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俺が裏世界を救う?

Aвтор: 松風翔絆
last update publish date: 2026-05-22 14:27:31

広樹は後退りしながら再び口を開いた。

「ど、どこだよ。ここ」

泥の女は笑顔のままもう一度言った。

「裏世界へようこそ」

広樹の頭はまだ追いついて無いようだ。泥人間に囲まれて、目の前には広樹をこっちに連れてきた泥の女。

見た目はなんら普通の人間と変わりない。

「な、なんで俺を連れてきた」

広樹は泥人間たちから逃げるように徐々に後ろに下がる。下がる度にみんなの顔が悲しそうになっていくのがわかる。そして口々にこう言う。

「あぁ、この人もダメなんだ」

その声を聞きた広樹は顔を少ししかめる。

「別に怯えなくていいのよ。私たちはあなたに危害は加えない」

ずっと笑顔で彼女はそう言って話を続ける。広樹が話す暇など与えないようにうまく話を進めている。

「あなたに私たちの……私たちを救って欲しいの」

この言葉とともに広樹は目を見開いて固まってしまった。

「俺が……救う……?」

「えぇ、あなたが私たちを救うの。私たちじゃあの迷路ゲームはクリアできない」

そう言って真剣そうに広樹を見つめる泥の女。広樹は何も言えずに居た。あんなに怖かった女が、か細くて美しく見えた。

広樹は迷路ゲームというところに少し引っかかる。

「迷路ゲームってなんだ?」

「それは……あの大きな建物の中にあるゲームのこと、私たちを救うにはそのゲームのゴールに行き紫のダイヤを見つけなきゃいけないの」

「俺迷路なんて苦手だし、俺なんかが救うなんて無理だよ。早く元の世界に戻してくれ」

しかし、泥人間たちは何も言わない。誰一人として広樹の頼みを聞いてくれるものは居なかった。いや、頼みを聞けるものが居なかったという方が正しかった。

少しの沈黙が広樹達の間に流れる。

「ここ、裏世界を作ったのはある魔法使いなの。そして初めての住人は可愛らしい女の子

その女の子を救うことが私たちを救うことになる。表世界の人間にしかその子は救えないの。

表世界から誰か一人、勇者を選び、色々な問題を解き、敵を倒しゴールに行くだけ。

一見、簡単なゲームに見える。

だけど……未だクリアした人はいないの」

女がそう言い終えるとみんなは地面に座る。

「俺にクリア出来ると思うのか? 」

広樹は何故自分が選ばれたのかが分からなかった。

「鏡の向こうからあなたをずっと見ていたの。臆病だけどやると決めるとすごい力を発揮する貴方こそ、私たちを本当に救ってくれるんじゃないかって思ったの。理由は他にもたくさんあるわ。でもできると思ったから選んだのよ」

「そうなのか?」

広樹は自分のことを怖がりで、ただの臆病者だと思っていたのだ。だが、女がそう言うのだ。

「そういえば、行く当てもないでしょう?

私の所に来ない? ゲーム開始は一週間後、私があなたを入り口まで連れてってあげるから」

優しくそう言われると最初の恐怖感なんて忘れてしまう。広樹は女に手を引かれながら家へと招かれた。

女の家は真っ白な壁に真っ白なドア。全てが真っ白だった。入り口が何処かさえも分からない。いや、女の家に限らず、全部の家が全てのものがそうだった。

「入って」

ドアを開けられ言われるがままに中に入ると中はいたって普通だった。どこに何があるのかがはっきり見える。玄関をまっすぐ行くとリビングがあり、綺麗なソファーにテレビ、とても心地の良い空間だ。広樹は安心してゆっくりとソファーに腰をかけた。

「そう言えば、私の名前言ってなかったわよね」

「あぁ、そうだったね。俺は広樹だよ」

「知ってるわ、私の名前は川上純子って言うの、好きに呼んで」

川上純子と名乗る女はキッチンでなにやらご飯の支度をしていた。

「テレビつけてもいい?」

「えぇ、いいわよ」

広樹はテレビを付けるとそれに釘付けになった。ご飯の準備が終わり、純子が広樹に声をかけると、広樹はすぐにテレビを消し二人で食事をし始めた。

裏世界の食事は少し変わったものが多い。

食べたこともないような美味しい物ばかりが出てきた。広樹は肉団子の様なものを美味しいと言いながら頬張る。

「この肉団子? 美味しいね」

広樹がそう言って微笑むと純子は笑顔で返した。

「それ、肉団子じゃなくてどろだんごっていうのよ。変な人ね」

『どろだんご』

この五文字が広樹の頭の中でグルグルとループしている。今にも吐き出してしまいたいくらいだった。料理名を一つ一つ聞いていくと

全てに《どろ》という文字が付けられている

もしかしたらこれは全て泥で出来ているのかもしれない。広樹は箸を止め、席を立った。

純子はどうしたの、と言わんばかりに不安そうに彼を見つめる。

「いや……あの、ごめん」

席を立ったはいいものの広樹は何も言えない。どろと名前が付くだけなのに、食べる気がしないなんて言えない。

「えっ……と、もう眠い……のかな?」

「す、少し眠い」

眠くもないのに彼はそう言った。

純子は苦笑いをして見せた。洗面所へ案内すると歯ブラシを渡し、純子はリビングへと戻った。寝る準備が済むとリビングへ戻り、寝室へと案内してもらう。

寝室に着き、純子が出て行くのを確認し、早速ベッドに寝転び目を閉じる。

しばらく目を閉じていたが、一向に眠気は来ない。広樹は純子にさっきのことを謝ろうと寝室を出てリビングへ向かった。

するとリビングには彼女の友達と思われる女性が何人もいた。

なにやら真剣な話をしているようだった。

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