로그인「……君こそ、上手く操縦しているじゃないか」
「いえいえ、先生には敵いません」 どうやって反撃してやろうかと考えていると、思いがけない追撃を中嶋から受けてしまった。 意味ありげな笑みを浮かべた中嶋が、肩先が触れるほど近くに座り直したかと思うと、声を潜めてこう言ったのだ。「正直俺、先生が今日、友人に会うと聞いたとき、信じていませんでした」「どういう意味だ?」「実は、先生の元恋人なんじゃないかと、ちょっと疑っていました」「そんなわけあるかっ」 ムキになって言い返すと、中嶋は大きく頷く。「ええ、二人が話している姿を見て、それはわかりました」「ぼくはなんと言われても仕方ないが、澤村に悪い。あいつは、生粋の女好きだ」「俺も一応、秦さんに出会うまでは、そうだったんですけどね。というか、秦さんしか――いえ、今は先生を含めて、男は二人しか興味ありませんし、興奮しません」 和彦はわずかに眉をひそめると、中嶋の頬にてのひらを押し当て守光の片手に、すでに精を放った欲望を掴まれる。緩く上下に扱かれただけで、和彦は放埓に声を上げて、守光に貫かれながら奔放に乱れていた。酔いのせいで箍が外れたと言う気はない。体が、守光に馴染み始めたのだ。 両足をしっかりと抱え上げられ、内奥深くまで守光の欲望を挿入される。大きくゆっくりと突き上げられて、和彦は上体を捩って悶える。他の男たちであれば、欲情をぶつけるように激しい律動を繰り返すのに、守光は違う。時間をかけ、責め苦のように快感で和彦を狂わせる。 浴衣を完全に脱がされ、胸元に愛撫の跡を散らされる。胸の突起を吸われて喉を震わせると、何度目かの口づけとともに、日本酒を流し込まれる。さらには今度は、柔らかな膨らみを、思いがけず手荒な手つきで揉みしだかれる。「ひっ……、あっ、あぁっ――」 刺激の強さに腰が跳ねそうになるが、体の奥深くまでしっかりと欲望を埋め込まれているためそれが叶わず、空しく震わせる。そこを容赦なく、守光に腰を揺すられ攻められていた。「よほどここが、いいようだ。あんたの尻が、しゃぶりつくように締まる。〈これ〉を仕込んだ男は、この具合が気に入ったんだろう」 守光の指に弱みをまさぐられ、弄られる。優しいが、残酷でもある手つきは、賢吾とそっくりだった。「うっ、うっ、もう、許し、て、ください……、そこは……」「だが、あんたは悦んでいる」 子供のように首を振る和彦の仕草に心惹かれたように、守光がじっと見下ろしてくる。眼差しの強さに羞恥した和彦だが、追い討ちをかけるように問われた。「ここがいいのか、先生?」 守光の指が妖しく蠢き、和彦の意識は危うく飛びかける。なんとか繋ぎ止めはしたものの、代わりに理性は蕩けきっていた。「は、い……」「もっと弄ってほしいか?」「……お願い、します」 守光の唇が緩み、感嘆するように言葉を洩らした。「賢吾や千尋が、あんたに骨抜きになるはずだ。見た目は品のいい青年が、こうも容易く体を開いて、淫奔ぶりを晒け出す
守光とようやく唇を吸い合うようになり、舌先を触れ合わせる。引き出された舌を柔らかく吸われ、軽く歯を立てられた瞬間、和彦の中に無視できない疼きが生まれて、呼吸が弾む。守光の目元が笑みを滲ませた気がするが、何が潜んでいるかわからない両目を覗き込むこともできず、視線を伏せる。それが合図のように、守光の舌が口腔に入り込んできた。 口づけは情熱的で、官能的だった。緩やかに舌を絡めながら、同時に守光の唾液を与えられ、微かに喉を鳴らした和彦は、無意識のうちに鼻にかかった声を洩らす。そんな自分の姿に気づき、燃えそうなほど全身を熱くしたところで、守光に促されるまま布団の上へと移動し、押し倒された。 浴衣の帯を解かれ、下着を脱がされる。湯上がりのせいばかりではない熱を帯びた肌を、守光が両てのひらで撫でてくる。和彦は顔を背け、ゆっくりと深い呼吸を繰り返していた。 守光の片手が両足の間に入り込み、和彦の欲望をそっと握り締める。さらに、首筋には唇が這わされていた。穏やかな愛撫に晒されながら、和彦は目を閉じる。心地いいと思った次の瞬間には、その愛撫を加えているのが守光だという現実にすぐに我に返り、心が揺れる。そんな和彦の反応すら見透かしているかのように、唐突に守光が両膝を掴み、足を思いきり左右に開かされた。「あっ」 動揺した和彦は反射的に目を開け、声を上げる。その拍子に、守光と目が合った。ここでもう、守光の行動すべてを目で追わずにはいられなくなる。 守光は、開いた両足の間に頭を伏せる。さきほどまで、てのひらに包み込まれて扱かれていた和彦の欲望に熱い息遣いがかかった。「んうっ……」 守光の口腔に欲望を含まれた瞬間、強烈な感覚が背筋を駆け抜ける。和彦は布団の上で大きく背を反らし、息を詰める。 守光の愛撫は激しさとは無縁だった。和彦の欲望を優しく吸引し、舌を絡ませながら、じっくりと口腔で育てていくのだ。和彦は速い呼吸を繰り返しながら、次第に下肢から力を抜き、望まれるまま自ら大きく足を開く。 感じやすい先端にくすぐるように舌先が触れ、そのたびに下腹部を震わせる。和彦の欲望は、守光の口腔で熟しきっていた。「――この味が、恋しかったんだ。あ
南郷に対して怒りはあるが、自ら罰を与えようと考えたことはなかった。守光が最善の手段へと導いてくれると、心のどこかで期待をしていた。しかし、これは――。 和彦の返事次第では、二つの組織だけではなく、父子関係の不和すら生みかねないと、言外に仄めかされているようだった。守光は、和彦から欲しい返事をもぎ取ろうとしているのだ。この場にはいない賢吾も。 ぐっと奥歯を噛み締めた和彦は、いまさらながら、自分がどれほど怖い男たちの〈オンナ〉であるのか、痛感していた。大事にしてくれてはいるが、一方で、自分たちが背負う組織のために、どこまでも傲慢で容赦なく振舞う。 それでも和彦は身を委ねるしかないのだ。「――……助言を、いただけないでしょうか。どうすれば、影響を最小限に抑えて、なおかつ、誰にも口出しをさせないほど、きちんとケリをつけられるのか。そんな方法があるのでしょうか?」「簡単だ。南郷を跪かせるといい」 事も無げに告げられ、静かな衝撃が胸に広がる。「ひざま、ずかせる……?」「あの男の土下座は、価値がある。――南郷が小さな組の組長代行を務めていた頃、その土下座で揉めに揉めてな。南郷は、親ともいえる組長の面子を潰した挙げ句、結局総和会が介入する話にまでなった。結果が、今の立場だ」 その今の立場を守るために、南郷は和彦の要求を呑むか否か、試せというのだ。しかし守光には確信があるのだろう。南郷は、和彦に詫びるために跪くと。それで、すべてケリがつくと。 頭が、考えることを放棄したがっていた。南郷にそこまでさせてしまうことで、どういう結果が生まれるのか、想像するのが怖かったのだ。不穏なものを感じながらも、しかし他に手段も思いつかない。 和彦は、守光に頭を下げた。「すべて、お任せします。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」「あんたが頭を下げる必要はない。今回の件は、こちらの不始末だ。それを円満に解決するために、あんたの手を借りる。面倒だと思うかもしれんが、この世界で円滑に物事を進めるには、取り繕うべき形が必要なんだ」「……そのことを
「ここでその酒を飲んで、あんたなら気に入ってくれるんじゃないかと思ってな。出してもらったんだ。その様子なら……」「ええ、すごく美味しいです。普段は無難に、日本酒よりワインを選んでしまうんですが、どうやらぼくが、口に合う日本酒を知らなかっただけのようですね」 喉の奥がじんわりと熱くなり、和彦はそっと吐息を洩らす。猪口一杯でこれでは、すぐに酔ってしまいそうだ。 食事が進み、器の大半が空いた頃になって、ようやく守光がこう切り出した。「南郷のことだが――」 和彦は反射的に背筋を伸ばした。「あんたには迷惑をかけた」 守光が頭を下げたため、慌てて制止する。「やめてくださいっ。会長が頭を下げられるなんてっ……」「そういうわけにもいかん。これはケジメだ。〈あれ〉は、わしの子飼いの部下だ。今の地位を与えた責任がある」 激しくうろたえ、困惑した和彦だが、思いきって守光に問いかけた。「……会長は、どこまでご存知なのですか?」 頭を上げた守光が一瞬見せた眼差しの鋭さに、息を呑む。しかし次の瞬間には、守光は穏やかな表情へと戻っていた。猪口を取り上げたので、和彦は酒を注ぐ。「賢吾が把握している程度のことは」「それは――……」 すべてを明け透けに打ち明けるかどうか、守光は自分を試しているのかもしれない。和彦は急にそんな不安に襲われる。同時に、耐え難いほどの羞恥にも。「南郷は今、自宅で謹慎させている。第二遊撃隊も、総本部に詰めさせて、外での活動を禁止している。――処分が決まるまで」「処分?」「処分は今日、あんたと相談して決めるつもりだ」 和彦は絶句して、ただ守光の顔を凝視する。沈黙している間、耳に心地いい水音が室内に響き渡る。窓のすぐ下を川が流れているのだろう。 感情の乱れをようやく抑えて発した言葉は、微かに震えを帯びていた。「……どうして、ぼくが……」「あんたが外部
**** 土曜日の午前中、自宅マンションで一人過ごしていた和彦は、突然の連絡を受け、急遽出かけることになった。こちらの予定も聞かず、自分につき合えと言うのは、口調の違いはあれど、長嶺の男に共通する特徴だ。 後部座席のシートに身を預けた和彦は、ウィンドーの外を流れる景色を眺めつつ、守光からかかってきた電話でのやり取りを思い返す。 美味い山魚を食べさせる店があるので、これから出てきなさいと、まず言われたのだ。面食らう和彦に、さらに守光は言葉を続けた。 一昨日の南郷の無礼について、詫びがしたい、と。 こう言われては、和彦には断る術はない。もとより、守光からの誘いを断られるはずもない。 マンション前に停まっていた車に乗り込んだのだが、肝心の守光の姿はなかった。運転手を務めている男によると、守光は昨日からある旅館に宿泊しており、そこに和彦はこれから向かうのだ。 一体何を言われるのだろうかと考えて、心がざわつく。 和彦を騙して呼び出した南郷の行為は、総和会と長嶺組に何かしらの波紋を起こしたようだ。 呼び出された当事者である和彦のもとには、情報がほとんどもたらされない中、唯一、中嶋から送られてきたメールのおかげで、自分の知らないところで事態が動いていることを知ったのだ。 それまで和彦はずっと、長嶺組の男たちに気遣われていた。南郷のせいで、和彦が激怒したままだと思われているためだ。それは事実ではないが、自分の精神状態を詳細に語ることを和彦は避けていた。 実は激怒どころか、南郷がもう一つの〈行為〉を明らかにすることを恐れていたとは、口が裂けても言えない。 自ら動きようがない中で、守光が連絡をくれたことに身構えつつも、正直和彦は安堵していた。 シートから身を乗り出して、ウィンドーに顔を近づける。道路の傍らを川が流れており、陽射しを反射してキラキラと輝いていた。しかし和彦が何より目を奪われたのは、川の向こうに広がる景色だった。 山の傾斜を利用して芝桜が植えられているのだ。まだ盛りを過ぎていないらしく、白や濃いピンクの花が満開となっており、あまりの鮮やかさに思わずため
「個人的な問題が起こっている最中で、今は気持ちに余裕がないんだ。そこに、これ以上厄介なことを抱えると、さすがに限界だ」「気分転換なら、いつでもおつき合いしますよ」 力なく笑った和彦だが、何げなく視線を周囲に向ける。学生らしいグループや、会社帰りと思しきスーツやワイシャツ姿の一団、女性たちだけで盛り上がっているテーブルもあり、とにかくにぎやかだ。そんな客たちの姿を眺めながら、自分や中嶋も、この場に上手く溶け込めているのだろうかと考えていた。 自分たちの存在が特別なのだというつもりはない。ただ、異質なのだ。いつの間にか異質であることを受け入れ、馴染んでいることに、いまさらながら不安のようなものを感じていた。「先生?」 中嶋に呼ばれ、我に返った和彦は慌てて箸を動かす。「たまには、こういう店で飲むのもいいなと思ってただけだ。普段は、一緒にいる男たちの安全を考えて、人の出入りが多い店を避けがちになるから」「そのうち、先生を気軽に連れ回すことができなくなるかもしれませんね」 どういう意味かと問いかけようとしたとき、店の自動ドアが開き、二人の男性客が入ってきた光景を視界の隅に捉えていた。男性客が店員と短く言葉を交わしてから、こちらに歩み寄ってくる。ここで和彦はやっと、その男性客が見知った男たちであることに気づいた。長嶺組の組員たちだ。「どうして――……」「南郷さんが、長嶺組のほうに連絡を入れたんだと思います。騙す形で先生を連れ出して、そのうえ怒らせてしまったのに、何事もなかった顔はできなかったんじゃないでしょうか。……この店に長嶺組の方が来たということは、もしかして俺たち、隊の人間にしっかり尾行されていたみたいですね」 さらりとそんなことを言われ、和彦は思わず中嶋を睨みつける。口ぶりからして、中嶋は尾行に気づいていたと察したからだ。中嶋はペコリと頭を下げた。「すみません。だけど、こちらの都合で先生を振り回して、不愉快な思いまでさせた挙げ句、危険な目には絶対遭わせるわけにはいきません。もし先生の身に何かあったとき、第二遊撃隊全体の責任問題になります」「そこまでのリスク
「それでもいいんですよ。俺にとっては、ホストクラブなんかで先輩風を吹かして、生意気なガキの面倒を見てくれて、今も腐れ縁が続いている程度のもので。過去は、どうでもいい」「――厄介な過去を背負っていたとしても?」 意識しないまま、和彦はつい鋭い問いかけをしてしまう。呼応するように、中嶋から鋭い眼差しを向けられた。「先生やっぱり、何か知っているんですね」「いや、そういうわけじゃ……」「ついでに聞かせてください。先生と秦さんの間に、何があったのか」 和彦は視線をさまよわせ、汗で湿っている髪を掻き上
「何、先生っ。そのグサッとくる言い方っ。まるで俺が、若いだけが取り柄みたいじゃん」「若いといっても、今日で二十一だろ。十歳差、というのが新鮮でよかったのに――」 悲鳴を上げた千尋が勢いよくソファから立ち上がり、和彦の隣へとやってくる。 締めたネクタイがどことなく、犬っころの首につけられた首輪に見えなくもない。千尋の必死の表情も相まって、たまらず和彦は噴き出す。「お前、可愛いな……」「先生、今、俺のことを、犬っころみたいだと思っただろ」 その言葉を肯定するように、遠慮なく千尋の頭を撫で回す。
「いえ、まだです。ただ、年明けには間に合わせるつもりです。クリニックそのものは、開業準備は順調に進んでいますから、あとは役所や関係機関への申請さえ無事に済めば……」「なるほど。普通の医者が開業をするのとは、わけが違いますからね。その辺りは、細心の注意を払う必要があるというわけですか」「ヤクザの道楽というには、金も手間も、何より、ぼくの人生がかかってますから」 和彦の言葉に、中嶋がちらりとこちらを見た。何を考えているかわからない眼差しに、居心地の悪さに拍車がかかる。 ここのところ明らかに、中嶋の和彦に対する態度は変
**** 組お抱えの医者は、こういう仕事もこなさなければならないのかと、内心でうんざりしながら、和彦は箸を動かす。「先生、遠慮しないで、どんどん飲んでください」 中嶋の言葉に半ば反射的に頷く。和彦の好みをすでに把握しているらしく、膳とともに出されているのは、グラスワインだ。口当たりのいい美味しいワインだが、飲みすぎにだけは気をつけている。 中嶋の手前、形だけグラスに口をつけた和彦は、視線を泳がせたついでに、座敷を眺める。総和会の幹部がよく利用しているというだけあって、とにかく高そうな料亭だ







