皮膚移植の手術が終わって、麻酔が完全に切れても、夫の佐野勇太(さの ゆうた)は現れなかった。うつ伏せになって、体を動かせない佐野梓(さの あずさ)は、スマホを手に取った。一体何をしているのかと勇太に連絡しようとした、その時。あるトレンド記事が目に飛び込んできた。【男にとって『愛』と『責任』は別物なの?】梓は、なぜかそのタイトルに吸い寄せられるように、その記事をタップした。最初のコメントは、まるで戦利品を自慢するかのような、率直な文だった。【もちろん、全然ちがうに決まってる。彼が自分の妻に感じてるのは、ただの責任。でも私には愛情がある。その差は大きい】コメント欄には非難が殺到していた。しかしそのコメ主は、見下すような口調で一つ一つ返信していた。高評価コメントの一つに、こんなものがあった。【どういう気持ちでそれを言ってるの?どうせ不倫相手でしょ?】コメ主は返信した。【ううん、愛されてるってこと。あの男は毎年決まって2ヶ月間、私の家に来てくれるの。どんな時でも。妻の両親の命日ですら、私の隣にいてくれた。『お前の顔を見てると、ホッとできる』だって】その文章を読んだ途端、梓は息ができなくなった。背中の手術痕がドクドクと脈を打つように痛みだした。コメ主の文脈からは、得意げな様子が滲み出ていた。【それにね、あの男は私にみじめな思いをさせたくないからって、彼の妻にはずっとピルをサプリに見せかけて飲ませてるの。長いこと飲んでるから、体はもうボロボロ。一生妊娠できないんじゃないかしら】梓は無意識に下腹部をさすった。【一番面白いのはやっぱり3年前のこと。私の卒業旅行で海にいたとき、あの女の両親が玉突き事故で即死したの。彼はスマホをマナーモードにしてて電話に出なかった。だから、これは一生かけて償うべきことなんだって言ってる。でも、償いと愛とは別物でしょ?】さらなる非難の声が殺到したが、コメ主はますます盛り上がり、最新の返信には画像を添付してあった。鏡に映るのは、女の若く肌白でツルスベな背中。首から後ろにかけられたメンズネックレスが、腰のあたりまで垂れ下がっていた。それは見覚えのある……勇太がいつも肌身離さずに着けているものだった。添え書きは次のように書かれている。【私の肌はミルクのようだって、いつも触ってて離さない。ど
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