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第205話

Author: 玉井べに
「私はただ……」

「珠希」彰は警告するように彼女を睨んだ。

珠希は憤慨しながら口を閉ざした。

彰は美鈴に謝罪した。「美鈴、珠希の無礼な発言について、俺が代わりに謝る。だから今回だけは大目に見てくれ」

美鈴の指は震え、言葉が出てこなかった。

ここ何年かは、夕星が自ら選んだ道とはいえ、美鈴はやはり後悔の念に駆られていた。

悪夢にうなされ、夜中に目を覚ますことも多かった。

凌は美鈴の冷たい手を握りしめ、冷ややかに笑った。「一言の謝罪で過ちが帳消しになるとでも思っているのか?」

彰は数秒沈黙し、それから提案した。「両社で立ち上げたプロジェクトに関して、売り上げのうちの2%を君の会社に譲歩をするつもりだ」

この2%は、珠希の無礼な発言に対する代償だ。

凌は淡々と言った。「10年間、総売上のうちの2%を美鈴に支払え」

補償があってこその謝罪だ。

「なんでよ?」珠希は納得していなかった。

「わかった」彰は同意した。

彼は珠希の手を引いて、その場を離れた。

外に出ると、珠希は手を振り払い、怒りに震えながら詰め寄った。「彰、どうして勝手に決めるのよ?美鈴に2%も譲る価値なんてないでしょ」

彰の我慢も限界に達していた。

彼は冷たく言い放った。「凌はお前を好きじゃないんだ。だからこれ以上執着するな。明日一緒に俺と帰れ」

珠希は目を赤くし、携帯を取り出した。「父さんに言いつけるわ。兄さんが他人の味方して私をいじめたって」

彰は完全に忍耐を失い、車のドアを開けて乗り込んだ。「勝手にしろ」

別荘では、明日香は不安そうにしていた。

珠希と凌は同世代だから、二人の間で起きたことは凌がなんとかできるが、明日香の場合は、霖之助の出番が必要だ。

霖之助は明日香に面目を立てず、彼女を叱りつけた。「頭がどうかしているのか、自分の息子に薬を盛るなんてことをするとは!」

明日香は言い張った。「私だって彼のためを思ってやっただけよ!だってあんな女を好きになったんだよ?」

明日香は美鈴の名前すら呼ぼうとしなかった。それぐらい彼女を嫌っていた。

自分は夕星も嫌っていたが、少なくとも彼女はピュアだった。だけど美鈴は孤児院から出てきた孤児で、両親もいなく、しかも他人の身分を偽っていた。

そんな女が凌の妻になるなんて。

榊家が笑い物になるわ。

霖之助は険しい表情で、「
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