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24.孤独を埋める隼人との時間①

last update Last Updated: 2025-09-26 20:03:14

この日、私はホテルのラウンジでティータイムを楽しもうと一人で出かけていた。

ハイクラスホテルで普段はランチでも五千円以上するが、平日の午後二時から限定メニューでスイーツセットが千五百円と手ごろに楽しめると、SNSで話題になっている。平日のティータイムに頻繁に行ける人はなかなかいないため、投稿できること自体が一つのステータスだった。

ホテルのエントランスに入ると、高い天井に煌びやかに光るシャンデリアに心が癒され、私の心もキラキラと輝いていた。ラウンジを探して歩いていると、エスカレーターから降りて来た人にすれ違いざまに声を掛けられた。

「凛さん?」

声を掛けてきたのは、律の叔母の還暦パーティーで会った隼人だった。仕事なのか、この前会った時とは違い、髪型もきっちりとセットされている。

「隼人さん?お久しぶりです」

「久しぶりだね。今日はどうしたの?」

「あ、このホテルのラウンジに興味があって……」

「ああ、人気だよね。僕も行こうと思っていたんだけど、良かったらこのあと一緒にどう?」

「え、でも隼人さん仕事なんじゃ……」

「ああ、今日は経営者が集ま

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