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お陽様

Author: maruko
last update Last Updated: 2025-04-03 05:45:33

ティアナを助けてくれたのはメリー・キャリバンという名の夫人だった。

そこはターニア王国の北側の最端キャリバン領の中の小さな家。

ティアナが飛び降りた崖よりもだいぶ流された位置にあった。

地図を見ながら説明されたので此処がキャリバン領だとわかったが、目の前の夫人はキャリバンと姓を名乗ったものの、その関係性は教えて貰えなかった。

領主の邸でないのは確かだろうと思った。

何故ならあまりにもこじんまりした家だったから。

案内された部屋数はティアナが寝ていた部屋を含めても4つしかなかった。

寝ていたベッドも質素なものだったし、備えてあった椅子やテーブルもしっかりした作りだが見た目的にはシンプルで貴族が使う物には思えなかった。

夫人が言うには此処は別荘なのだそうだ。

敢えて“誰の”だとは言わなかった。

別荘なのであれは彼女は領主夫人なのかもしれないなと薄っすらとティアナは思った。

態々訊ねることはしなかった。

彼女の教えてくれたティアナは、別荘から少し歩いた所にある海岸に流れ着いていたそうだ。

不思議なことに“如何してそこにいたのか”とは聞かれなかった。

ただ何故か彼女は一冊の小さなノートとペンをティアナに与えて自由に使いなさいと言った。

その日からティアナは自分の思いの丈を日記に認め始めた。

今日は晴れ

ロットは今頃如何しているかしら?

私が居なくなって清々しているのかしら?

初めて会った頃に戻れたら⋯。

貴方は可哀想な私に手を差し伸べてくれたけれど、私が強い子であればそんな必要はなかった。

そうすれば婚約解消も、もっと早くにメリーナ様に進言できたのかもしれない。

弱くてごめんなさい

好きになってごめんなさい。

今日は雨

雨の日は好きだった。

だってずっとお部屋でロットとお話することができたもの。

あまり話さない私に気を使って一生懸命話題を振り絞る貴方を見るのが嬉しかった。

ロットごめんなさい

私が話題豊富な女の子だったら貴方にそんな苦労させなかったのに。

明るくなくてごめんなさい。

好きになってごめんなさい。

毎日の日記は初めはロットバリーへの懺悔だった。

ティアナの中の後悔はロットバリーに出会ってしまった自身の運命をも否定するものだった。

だが、その小さな30頁程のノートが一冊終わる頃にティアナは段々と気付き始めた。

今日は晴れ

少し暑いくらいの陽射しで別荘のメイド
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  • 貴方の願いを叶えたい   歪な関係 3

    お祖父様の何かしらの関係のあるメリーナ・スティル女男爵。その方の名前を頂いた私は祖父にとってどんな存在だったのか?代わりなのか、それとも憎々しい相手を忘れることのないよう自分を戒めるために付けたのか。まぁ今更考えてもしょうがない。私が取り戻したいのは幼い頃に母が優しく呼んでくれた“メリーナ”という響きを渇望しているからだ。ある日お祖父様に呼ばれて冊子を一冊テーブルに投げられた。「此処へ行け」一言で終わる会話。会話とは一言では成立しないのに我が家の会話はいつからかこうなった。それもこれもあいつに会ってからだ。空気の重い公爵邸、何時しか私の住むそこが公爵家の領地に建てられたものだと知る。弱い母には悪いけれど逃げられるのなら逃げたくて祖父に言われて可能な限りの最短で女学園の寮に移り住んだ。幼い頃に会った事のあるユアバイセン侯爵家のナタリーヌは始め私を見下していた。公爵家といえども王都にいる《《分家》》よりも力のない名ばかりの公爵。父をそう揶揄して私を馬鹿にした。私は魔法を開花してその頃には色々な魔法を自分で調べて使えるようになっていた。その夜私は彼女の部屋に転移して首を絞めた。鍵のかかった部屋に突然現れた私に慄き尚且つ絞首された彼女は私への絶対服従を誓う。笑いが止まらない。魔法さえあれば私は唯一だ!祖父が何の意図で此処に私を送ったのか暫くは気付なかった。学園が始まるまでの余暇で彼の男爵家に様子を見に行くとそこに住む可愛らしい私と同じくらいの少女が目に入った。丁度馬車に乗り込むところだったので後を付けると二人はデートしていたようだ。呑気なものだロットバリー!ターゲットを観察する、私には手足となって働く男手がない。それを見つけることも急務だった。ナタリーヌに男爵家を調べさせた。その少女はロットバリーの婚約者だった、そして彼女は女学園に入学予定。祖父が何を私に求めているのかが解った。解ったけれど言いなりになるのに少しだけ時間を擁した。葛藤したが結局は彼女を苦しめることがロットバリーを苦しめることだと思い、ターゲットを彼女に絞った。名前も気に食わなかった。祖父の気分で変更された名前、一文字だけ違うそれが何とも歯痒かった。メリーナの時は同じにしたのに何故この女の時は一文字違ったのか⋯それが呪縛のように感じた。お前

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