われている。

新木葵も懲役刑を課せられた後の行方は分からず終いだ。出所しているかどうかも不明だ。

噂では多く出回っているにもかかわらず、確実な情報は何もない。

唯織も特に新しい発見はないようで、

日に日に苛立っているのが雰囲気で分かる。

早くこんな生活終わらせたい。

「戸塚でのライブ見たよ。たくさん良い曲持っているじゃん」

急にラインで沙耶から誘いがあった。

唯織との生活に息苦しさを抱いていたのですぐに駆け付けた。

誘われるままに喫茶店に入って沙耶とカウンター席で横並びに座って話していた。

彼女は肩あたりまでウェーブのかかったミルクティ色の髪を下ろして良い香りを振りまいていた。

彼女が喋るたびに多幸感で溢れる。

「そんなこと、

ないよ。

だって、

俺、

全然売れていないし」

左頬を彼女のマシュマロクリームみたいな視線が撫でる。

直視できず、

彼女の顔を横目で盗み見するしかできない。

一瞬だけ見てすぐに下を向いて爪先を見つめる。

「何でそんなに否定しちゃうの。

勿体ないよ」

理由など分かりきっている。

昔から俺自身に存在価値は無いに等しいと思わされてきた。

初めて自身の卑小さに気付かされた日の記憶が思い出される。

中学一年の時、

教師との面談の機会があった。

将来はL'Arc~en~CielのHydeみたいな歌手になりたいと思い切って伝えた。

この頃から俺は音楽に魅せられていた。

だが、

面談での話を盗み聞きされていた。

学校を出たところで同級生にHydeになるには顔から変えないと駄目だと笑われ、

顔の形が変わりそうになるほど何度も殴打された。

──死んでから人生やり直した方が早いだろ。

同級生の一人から殴られながら言われた。

よく覚えている言葉だ。

俺は地味な生徒だったので、

そんな男が大それた夢を語ったのが気に入らなかったのだろう。

だが、

この件をきっかけに歌手になる夢を抱いた俺自身を正当化させるため、

絶対に夢を叶えなければならないと自覚を抱き始めた。

しかし現実は厳しく、

芽の出ない歌手活動を通して自身の無力、

無価値さを痛感させられた。

歌で売れない限りは自信というものを手に入れられない気がする。

「どうしたの。

顔が暗いよ」

嫌な記憶に溺れていると沙耶が声をかけてくれた。

一瞬だけ彼女の顔を見た。

こんな俺が目を合わせて良い女性ではない。

すぐに目線を逸らす。

「大丈夫。

ちょっと、

昔のこと思い出していただけ」

「思い出したくないほど嫌な過去があるんだね。

ごめん、

変なこと聞いちゃって」

昔の話をしたら沙耶にも嫌われるだろう。

過去の俺自身の願いを正当化するためにも歌手として売れないといけない。

「私にも消し去りたい過去があるんだよね」

寂しそうな声だ。

驚いて聞き返そうとした途端に抱き着かれ、

思わず喉から笛音みたいな声を出した。

半袖のワンピースから露出した彼女の腕の皮膚が俺の腕の皮膚と密着する。

俺なんかと皮膚同士でくっ付き、

申し訳ない気がして落ち着かない。

「私も昔の本当に嫌な話は誰にも言えないもの。

亮さんもきっと同じだよね。

すごく気持ち分かる」

すぐ傍に沙耶の顔がある。

緊張から暴れている心臓の音が彼女にも伝わっているかもしれない。

「もう亮さんの辛かった話は聞かないようにする。

亮さんも私も昔を忘れて今を全力で楽しもうよ。

約束」

彼女は俺から体を離し、

目の前に小さくて白い儚げな小指を立てた。

俺の太くて褐色の汚い小指を儚げな小指にふわりと絡ませた。

彼女の方からクッと力が入れられた。

「こんな風にお互いに約束を守ろうって思えるのって、

亮さんから溢れ出る真面目さっていうか、

誠実さみたいな雰囲気があるからだと思うな」

沙耶はこの前会ったばかりの女性で、

まだ年齢から出身地や趣味まで何もかも知れていない。

正体不明な女性だ。

どうして俺なんかを認めてくれるのかも分からない。

もっと良い男なんてごまんといる。

彼女に見合う高スペックなイケメンが他にいるはずだ。

少なくとも俺には勿体なすぎる。

彼女の真意が知りたい。

藤沢亮という一人の男の存在を認めてくれるのか。

歯を食いしばり勇気を持ち、彼女の視線に目を合わせる。

円らな瞳が俺を上目遣いでしっかり見つめる。

モカブラウンのカラコンで囲まれた瞳の黒が俺を惹き付けて仕方がない。

「ありがとう、絶対に約束します」

沙耶が喜んでくれるなら何でもするつもりだ。

「本気で言っているの」

彼女は揶揄いながら俺の頬を人差し指で突く。

指先の指紋の凹凸が俺の頬の凹凸と一瞬でも合致するのではと思うと体が火照る。

当然本気だと伝える。

「今日からずっと一緒にいたいからさ、

本気の亮さんの気持ちを示してほしいな」

口角を上げて目を三日月型にしながら、

子リスの悪戯前みたいな表情で笑んでいる。

今日からずっと一緒という言葉により脳髄から蕩けそうになる。

「もちろん、

沙耶さんのためなら何でもやるつもりだよ」

「嬉しい。

すっごい嬉しい。

実はね、

今日お願いがあって呼んだんだ」

椅子に座りながら小さく上下に弾み、

彼女は俺の左耳に温かい吐息と一緒に言葉を送り込む。

昂奮し、

下半身が熱くなる。

「何でもやるつもりですよっ」

「嬉しい。

じゃあさ、

今同棲している人と別れてほしいなって思っている」

急に胃腸を鷲掴みにされたように、

ウッと声が出た。

唯織の切れ長の目が虚空に幾つも浮かび、

どう答えるのか見られているような気がする。

俯いて彼女の幻の目を見ないように努めた。

沙耶に会った時、

いつかは唯織と別れなければと薄々考えていた。

だが、

思っていたよりも早い。

「そうだよね。

うん。

いつか別れて来るよ」

「いつかじゃなくて今日別れを切り出してほしいな。

じゃないと安心できない」

正直、

もっと時間がほしい。

唯織は初めてできた彼女で簡単に別れて良いのか分からない。

だが、

糖分の多いレモンに似た黄金の月のように、

俺の暗い人生に光も甘さも刺激もくれる沙耶が、

いつまでも闇空で待ってくれるなんて思えない。

人生にとってどちらが大事な存在なのか。

唯織か。

沙耶か。

唯織と一緒にいて幸せなのか。

彼女を幸せにできるのか。

一年前に彼女と結婚も考えた時がある。

女性は妊娠の時期も考えないといけないから、

なるべく体力のある若いうちに結婚して家庭を築いた方が良いと知ったのがきっかけだった。

正直その頃は俺自身の夢も大事だが、

唯織との生活がより大事だと思っていた。

意を決して正社員として働いて安定を得て唯織と結婚しようと思っていた。

──別に私は結婚なんて考えていないんだけど。

勝手に決心した俺自身も悪いと分かっている。

だが、

あまりにも冷たい反応をされて彼女に対して不満を抱いたのも事実だ。

唯織は俺が嫌いなのか。

疑いすらも深まった。

そもそもなぜ俺と一緒に同棲しているのかも分からなくなっている。

今も赤子殺しの調査で空気は最悪だ。

対して、

沙耶はこんなにも優しくて瑞々しい時間をくれる。

今二人でコーヒーと一緒に注文した白桃のケーキは、

健康や体を気にする唯織とでは食べられない。

唯織はシュートボクシングの現役選手だった高校時代、

昼休みの弁当で蒸し野菜とサラダチキンを食べていたような人だ。

毎日強くなると意識して生きているような人だ。

今もあの頃とメンタルは変わらないように見える。

「亮さん、

ダメなの」

小首を傾げた沙耶は右手の指先を頬から離し、

そのまま下へ行き、

膝の上に置いていた俺の手の甲をヒタリと這う。

顔を上げた。もう唯織の幻の目は見えなかった。

「分かった。

今日別れを切り出してみせるよ」

「嬉しい。

どうなったか、

明日のお昼までに連絡してね」

その後二時間ほど沙耶と微笑み合いながら雑談して解散した。

空はすっかり暗くなっていた。夜空を見て初めて今日の唯織のシフトは遅番だという事実を思い出した。

明日のお昼までに沙耶に連絡しないといけないので、翌朝彼女が帰宅して寝るまでの間に話をするしかない。

どんな反応をするのか。正社員になると宣言した時と同じ冷淡な反応だろうか。

夜空を見て歩いていると、月が見えた。黄金の三日月だ。沙耶が見守ってくれているように錯覚する

──いつまでも一緒にいるよ。

言葉が投げかけられた気がする。

沙耶と一緒になって幸せ者になって良いのか。

恋ってこんなにも魅力的なのか。

「生きとし生けるもの合同会社」は恋物語を売っていると唯織は言っていた。

恋がこんなにも魅力的なら確かに事業として成立するなと一人で納得した。

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  • 艶撫亮~embryo~   第三章 亮と唯織に桃色の毒の粉が降りかかる

       ♢ 唯織遅番の仕事が終わる早朝、帰路に着いていた。日々「生きとし生けるもの合同会社」や「小中学生立ちんぼ倶楽部」について調べているが、全く正体が掴めない。調査が進展しない現実と、毎日精一杯ナースとして働いているので蓄積する疲労で体が重たくなっている。警察の方でも特に捜査に関して連絡もなく、亮も情報を入手していないようだ。そもそも亮は真剣に考えているのかも謎だ。唯一発見したのは、自身の娘が「小中学生立ちんぼ倶楽部」でお金を稼いでいたと発覚した母親のインタビューが載った記事のみだ。記事も二〇一三年の立ちんぼ倶楽部が解体した年にて刊行された雑誌のものだった。そこには立ちんぼ倶楽部に所属する女の子の手口が明らかにされていた。まずは標的にした男性に彼女や奥さんがいた場合、ターゲットにした日の内に別れさせる。奥さんや家族が目を覚ますと既に男は家を出ているケースが多いようだ。次に仕事を辞めさせて女の子に余計依存させるようにする。一人になった男性を金銭面で補助まですると書かれていた。すっかり依存した男は体に女の子の名前の入れ墨を彫るなどで一生忘れられなくさせ、他の女性に意識を取られないようにするようだ。その後、男性はなぜか忽然と姿を消すと書かれていた。帰宅してシャワーを浴びながらインタビュー内容を思い出す。あまりに徹底しており、合同会社の抜け目なさを感じる。疲れた頭ではこれ以上推測も難しかったので今は風呂から出て寝ようと決めた。「唯織、ちょっと良いかな。話したいことがあって」風呂から上がり朝食を済ませてから部屋に籠って布団に潜ろうとした時だ。私の部屋の扉の外から亮の声が聞こえた。早く寝たいので、さっさと済ませてほしい。とりあえず扉を開けた。一重瞼で自信なさそうな垂れ目の中の黒目がキョロついている様が私を苛立たせる。背が高めでひょろ長い体格も余計に自信なさそうに見えて不愉快さを増す。何を臆しているのか。部屋に入ってからもスゥーハァースゥーハァー言っているだけで話を切り出さない。「話さないなら寝てからにして。眠くて仕方ないんだから」「分かった。言う。言うから聞いてほしい」言うと言ったくせに結局中々言わない。亮の優柔不断で臆病なところが嫌いだ。「俺ね。好きな人ができたんだ」もわっと亮の口

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  • 艶撫亮~embryo~   甘々な謎の美女、沙耶。桃色の妖しい光

    翌日、予定通り俺は横浜駅の相鉄ジョイナス前の広場にて路上ライブを敢行した。昨晩作った新曲を引っ提げてエレキギターを担ぐ。だが、いつもの通り誰も俺の歌に興味を持ち、足を止めて聴いてくれる人はいない。諦めて帰ろうと思った時に横から視線を感じた。「藤沢亮さんですよね」パステルピンクの綿あめみたいな、柔らかく甘々な声が聞こえる。二十代前半くらいか茶髪の前髪ありの三つ編みおさげにした女性が俺を見ていた。マイクスタンドを挟んで目の前に立つ彼女は、ライブ前に配ったフライヤーを両手で持っていた。決して大きすぎないつぶらな瞳、綺麗な並行二重まぶたが魅力的だ。緊張から鼓動が速くなり、苦しい。「はっ、はい、そ、そうですけどっ。何かありましたかね」彼女は目を三日月型にし、上の歯だけ見せるようにニッと笑む。桃色の唇の間からバロックパールにも見える綺麗な歯が覗く。「歌、上手ですね。つい聞き入っちゃいました」動揺から上手く言葉が出ない。聞こえるか聞こえないかギリギリの掠れ声で感謝を述べ、深くお辞儀した。褒められるのは嬉しいが百パーセント本気にはできない。常に皮肉の可能性も考える。歌手として実力がないと分かっており、額面通りに受け入れない。調子に乗っていると思われてはいけないので喜んで見せる行動も慎む。褒められて調子に乗ったと見られたり、他の曲を演奏してがっかりされたりしたくないので、今日はこのまま片づけて去ろう。プッツリとアンプの電源を切った。「他の歌も聞かせてくださいよ」適当におだてて下手な曲を聴いて馬鹿にしたいだけの可能性もある。通りすがりの人間に俺の無様さを晒す目的も考えられる。そうでなければ、こんな可愛い子が俺を褒めるわけない。歌手として成功できていない事実を完璧に自覚しているため、万が一罠だった場合を考慮する。「どうしてですか、俺は全然、人から必要、とされてなくて結果を出していない、売れていない歌手ですよっ」彼女のカスタードクリームを連想させる滑らかな頬がオレンジに色づく。「そんなことないですよ、もっと自信持ってくださいよ」自信なんて高価なものは身の丈に合っていない。路上ライブをしても誰からも相手にされず、唯織からも呆れられている俺が自信なんて身に着けて良いわけがない。

  • 艶撫亮~embryo~   第二章 藤沢亮の登場。今は呑気にしているも……。

       ♠ 亮帰宅すると部屋の中は真っ暗で唯織は帰っていなかった。確か今日は朝からいなかったので昼勤のはずだ。既に二十一時半、まだ帰って来ていないのは珍しかった。大体二十一時までには帰っており、居間で筋トレをする習慣がある。彼女は同じ高校の同級生だ。学生の頃にシュートボクシングの選手として日々汗を流しており、高校を卒業してから七年間恐らく筋トレは欠かしていないほどストイックだ。高一の時の夏に協会が主催する試合で負けてから、負けず嫌いに拍車がかかったと言っていた。俺は特に体に気を使っていないので、夕食用に買っておいた一食五百円の焼きそばを作る。パソコンを起動させて途中になっていた曲作りの打ち込みを再開する。明日は横浜駅前の広場で歌手藤沢亮として路上ライブを行う。俺は売れていないアーティストだ。このまま売れないで死ぬわけにはいかないと常に焦りを抱いている。時間があれば音楽のことを考え、毎日曲作りをするように意識している。焼きそばを箸で突きながら必死にキーボードを叩いていると、背後から施錠を解く音が聞こえた。ようやく唯織が帰宅したようだ。おかえりと挨拶しても、うんと一言淡泊な言葉が虚しく響くだけだ。唯織が冷たいのはいつものことなので特に不満を抱きはしない。だが、悲しみがゼロだと言えば嘘になる。売れていない歌手である俺を一人前の人間だと認めていないに違いない。唯織は毎日看護師としてプライドを持って仕事に向かっている。売れずに何も価値を生み出せない俺に負の感情を抱いてもおかしいとは思わない。悲しい現実ではあるが、結果を出していない俺が悪いので文句を言う筋合いなどない。現状を変えるためには歌手として売れるしかないので、毎日必死で曲を作って路上ライブを敢行し実践を積むしかない。「亮さ。『生きとし生けるもの合同会社』って聞いたことないかな」振り返ると唯織は椅子に座って腕を組んでこちらを見ていた。顎が細くて唇は薄く奥二重の目が冷酷そうに見えるが、仕事に対して誰よりも情熱がある人だ。「聞いたことのない会社名だよ。それがどうかしたの」「この前さ、うちに赤ん坊の死体置かれたじゃん」一週間ほど前、うちに赤ん坊の死体を放棄される事件が起きた。その夜スタジオに籠っていたので直接目にはしていないが唯織から

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