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「お前、杏理が病気だって最初から知ってたんだな!あの日、俺たちの前でぶちまけた薬は、杏理にとって命を繋ぐ大切な薬だったんだ!雪、俺たちがどれだけお前を可愛がってきたと思ってる?どうして、どうしてあんな真似をした!」拓也と和也も血相を変え、奪い取るようにして調査報告書に読み耽った。ページをめくるたびに、二人の顔から生気が失われていった。しまいには、抑えきれない震えが彼らを襲った。当事者であったときは、取るに足らないことだと思っていたのだろう。けれど、積み重なった数々の非道を詳細に文字として突きつけられ、ようやく自分たちがどれほど私を傷つけてきたかを悟ったのだ。後悔に身を焦がす彼らの姿を、私は冷ややかに眺めている。ただただ、おかしくてならない。そばにいたときには見向きもしてくれなかったくせに、今さら後悔したところで誰に届くというのか。私は車椅子を動かし、その場を離れようとした。すると、地に伏していた雪が突然立ち上がり、獣のように叫びながら襲いかかってきた。「頭に腫瘍があったんじゃないの?どうして死んでないのよ!どうして彼らを私から奪おうとするの?どれだけの苦労をして可愛がってもらったと思ってるの?それを、たかが数枚の紙切れで台無しにするなんて!」彼女の袖口から、鋭く輝く銀色の光がこぼれ落ちた。息が止まった。雪は刃物を隠し持っているのだ。だが、彼女が私に触れることは叶わなかった。ボディガードたちは鋭い蹴りで刃物を叩き落とし、そのまま彼女を床に押さえつけた。雪の顔には絶望の色が浮かんでいるが、それでも口からは呪いの言葉が絶え間なく吐き出されている。私は腰を抜かして立ち尽くす青葉三兄弟を冷たく見据え、皮肉を込めて告げた。「あなたたちのせいで、私は国内で死にかけた。そして今回、またこの国で死にかける羽目になった。改めて言うわ。もし少しでも人の心が残ってるなら、二度と私の前に現れないで!」そう言い捨てて、私はボディガードたちに車椅子を押させた。後ろで立ち尽くす者たちに、視線を向けることさえしなかった。あの日を境に、青葉三兄弟が姿を見せることはなくなった。代わりに、叔母の口から彼らの近況が時折語られた。彼らは国内に戻った後、雪の素性を隅々まで詳しく調べ上げたらしい。雪の母親はとうの昔に亡くな
雪は彼らのもとへ駆け寄り、気遣うように尋ねた。「今までどこに行ってたの?本当に心配してた!杏理さんは戻ったの?今どこにいる?あなたたちが私に優しくしてくれることに、杏理さんが怒ってるでしょうが、あんな風に何も言わずに出ていくなんて……本当に物分りがよくないね。どうか気を悪くしないで」青葉三兄弟はその言葉を耳にしても、いつものように杏理を責める素振りは見せず、むしろ怒りを露わにした。雪はうろたえ、顔色をうかがうように媚びを売った。「でも、杏理さんは病気だから、少しわがままになるのも仕方がないかも」拓也の顔色が変わり、力強く雪の襟首を掴み上げた。「どうして杏理が病気だと知ってるんだ?お前、彼女に何をした!」雪の表情が一瞬歪み、すぐさま悲劇のヒロインを演じ始めた。「拓也、私も今さっき知ったばかりよ!病院で働く友人が、杏理さんの頭に腫瘍があるって教えてくれて……」三兄弟は顔を見合わせると、阿吽の呼吸でそれ以上何も語らず、ただ和也が予約アプリを開いて航空券をもう一枚手配した。智也は深く息を吐き、表情を和らげて言った。「雪、杏理は海外で手術を受けたんだ。これから見舞いに行くんだが、お前も来るか?」雪は杏理を追い詰めるこの好機を逃すはずもなく、慌てて頷き、心配そうな顔で言った。「ええ、杏理さんのことが心配でたまらないの。手術を受けたのなら、私がそばで支えなきゃ!」こうして四人は、夜の帳に紛れて再び異国の地へと旅立った。……私は、青葉三兄弟と再び相まみえることになるとは、夢にも思わなかった。彼らの隣には、色白で整った顔立ちの女が寄り添っている。雪は私を見るなり駆け寄り、涙を流しながら縋りついた。「杏理さん!どうして何も言わずに家出なんてしたの?彼らがどれほど心配してたか、分かってるの?」彼女が近づきすぎたため、心の中に嫌な寒気が走った。突き飛ばそうとしたそのとき、彼女は二人だけにしか聞こえない声で耳元で嘲笑った。「ほら、私を突き飛ばしてみなさいよ。そうすれば、彼らは私を哀れんで、もっと大事にしてくれるんだから」彼女を突き飛ばす光景が、脳裏をよぎった。それと同時に、あの日浴びせられた怒りに満ちた罵声を思い出した。私は奥歯を噛み締め、ためらうことなく全身の力を込めて雪を突き飛
あの三人はボディガードたちと無様に取っ組み合いながらも、隙を突いて病室に潜り込もうと必死になっている。その騒ぎに周囲の病室からも人が顔を出し、野次馬が集まってきた。私は冷徹な表情で告げた。「その三人を通して」ボディガードたちの動きが止まり、手が離れた。智也はボディガードたちを睨みつけた。「俺たちは青葉家の人間だ。将来、誰が杏理と結婚するか分かったもんじゃない。こんな真似をして、クビになっても知らないぞ!」その言葉に、私は思わず呆れて笑いがこぼれた。「私の病室の前で、ずいぶんと勢いがあるのね。見ず知らずのあなたたちと、どうして結婚しならなきゃいけないの?」和也が真っ先に駆け寄り、私の手を握ろうとしたが、私はひらりと身をかわした。彼はこの世の終わりかのような悲しい表情で、目を赤くしている。「杏理、先生から聞いた。手術の影響で、記憶がなくなってるかもしれないって……でも大丈夫だ。たとえ忘れられても、また新しく、もっと素敵な思い出を作っていこう。それが俺たちの償いだと思わせてくれないか?」拓也も割り込んできて、涙を流しながら訴えた。「もう他の誰のためにも服はデザインしない。これからは、お前のためだけにやるから!」智也は後ろに立ち、いかにも悲劇の主人公のように、静かに涙を流している。三人のそんな姿を見ていると、苛立ちが募るばかりで、言い表しがたい怒りがふつふつと湧き上がってきた。彼らを冷ややかに見据え、鼻で笑った。「あなたたちのことを忘れたからといって、悲しいなんてこれっぽっちも思わない。むしろ、重荷が取れてリラックスできたくらいよ。今の私に、あなたたちは必要ない。目の前から消えて、二度とこの病院を騒がせないで。それが私の一番の望み。償いたいと言うのなら、もう二度と私の前に現れないでちょうだい!思い出したくもないし、これ以上関わりたくもないの!」言い終えると同時に、私はボディガードたちに目配せをして、三兄弟を追い出させた。そこへ駆けつけた叔母は、怒り心頭の様子で腕を振り上げ、彼らの頬にそれぞれ一発ずつ、乾いた音を響かせた。「あんたたちが国内で杏理に何をしたかは知らないけれど、この子が命を落としかけた事実は消えないわ!さっさと失せなさい。二度とその顔を見せないで!」叔母の怒声と共
和也の顔色がさっと変わり、すぐさま立ち上がって外へと向かった。拓也と智也も同じ思いを抱き、慌てて空港へと急いだ。――杏理のそばへ駆けつけなければ。彼女の苦しみに寄り添い、これまでの罪を償うために。……手術を終えて意識を取り戻したのは、三日もあとのことだ。滅菌服に身を包んだ叔母がずっと付き添ってくれていて、私の目が開いたのを見るなり涙をこぼした。「杏理、痛くない?大丈夫?」私は口角を上げて笑ってみせた。「生きていられるなら、これくらいの痛みは我慢できるよ」叔母はふっと吹き出すように笑った。「杏理なら、きっと長生きできるわ!」手術は大成功だった。医者からは記憶を失う可能性があると言われていたが、今のところ、会う人はみんな覚えている。確かに何かを忘れているような感覚はあるものの、それを思い出したいとは微塵も思わなかった。むしろ、きれいさっぱり忘れてしまった方が、幸せになれる気がしてならない。峠を越えた後、一般病棟に移り、叔母の手厚い看病のおかげで、自分でも驚くほどの速さで回復していった。ただ、ずっと病室に閉じこもっているのに飽きてしまい、叔母の袖を引いて、外に散歩に連れて行ってほしいとせがんだ。叔母は嫌な顔一つせず、私に厚手の服を着せ、帽子を被せてから車椅子で中庭まで連れて行ってくれた。季節は冬。降り積もったばかりの雪が、枯れ木の枝に氷の飾りを灯し、まるで新しい命が宿ったかのように輝いている。私はその光景をぼんやりと見つめている。「杏理!」咄嗟に声のする方へと顔を向けた。そこには、よく似た顔立ちの男が三人、感極まって涙を浮かべながら立ち尽くしている。彼らは一斉に駆け寄ってきた。「やっと見つけた!杏理、手術は痛くなかったか?」「すまない。雪のことで手一杯で、お前を無視するべきじゃなかった」「俺たちにとって、杏理が一番大切だ。それはこれからも変わらない!」「もう少し体調が良くなったら、国内に帰って手厚く看病させてくれ。もう二度と、辛い思いなんてさせないから!」「だから、もう怒らないでくれないか?」三人が代わる代わるまくし立てるので、頭が痛くなってきた。彼らを見ていると、心の中にどす黒い嫌悪感が込み上げてきた。思わず車椅子を動かして逃げようとしたが、拓也にガシ
手術は順調に進んでいる。叔母が外で落ち着かない様子で待っている間、杏理のスマホは鳴り止まず、苛立ちを募らせている。青葉三兄弟からの着信を見つめていた叔母は、ついに耐えかねて電話に出た。そして、相手が口を開く前に怒声を浴びせかけた。「あんたたち、二度と電話してこないで!杏理をこれ以上煩わせないでちょうだい!あんなに一緒に育ってきたっていうのに、あんたたちのせいで杏理は命を落としかけてるのよ!どの面を下げて電話してきてるの?少しでも人の心が残ってるなら、毎日土下座して悔い改めなさい!」叔母は言い捨てて電話を切った。電話の向こう側で青葉三兄弟が顔を見合わせ、その表情には強い動揺が浮かんでいる。拓也は血の気が引いた顔で、呆然と呟いた。「叔母さんは、杏理が死にかけたって……一体どういうことなんだ?」和也と智也は涙を溜め、泣きながら「知らない」と言って首を振るばかりだ。ふと我に返った和也は、杏理の部屋へと全力で駆け出した。だが、そこはもぬけの殻だ。杏理にまつわるすべてのものが、まるで初めからなかったかのように消え失せていた。和也はその場に崩れ落ち、大粒の涙を流しながら絶叫した。「あいつ、前から決めてたんだ……ずっと前から、ここを出ていく支度をしてたんだ!俺たちは、なんてことをしてしまったんだ!」拓也と智也も、立っていられないほどに泣き崩れている。そこへ、作業着姿の数人の男たちが屋敷の中を覗き込んできた。「すみません、こちらは宇島杏理さんのお宅で間違いないでしょうか?」智也は何度も頷き、必死の形相で彼らに詰め寄った。「そうです!彼女がどこにいるか知っていますか?」藁にもすがる思いで問いかけたが、男たちは首を横に振り、測量器具を取り出して作業を始めた。「いいえ、私たちは宇島さんに頼まれて、この二つの屋敷の間に壁を作るための下見に来ただけです」その言葉が決定打となり、青葉三兄弟は頭を抱えて泣き叫んだ。「どうして……どうして雪を使って杏理を追い詰めたりしたんだ!」「俺たちは、これまで何をやってきたんだ!」拓也は涙を流しながら、必死にスマホを操作し、杏理の行方を知っている人がいないか探し続けた。智也はふと思い出したように、自分の太ももを強く叩いた。「拓也兄さん!和也兄さん!杏理
私は奥歯を噛み締め、雪の手に握られている薬をじっと見つめた。「一の橋さん、その薬を返して!」雪は私の苦しみを見透かしたように、薬の瓶を開けて二粒ほど取り出し、二、三歩後ずさった。そして、まるで犬でも呼ぶかのように舌を鳴らしてみせた。「杏理さん、ここまで這いつくばってお願いしてくれたら、返してあげてもいいわよ」これほどの挑発に耐えられる人間はいない。ましてや私の理性は、今にも痛みに食い尽くされそうだ。一瞬にして怒りがこみ上げ、私は叫び声を上げながら薬を奪い取ろうと飛びかかった。だが、雪は狙ってやったのか、あるいは偶然か、後ずさりしながら私の薬をすべて道路脇の排水溝に投げ捨てた。雪はわざとらしく惜しむような表情を浮かべたが、その瞳の奥に潜む嘲りの色はますます濃くなっていった。私は思わず手を振り上げた瞬間、強い力で突き飛ばされた。間髪を入れず、乾いた衝撃音が私の頬に響き渡った。一瞬、頭の中が真っ白になった。拓也は怒りを露わにして立っている。「宇島杏理、いい加減にしろ!俺たちがいない隙を狙って雪をいじめるなんて、正気か!」和也と智也は雪に駆け寄り、慌てて怪我がないか確かめ始めた。彼女の手に擦り傷を見つけると、二人の表情が険しくなり、血相を変えて叫んだ。「拓也兄さん!そいつは放っておいて、早く雪を診てくれ!血が出てるんだ!」拓也は途端に慌てふためき、急いで雪のもとへ駆け寄った。和也は冷たい表情で、私を激しく脅した。「杏理、雪は医者を目指してるんだぞ!もしこの手に何かあったら、もうここに住まわせるわけにはいかないからな!今すぐ部屋に戻って反省しろ!」頭が割れるように痛む中、根拠のない疑いをかけられ、私は必死に弁解の声を絞り出した。「彼女がわざと私の薬を排水溝に捨てたのよ!この薬がなければ、私は死んでしまうかもしれないのに!」智也の口元が、嘲るように吊り上がった。「杏理、俺たちの気を引きたいからって、自分を呪うような嘘までつくのか?感心する」拓也は冷たく鼻を鳴らした。「本当にお前には愛想が尽きた」三兄弟はそう言い捨てると、私に一度も視線を向けることなく、雪を連れて立ち去った。私はあまりの痛みに地面にうずくまり、ついに涙が堰を切ったように溢れ出した。この特効薬は脳内の腫瘍の増殖を抑え