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第9話

Author: ひまわり
結婚式の前夜、司は約束の時間通りに待ち合わせ場所に現れた。さらに、夕食を彩るためにわざわざ高級な赤ワインを持参している。

だが、二人が席に着いた途端、司のスマホに次々とメッセージが届き始めた。

その直後、電話の着信音も鳴り響く。

司は発信者を確認し、心を鬼にして電話を切った。しかし、二秒後、再び着信音が鳴り出す。

美紗紀は静かに彼を見つめる。

「先に電話に出たら?」

司は携帯を手に席を立つ。すぐに、慌ただしくテーブルに戻り、上着と車の鍵を掴んだ。

「会社で急ぎの用事ができてしまった。行かなきゃならないんだ。一人で食べててくれ。待たなくていいから」

彼の遠ざかる声を聞きながら、美紗紀は静かに自嘲的な笑みを浮かべた。

冷めたステーキをひと口ひと口食べ、赤ワインをぼんやりと飲んだ。

その後、スマホを取り出し、インスタを開いた。案の定、美智留がまた写真を投稿していた。

その写真の中では、司があるビルの屋上に立ち、笑いながら瞳を潤ませて、空の花火を見上げている。

美智留のコメントが添えられていた。

【最愛の人のために盛大な花火を準備したの。よかった、彼も拒否しなかった】

美紗紀はスマホを閉じ、静かに立ち上がった。

司と三年間の思い出が詰まったこの部屋を見つめ、黙って大きなダンボール箱を取り出し、荷造りを始めた。

まる三時間かかった。

二人の三年間の思い出が詰まった品々を三つの大きなダンボール箱に詰め込んだ。

そして、瞬き一つせず、全てを燃やした。

その後、美紗紀は夜を徹して、美智留が自分に送ってきた全てのチャット履歴やインスタ投稿をUSBメモリにまとめていった。

それらを終える頃には、空はすでに白み始めていた。

美紗紀は荷物を持ち、一人で結婚式場へと向かう。

結婚式場は一面の花畑のように飾り付けられ、至る所が喜びに満ち溢れていた。

司は多くのメディアを招き、この幸せな一日を記録してもらおうとしていた。

美紗紀は精巧な白いウェディングドレスを身にまとい、ゆっくりと司に歩み寄る。彼が目に涙を浮かべ、期待に満ちた表情を浮かべているのを見ても、彼女の心は静かな水面のようだった。

マイクを受け取り、美紗紀はUSBメモリを傍らの司会者に手渡す。

「結婚式が始まる前に、あなたにプレゼントを贈りたいの」

司は笑顔を見せる。

「何だろう、楽しみだな」

司会者がUSBメモリをパソコンに差し込み、映し出す準備をしているのを見て、司の心に突然、理由のない緊張が走る。

大画面に内容が再生され始める。

次の瞬間、司の全身が硬直した。

そこに映し出されていたのは、彼と美紗紀の甘い思い出ではなかった。

それは、美智留とのチャット履歴、そして親密なツーショット写真だった!

司の頭の中で、まるで雷に打たれたような衝撃が走った。

彼はついに美紗紀に顔を向けた。きちんと説明しなければならない。

しかし、記者たちは狂ったようにカメラを構えて写真を撮り始め、口々に彼を取り囲んで取材を始めた。

司は必死に美紗紀の姿を探し、ようやく視線がある場所に止まった。

人ごみを隔てて、美紗紀は人に囲まれた司を静かに見つめていた。

彼女は口を開き、その言葉が、はっきりと司の耳に届いた。

「司、別れましょう」

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