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第5話

مؤلف: 緋色の追憶
午後になると、梓は熱を出し始めた。

背中の傷がズキズキと熱く痛み、体の中から込み上がる高熱と一緒になって彼女を苦しめた。

意識が朦朧とする中で横になり、眠っては目を覚ます。ドアの外からかすかな足音が聞こえ、階下からはぼんやりとした笑い声が届いた。でも、誰もこの部屋のドアを開けることはなかった。

再び夜がやってきた。

高熱で、梓は半分意識がないような状態だった。

五感が鈍って変な感じがする。声が遠くに聞こえたり、すぐそばで聞こえたりした。

うとうとしていると、誰かが部屋に入ってきて額に触れたのがわかった。そして、ため息が聞こえたような気もした。

それから、ごそごそという物音がして、額に冷たいタオルが当てられた。

声を潜めた話し声が、熱にうなされる彼女の耳に、途切れ途切れに聞こえてきた。

「なんでこんなに熱が高いんだ……」勇太の声だった。いら立っているようだ。

「ぜんぶ私のせい……」梨花の声はか細く、鼻声を帯びていた。

「私がいなければ、梓さんも怒らなかったし、けがをすることもなかったのに」

「お前のせいじゃない。梓が勝手にキレ出しただけだ」

勇太の声が少し近くなった。どうやらベッドのそばに座ったらしい。「薬は飲ませたから、熱はそのうち下がるはずだ。お前の手はまだ痛むか?」

「ちょっと痛い……ふーふーしてくれない?」甘えるような声だった。

短い沈黙の後、笑いを含んだささやき声が聞こえた。「静かにして。梓はまだ寝てるんだ」

「わかってる、でも痛いんだもん」梨花の声はさらに低くなり、ねっとりと絡みつくようだった。「梓さんのことは心配するのに、私のことは心配してくれないの?」

「……ばかなこと言うな」

男の声は低く、何を言っているのかはっきりしなかった。仕方ないな、というような甘さが混じっているようだった。

その後の言葉は、梓にはもう聞こえなかった。

ひどい頭痛と耳鳴りがほかの音を全部呑み込んでしまった。あのねっとりとからかうようなささやき声の断片だけが、毒虫のように混乱した脳みそに食い込んでくる。

すべてが高熱の中でゆがんで大きく見えた。それは梓を底なしの屈辱と絶望の中にがんじがらめに縛りつけ、決して逃がそうとはしなかった。

梓が次に目を覚ましたとき、すでに空は明るくなっていた。

部屋のドアが静かに開き、勇太が水と薬を持って入ってきた。

「起きたのか?気分はどうだ?」彼はコップをベッドサイドテーブルに置いた。

勇太は血の気のない梓の冷たい横顔を見て、口調を和らげた。「熱が下がったならよかった。とりあえず薬を飲みなよ。雑炊も作っておいたから」

梓は動かず、勇太を見ようともしなかった。

彼女の視線は向かいの白い壁に留まった。声は渇いてかすれていたが、不思議なほど穏やかだった。「勇太、私たち、離婚しよう」

部屋の中は、一瞬でしんと静まり返った。

勇太の顔から柔らかな表情がすっと消えた。

彼は梓をじっと見つめた。まるで聞き取れなかったかのように。あるいは、とんでもない冗談を聞かされたかのように。

数秒後、勇太は口元をつり上げた。その笑みには温かみなんて少しもなくて、見下すような不可解さと苛立ちだけが滲んでいた。

「離婚?」彼は語気を強めて聞き返した。

「梓、熱で頭でもおかしくなったのか?また何を拗ねているんだ?」

「拗ねてなんかないわ」梓は、ようやく顔を勇太に向けた。

彼女の瞳はとても澄んでいて、怒りも悲しみもなかった。そこには、ただすべてが燃え尽きた後の灰だけが広がっていた。

「言ったでしょ。離婚するって」

勇太は梓と目を合わせると、眉間に深くしわを寄せた。

彼は深く息を吸い込み、何かを必死にこらえているようだった。「俺のもとを離れるだと?どこへ行くつもりだ?お前に一体何がある?この宿だって俺のものだ。お前がこれまで着てきたもの、口にしてきたもの、その全部、誰が与えてやったと思ってるんだ?」

勇太の視線が布団の下の梓の体をするりと撫でた。その意味は言わなくてもわかった。「俺と別れたら、誰がお前なんて相手にする?どうやって生きていくつもりなんだ?」

彼の言葉は氷のように冷たい針となって、一本一本、梓の麻痺した心に突き刺さった。

勇太は怒鳴ることも引き止めることもしなかった。ただ静かな口調で残酷な現実を並べ立て、一人の人間としての梓の価値を完全に否定した。

それを聞きながら、梓の顔にうっすらと冷たい笑みが浮かんだ。

「ふふっ……」彼女は乾いた声で笑った。「私に何があるか、だって?ええ、そうね。今の私に何が残っているっていうのかしら?」

勇太は梓の視線の冷たさに、思わず息を呑んだ。

さっき自分が口走った言葉が部屋に響き渡り、耳障りで汚いものとして自分に返ってくるのを感じた。

梓の青白い顔に浮かんだ皮肉な笑みを見て、勇太の胸はわけもなく締めつけられた。後悔と苛立ちが入り混じった感情がこみ上げてくる。

彼は視線をそらし、ごくりと喉を鳴らして場の空気を和らげようとした。「梓……」

声がかすれていた。「熱が下がったばかりで、まだ弱っているんだ。怒りに任せてそんなことを言うな。離婚なんて簡単なことじゃない。カッとなっちゃだめだ。今は休んで、体を治すことだけを考えろ」

勇太はそこに立ち尽くしたまま、どうすればいいのか分からなかった。

これ以上ここにいても、この凍りついた空気がさらに気まずくなるだけだ。

「お前は……とにかく今はゆっくり休め」彼はついにそう言った。その声には、気づかれないくらいの焦りが混じっていた。「雑炊はキッチンで温めてある。腹が減ったら食べろ。俺はこれで」

そう言うと、勇太はどこか慌てた様子で踵を返し、ドアを開けて出て行った。

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