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蒼き山に縛られし骨と沈む月
蒼き山に縛られし骨と沈む月
Author: 柚子ひとつ

第1話

Author: 柚子ひとつ
曇市一の高級ホテル、そのVIPスイートのバスルーム。

全身裸のまま、朝倉紗夜(あさくら さよ)は葛城晴人(かつらぎ はると)に押さえつけられ、浴槽の中で激しく抱かれていた。

目の前には巨大な窓ガラス、半分の街が夜景になって揺れている。

晴人は興奮した様子で首筋をきつく掴み、「どう?ドキドキしてる?」と挑発的に囁いた。

ようやく全てが終わると、紗夜はぐったりとバスタブに沈み、少しだけ目を閉じてしまう。

再び目覚めたとき、バスルームには自分一人しかいなかった。

ドアは外から鍵がかかっている。

紗夜は必死に叩いたけど、外からは何の気配もない。

「晴人!そこにいるの?ドアが壊れたみたいで、開かないよ!」

「晴人!」

叫んでも、返事はない。

三年前の火事がトラウマになって、紗夜はひどい閉所恐怖症になっていた。

狭い空間に閉じ込められると、恐怖と震えが止まらなくなる。

必死に助けを呼んでも、誰も来てくれない。

呼吸はどんどん荒くなり、胸が締め付けられていく。

頭の中には、両親が炎に包まれていく映像が離れなかった。

気を失いかけたそのとき、ようやく外から物音がした。

「紗夜、ドアが壊れちゃったみたい。もう少しで開くから、頑張ってて」

晴人が業者を連れて戻ってきた。

ドアが開いた瞬間、紗夜は晴人の腕の中で気を失った。

「紗夜、ごめん。全部俺が悪いんだ。ずっと側にいなきゃいけなかったのに」

優しく抱きしめる晴人の目は、ひどく心配そうだった。

少しだけ休んでから、晴人は隣のスイートで友人たちとカードゲームを始めた。

さっきの恐怖も不快感も、まだ胸の奥に重く残っている。

無理やり身体を起こし、みんなの夜食でも持っていこうと部屋を出る。

隣の部屋のドアは半開き。

中から聞こえてくる声が、どうしても耳に入ってしまった。

「晴人、俺は思うんだけど、さっきもっと放っておいてやればよかったんじゃね?もっと症状悪化してたかもな。そっちのが復讐になるだろ」

「はは、あいつ絶対まだ晴人のこと救世主とか思ってんだろうな。笑えるよなぁ。晴人があいつのことなんか好きなわけないのに。三年間も付き合ってやったのは、全部復讐のためだってのにさ」

「だよな。卒論も、こっそり晴人がすり替えたせいで卒業証書パー。ちょっと優しくすれば、すぐ感謝して懐くんだからさ」

「それに、親の遺骨も晴人が捨てたのに、警察に一緒に駆け込んでやって、感謝される始末。本当のことなんて何も知らないんだよ」

「会社で徹夜してたときも、わざと事故起こさせて警察沙汰にして、晴人が助け出した時なんか、感動しすぎてその場で結婚してって泣きついたらしいぜ。マジ笑えるよな。全部、晴人が仕掛けたことなのに」

「……」

心臓がバクバクと激しく跳ねた。喉は苦く、手のひらにじわりと汗がにじむ。頭の中が真っ白になった。

壁に手をついて、ようやくその場に立っていられるくらい。

この数年間の出来事が、一つ一つ脳裏に浮かんでくる。

晴人は、最初から紗夜を愛してなんていなかった。

彼女に降りかかった不幸は、全部晴人が仕組んだものだった。

好きな人に、これでもかと何度も裏切られていたのに、彼女はまったく気づかなかった。

「昔、あいつが夏穂(かほ)を突き落としたって噂あったけど、証拠もなくて警察もお手上げ。でもまあ、これだけやれば十分だろ。親が焼け死んで、遺骨もなくして、晴人もここまで付き合ってやってるんだから」

友人たちの会話は止まらない。

晴人はみんなの輪の中、グラスを握りしめてじっと黙っている。

あの優しくて、たくさんの愛の言葉を囁いてくれた晴人とは、まるで別人のような冷たい目だった。

胃の奥がギュッと締め付けられる。

紗夜はとっさにお腹を押さえ、早足で自分の部屋へ戻った。

頭の中はまだぐちゃぐちゃで、心臓の鼓動も止まってくれない。

そのとき、スマホが鳴った。

相手は、つい最近やっと連絡が取れた叔父だった。

「紗夜、前に言ってた話、考えてくれたか?うちの家業、全部お前に任せるつもりなんだが……」

唇が震えたけど、どうにか気持ちを抑えて言葉を絞り出した。

「帰るよ……でも、叔父さん、ひとつお願いがあるの。私、死んだことにしたい。遺体と新しい名前、準備してほしい」

電話口の叔父はしばらく黙っていたが、問いただすこともなく、ただ優しく返してくれた。

「わかった」
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