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第9話

作者: レタス
蘇可児は奇跡的に回復し、インタビューに応じられるほどになった。

腹の中の胎児も無事であり、これは医学界における大きな奇跡とされた。

ゆえに多くの人々が苗疆の巫医を研究し始める。

秦時聿と藍珈の結婚式も、慌ただしく準備が進められていた。

結婚式の前日、秦時聿は藍珈が久しく身に着けていなかったミャオ族の衣装に袖を通す姿を目にした。

精緻な刺繍の施された裾と袖口が藍珈の歩みに合わせて揺れ、銀製の頭飾りと首飾りが触れ合い、澄んだ心地よい音を奏でた。

漆黒の長い髪は腰まで垂れ、数本の髪束は丹念に細かな三つ編みにされていた。

藍珈の青い瞳はひときわ人を惹きつけ、容易に魂を深い青の渦へと巻き込んだ。

秦時聿は見惚れ、記憶の中で記憶の中で笑うたびに眉を弾ませたあの少女が、再び鮮やかに息づいたように思えた。

「やはりミャオ族の衣装を纏った藍珈が一番美しい」

「うん」

しばらく見つめていた秦時聿は、藍珈の姿に何かが欠けているように感じ、思案した末にようやく気づいた。

「あの同心玉、どうして身につけてないんだ?」

「砕けた」

秦時聿は息を呑み、思考は瞬く間に蘇可児の妊娠を知らされたあの日へと引き戻された。

その日は、ちょうど藍珈と付き合いを始めて五周年の記念日だった。

藍珈は食卓いっぱいの料理を用意していたが、秦時聿はひと口も味わう前に、蘇可児からの電話で呼び出されてしまった。

藍珈は記念日を大事にする人間で、その頃すでに秦時聿を疑い始めていたため、彼女は玄関で立ち塞がり、仕事を断るよう迫った。

苛立っていた秦時聿は、もみ合う中で藍珈を突き飛ばしてしまい、その拍子に玉は砕けた。

彼はそのまま急いで出て行き、「後で新しいものを贈る」と言い残したが、父親になると知らされて舞い上がり、その約束をすっかり忘れてしまった。

「今すぐ職人を呼んで修理させる」

再び胸の奥に不安が湧き上がる。

ここ数日、秦時聿はよく眠れず、常に何かが起こる予感に囚われていた。

「要らないわ。玉は砕ければ元には戻らない」

藍珈の声は淡く、湯気の立たない白湯のように、味気なかった。

玉が砕ければ愛情も絶える。二人の契りはもはや無効となっていた。

「そうか、新しいのを買おう。玉なんて身につけていれば壊れやすい。俺のあれはずっと戸棚にしまってあるんだ、ちゃんと保管してあるよ」

秦時聿は取り繕うように笑い、思わず衣の裾を指で撫で続けた。その仕草は、自らの動揺を必死に宥めようとするかのようだった。

藍珈はスーツケースを持ち上げ、周囲を見回して忘れ物がないか確かめると、表情を変えぬまま秦時聿に言った。

「私はホテルから嫁ぐ。苗疆の習わしでは、今日の正午から明日の正午まで新郎新婦は顔を合わせてはいけないの。

そうしないと、結婚後は夫婦仲が悪くなり、争いが絶えなくなる」

「わかった」

明日にはウェディングドレスを着た藍珈に会えるはずなのに、秦時聿はまるで別れを告げているような気がした。

心に突然名残惜しさが湧き上がり、思わず藍珈に近づいて抱きしめた。

「藍珈、どうしてこんなに痩せてしまったんだ」

目を閉じた秦時聿は、彼女が腕の中であまりに軽く、簡単にすり抜けていきそうに感じた。

「藍珈、どうか俺から離れないでくれ」

秦時聿は彼女の首筋に顔を埋め、深く息を吸った。

藍珈はただ立っていた。何の反応も示さず、秦時聿が抱擁を終えて手を離すのを待つだけだった。

……

窓外の風景は移り変わり、北から南へ、雪に覆われた大地から木々が生い茂る景色へと変わっていった。

藍珈は祖父と再会し、懐かしい村に戻ってきた。

祖父はすでに待ち構えており、その姿を目にした老人の瞳に、複雑な光が走った。

彼は藍珈の肩を軽く叩き、何も言わずに静かに村の中へと導いた。

藍珈は華やかな聖女の衣装を纏い、風に吹かれて銀の飾りがカランコロンと音を立てる中、村の式典や祭りが行われる祭台(さいだい)の上に立ち、北の空を仰ぎ見た。

その時から、この世に藍珈は消えた。残ったのは苗疆の聖女・姜央(しょう おう)だけだった。

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