Mag-log in三年前―― 紗夜の家族三人は、燃え盛る炎の中に閉じ込められた。 目の前で、両親が炎に呑まれていく。 その絶望の中、助けに飛び込んできたのは晴人だった。 それから、紗夜はどうしようもなく晴人に惹かれ、三年間、彼が織り上げた優しさに溺れていた。 でも―― あの日の火事、実は晴人自身が起こしたものだったと知る。 彼が近づいたのも、付き合い始めたのも、すべては彼の思い人のための復讐だった。 愛も、幸せも、全部最初から嘘だった。 「だったら、私も晴人の復讐ごっこに最後まで付き合ってあげる」 そう決めた紗夜は、自分が死んだように見せかけて姿を消す。 けれど、晴人が焼け焦げた紗夜の遺体を目の当たりにした瞬間、完全に正気を失った。
view moreでも、こうしてここに立っていると、あの火事や、この数年間の出来事が頭をよぎり、胸の奥がどうしようもなく痛くなる。 もう、この目の前の男の言葉を一言も信じるつもりはなかった。 「もう解放して。ねえ、晴人、私は本当に――本当にもう、あなたのことなんて少しも愛してないの」 紗夜はゆっくりとしゃがみ込み、膝を抱えて泣き崩れる。 涙が足元の花々を濡らしていく。 「紗夜!でも俺は、お前のことが今でも大好きなんだ。本当に愛してるんだよ。お前がいなくなったら、俺の人生なんてどうなってしまうんだ?お願いだ、もう一度だけ、もう一度だけチャンスをくれないか?」 晴人が必死で何か言いかけたとき、不意に後頭部に鋭い衝撃を感じ、そのまま意識が飛びそうになる。 烈が駆けつけたのだった。 烈は紗夜を心配そうにしっかりと抱き寄せ、そして陰のある冷たい目で晴人をにらみつけた。 「やっぱり俺は前回、手加減しすぎたみたいだな。お前ごときに、またうちの嫁にちょっかい出させるとは。葛城晴人――お前、本当に俺のやり方を知らないらしいな」 背後の警備員たちが晴人を押さえつけようとしたが、紗夜がすっと烈の手首を押さえた。 「どうした?」 烈はやさしく声をかける。 紗夜は微笑み、烈の首に手を回して、ひとことひとこと丁寧に告げる。 「私、赤ちゃんができたの。だから――もう、血は見たくないの」 「えっ?」 烈は一瞬ぽかんとし、それから急に笑顔になって、「本当?俺、パパになるのか!最高だな」 そう言って、烈は紗夜の額に深く優しいキスをした。 一方の晴人は頭を押さえて地面にうずくまり、激しい頭痛に襲われていた。 彼が心の底から愛した女性は、もう他の男の妻であり、しかもお腹に新しい命まで宿している。 彼はどうすれば、この結末を変えられるのだろう。 本来なら、紗夜が一番好きなのは彼のはずだったのに。 烈は紗夜を優しく抱き上げ、最後に晴人を見下しながら、冷ややかに言い放つ。 「今日は見逃してやる。うちの子に何かあったら困るからな」 そうして紗夜を抱え、部下たちを引き連れてその場を後にした。 晴人はただひとり、その場に膝をつき、ぼう然と空を見上げていた。 その後、紗夜は今まで経験したことのない幸せな日々を送った。 烈は紗夜を本
「大丈夫、気にしないで。今夜は俺たち二人だけ。貸し切りにしたから」 「……うん」 紗夜は口元を引きつらせながら、特に何も言わなかった。 料理が運ばれてくる前に、思いもよらない出来事が起きた。 突然、レストランの火災警報器が鳴り響いた。 鋭い音が静寂を破る。 普段は訓練されているはずのスタッフたちが、この時ばかりは大混乱で「火事だ!早く逃げて!」と叫びながら一斉に外へ駆け出した。 他の客たちも次々と出口へと殺到する。 烈はすぐさま紗夜の手を握り、「怖がらないで。大丈夫、俺がついてる」と小声で励まし、そのまま外へ連れて行った。 二人はしばらく外で待っていたが、レストランから火が出ている様子はまったくなかった。 「どういうことだ?」 烈はレストランのマネージャーを問い詰めた。 「氷川様、ご安心ください。私にも原因が分かりません。すぐに確認させます」 「急げ」 そう言い終えるや、烈が振り返ると、すぐ後ろにいたはずの紗夜の姿が消えていた。 烈はすぐにピンと来た。 これは明らかに囮だ、と。 「今すぐ探せ!必ず俺の妻を見つけろ!彼女に何かあったら、お前ら全員ただじゃ済まないぞ!」 「かしこまりました、氷川様!」 紗夜は背後から晴人に薬で眠らされ、そのまま車に押し込まれていた。 意識が戻ると、隣には晴人がいて、狂気じみたほどに優しい目で紗夜を見つめている。 一瞬で頭皮がぞわりとし、すぐさま体を起こし、警戒心むき出しで晴人をにらみつけた。 「何するつもり?降ろして!」 晴人は必死に紗夜を抱きしめ、頭に何度もキスしながら、まるで壊れたように何度も繰り返す。 「いい子にして。大丈夫、お前に何もしないよ。おとなしくしてれば、ちゃんと返してあげるから」 「本当になにがしたいの?何度も言ったでしょ、私はもうあなたを愛してないの!お願いだから降ろして!」 紗夜の指先は小刻みに震えていた。 晴人は抱きしめたまま運転手に「もっと急げ」と命じる。 再び、今度は驚くほど優しい目で紗夜を見つめて言う。 「紗夜、絶対に傷つけたりしないよ。ただお前に見せたいものがあるんだ、きっと驚くよ。俺を信じて」 「……何を?」 全身が震えそうになる。 「お前の両親に会いに行くんだ!」 「……
そう言いながら、烈はゆっくりと夕凪に近づいていく。 夕凪の心には、強烈な恐怖と悪い予感が一気に押し寄せてきた。 反射的に立ち上がって逃げようとするが、烈は容赦なくその足元を踏みつけ、そのまま服をつかみあげて無理やり引きずり出した。 「な、なにをするの?やめて!お願い、やめて!」 夕凪は必死に暴れ、頭の中は恐怖でいっぱいになる。 烈の冷酷さ――「悪魔」とまで呼ばれる噂は、以前から耳にしていた。 まさかこれほどまでに紗夜を大切にしているとは知らなかった。 このままだと、本当に殺されてしまうかもしれないと心から恐怖を覚える。 オフィスを出る前、烈はふいに紗夜へ極めて優しい笑みを向けて言う。 「お利口に待ってて。仕事が終わったら迎えに来るから。夜は家で、俺がご飯作る」 紗夜は震える歯をどうにか抑えながら、精一杯平静を装い返した。 「うん、待ってる」 烈はそのまま夕凪をビルの最上階、屋上へと連れていった。 強い風が吹きつけ、夕凪の髪が顔にまとわりつき、傷ついた顔がさらに痛んだ。 「氷川さん、お願いです、許してください。ごめんなさい、助けて……」 夕凪は地面にひざまずき、何度も頭を床に打ちつけて懇願する。 だが、烈の表情はまさに地獄の裁き人そのものだった。 彼は夕凪を屋上の端まで引きずり寄せる。 耳元を轟々と風が通り抜ける。 このまま手を離せば、夕凪は一瞬で地面に叩きつけられる―― 「氷川さん、もうしません。もう絶対に紗夜さんを傷つけません。本当にごめんなさい、お願いします!」 涙と恐怖で、夕凪の頬はびしょびしょになっていた。 だが烈の目に、微塵の情けも浮かばない。 最後に彼は冷たく一瞥し、ゆっくりと言った。 「俺に謝る必要はない。お前が謝るべき相手は俺じゃない。でも、もう謝る機会は二度とない」 烈はそのまま手を離した。 夕凪の瞳孔が一気に開き、次の瞬間、彼女はまるで鳥のように地面へと真っ逆さまに落ちていった。 烈は手についた埃を払いながら、携帯で警察に通報する。 警察の簡単な調査の結果―― 「夕凪は顔面の損傷に耐えきれず、精神的に追い詰められて自殺した」とされた。 この一件以来、紗夜は烈に対してどこかよそよそしくなった。 烈も特に何も弁解しなかった。
「勘違いしないで。私が死んでも、晴人は絶対あなたなんか愛さない。晴人がどんな男か、あなたはまだ分かってないの?彼は今まで誰のことも愛したことがない。最初から最後まで、愛していたのは自分だけよ」 紗夜は歯をガタガタさせながらも、必死で冷静を装って言った。 夕凪の目に、一瞬ためらいの色が浮かぶ。 紗夜はさらに畳みかけた。 「それに、あなたがこんなふうになったのは私のせいじゃない。本当の加害者は晴人よ。あんな仕打ちされてまで、あなたはそれでも晴人と結婚したいの?一生苦しめられてもいいの?」 夕凪は必死に首を振り、充血した目で紗夜をにらみつけて叫ぶ。 「違う!そんなことない!紗夜、デタラメ言わないで!私たちの仲を裂こうとしてるんでしょ、分かってるんだから!」 「……」 ――この女はもう救いようがない。 夕凪はついに紗夜の目前まで迫り、ナイフの刃先が首にぴたりと当たる。 あとほんの数ミリで喉元を切られそうな距離―― 「聞いて、夕凪。落ち着いて――」 紗夜はどうにか宥めようとした。 だが夕凪は怒鳴り返した。 「黙れ!騙そうなんて思うな!全部、あんたが晴人に真相を伝えたから、こんな目に遭ったんでしょ?絶対許さない。今日は必ずあんたを殺す!」 紗夜は頭の中が真っ白になった。 なんで自分だけが一方的に陥れられ、真実を伝えただけで責められるんだろう? 刃先がいよいよ首元に近づく―― そのとき、オフィスのドアが勢いよく開かれた。 烈だった。 紗夜の瞳に希望の光が宿る。 紗夜が何かを言う前に、夕凪が反応する前に、烈はまっすぐ歩み寄り、夕凪の手首を一瞬で押さえつけた。 次の瞬間、ナイフは床に落ちた。 そのまま烈は夕凪を強烈な一蹴りで地面に叩き倒す。 夕凪はお腹を抱え、地面の上で悶絶してのたうち回る。 烈はすぐに紗夜を背後にかばい、鬼のような表情で夕凪を見据えた。 「氷川、あんた分かってるの?この女に騙されてるんだよ!」 夕凪はまだ諦めずに叫ぶ。 烈は冷たく眉をひそめ、唇に笑みを浮かべて言った。 「へえ?それで、どう騙されてるって?」 「この女は淫乱女だ!ずっと前から晴人に抱かれてたんだよ!本名は水鳥朝じゃなくて朝倉紗夜なんだ!」 夕凪は必死で紗夜を汚い女だと罵り続ける。