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第7話

Auteur: 真夏の猫
夕子が旅立つ3日前、養父から電話があった。養子縁組解除の書類は全て準備してあり、蓮と心の婚約パーティーに出席すれば渡すと言った。

婚約式当日、名だたる富豪たちが殆ど来ていた。

細川お婆さんも珍しく姿を見せたが、喜びの色はなく、冷たい表情で控え室に座り込んでいた。

夕子はシャンパンゴールドのドレスを纏って現れ、会場に入るなり養父母の姿を探した。

「お姉さん、私と同じ色のドレスで……まさか新郎を横取りするつもり?」突然現れた心も、全く同じ色のドレスを着ていた。

夕子はわずかに眉を顰め、関わりたくないから、「今すぐ着替える」と言った。

すると心は彼女の手を掴み、突然涙を浮かべた。

「お姉さん、どうして私にそんな冷たい態度を取るの?

もう蓮さんと離婚したから、これ以上彼を付き纏わないで……」

彼女の泣き声に周囲の視線が集まり、蓮は人混みを押し分けてやってきた。夕子を見た瞬間、彼の表情は一気に冷え切った。

「誰がそんな服を着ろと言った?」

「このドレスは去年のものよ」夕子は心をちらりと見た。彼女が着ているのは最新作で、暗紋と金糸が施されており、違いは一目瞭然だった。

心は涙を浮かべ、蓮の胸に飛び込んだ。「蓮さん……」

「泣くな。俺が何とかする」蓮は彼女を慈しむような眼差しを向けたが、夕子を見る目には少しの温もりがなかった。「脱がせろ」

ボディーガードたちは即座に動き、夕子に襲いかかった。

「蓮!どうしてこんなことできるの!」夕子は鋭い視線で彼を睨みつけた。

「命の恩人は心だったのに、お前はわざと彼女になりすまし、全てを横取りした上、彼女にまで辱めさせた。殺さなかったのは、これまでの情けだ」蓮は彼女に近づき、耳元で一語一語噛みしめるように言い放った。

次の瞬間、夕子は二人のボディーガードにがっちり押さえ込まれ、他の男たちが彼女の服を引き裂いていった。

頭の中がガンガン鳴り響き、必死にもがいてみたが、どうにもならない。

服はぼろぼろに引き裂かれ、下着姿になった彼女を、周囲の者たちが指差しながら笑い、中にはカメラを構える者もいた。

屈辱で全身が震え、声を絞り出すように叫んだ。「離して!触るな!」

夕子の叫びは逆効果となり、さらにひどい扱いを受けた。ブラのホックはすでに外れ、今にも落ちそうになっていた……

「やめなさい!」細川お婆さんがその時に現れ、彼らの行動を止めた。

夕子のそばに歩み寄ると、肩掛けで包みながら立ち上がり、心に思い切り平手打ちをくらわせた。

「未婚のまま妊娠し、既婚者と不倫したあなたと蓮の婚約を認めたのは最大の譲歩だ。これ以上夕子をいじめるなら、出て行け!」細川お婆さんは烈火のごとく怒り、蓮が心をかばおうとしたが、容赦なく平手打ちされた。

「それにあなたも、女にたぶらかされた愚か者め。この女が夕子を傷つけるのをこれ以上許すなら、あなたは細川家の子孫と認めない。細川グループを全部寄付する」

蓮は言葉を失い、抵抗するのを諦めた。

細川お婆さんは夕子を庇いながら階段を上がった。心はその背中を睨みつけ、陰険な目に殺意を浮かべた。

休憩室で、細川お婆さんは夕子に着替えさせた。

夕子は気持ちを落ち着かせ、細川お婆さんに感謝の言葉を伝えた。

ちょうどその時、蓮のアシスタントがノックをして、蓮が細川お婆さんと話し合いたいことがあると告げた。

「夕子、ここで少し待っていて。送ってもらうから」細川お婆さんは出かける際、夕子に優しく微笑んだ。

夕子はうなずいたが、なぜか胸に不安がよぎった。

数分もしないうちに、彼女は父からの連絡を受け、3階の休憩室に書類を取りに来るよう指示された。

夕子が3階に到着すると、細川お婆さんが手すりに縛り付けられているのを目にし、衝撃を受け、すぐに駆け寄った。

「お婆さん!」

細川お婆さんは口を塞がれたまま、目を見開いて激しく首を振り、近づくのを止めようとした。

「必ず助けるから、お婆さん」夕子は泣きながら近づいた瞬間、背後からいきなり二人の人影が現れ、彼女を捕らえた。

「何するの!離して!」夕子は正宗と菫を睨みつけ、激しく抵抗した。

菫は残忍な目つきで彼女を見下ろした。「この婆があなたをかばってるから、消してもらう。心配するな、白野家はあなたに半身不随の息子の世話をさせたがってる。仮に刑務所に入れても、連中にはあなたを出す手がある」

「お婆さんに手を出すな!私が代わりに何でもするから」夕子はもがきながら叫んだ。「おばあちゃんに危害を加えたら、白野家には行かない。あなたたちの嘘も全部ばらしてやる」

「お前の言うことなど誰が信じる?白野家もお前を見逃すはずがない」正宗と菫は彼女の腕を掴むと、欄干際に立つ細川お婆さんめがけて力任せに押しやった。細川お婆さんはその様子を見て、夕子をじっと見つめると、自ら転がり落ちた。

「お婆さん!」夕子は叫び声を上げた。

千葉夫婦は顔を見合わせ、夕子から手を離すと走り去った。

彼女は手すりの縁に身を乗り出し、落下していく細川お婆さんを掴もうとした。

「お婆さん、置いていかないで……」

彼女の叫びに人々が集まり、蓮が駆けつけて細川お婆さんの容体を確かめた。

ふと見上げた時、三階にいる夕子と視線が合った。

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