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身代わりの妻が消えてから、夫は狂った
身代わりの妻が消えてから、夫は狂った
Author: ざざ

第1話

Author: ざざ
真実を知った朱莉は、二つのことをした。

一つ目は、妊娠5か月で中期中絶を受けることだった。

お腹の子は、もう胎動を感じるほどに育っていた。処置の最中も歯を食いしばって泣かなかったが、看護師から「お子さんと面会されますか」と尋ねられた途端、泣き崩れながら首を横に振った。

二つ目は、離婚届と財産分与に関する合意書を用意することだった。

それから、佐久都に電話をかけた。

以前なら、佐久都はすぐに電話に出て、優しい声で「朱莉、どうした?」と聞いてくれた。

だがこの日は、何度かけてもつながらず、ようやく応答があったのは23回目だった。

電話の向こうは騒がしく、続いて友人たちのからかう声が聞こえてきた。

「初恋ってのは恐ろしいよな。絵里が帰ってきた途端、佐久都は妊娠5か月の奥さんを家に置き去りだ」

「仕方ないだろ。あの子は絵里の身代わりなんだから。佐久都が昔どれだけ絵里を愛していたか、お前も知ってるだろ。別れたときは酒で命を落としかけたし、今まで一度も忘れられなかった。それで、よく似た若い子を口説いて身代わりにしたんだ」

「奥さん本人は、まだ何も知らないんだろ。毎日、佐久都にべったりでさ。この前、二人がキスしてるところを見かけたけど、あんなふうに甘えられたら、見てるこっちまで骨抜きになりそうだった。俺なら、あんなかわいくて甘え上手な子が家にいたら、絵里のことなんてとっくに忘れてるよ」

「佐久都は冷たそうに見えて、一途だからな。一生、絵里しか愛せないんだろ。さっきも絵里がハイヒールで足が痛いとこぼしただけで、抱き上げてフラットシューズを買いに行ったぞ……」

スマホを握ったまま、朱莉は声もなく涙を流した。

そのとき、向こうが急に静かになった。

「誰だ、俺の電話に出たのは?」

佐久都の声だった。

「え?知らない。何かの拍子に触ったんじゃないか……」

足音が遠ざかり、やがて周囲の物音が消えた。

次に聞こえてきたのは、朱莉をいつも夢中にさせていた佐久都の優しい声だった。

「朱莉ちゃん、どうした?雷が怖くて眠れないのか?今夜は付き合いがあるんだ。遅くなるけど、帰ったら朱莉と赤ちゃんのそばにいるからな」

朱莉は深く息を吸った。

「離婚の書類にサインしてほしくて――」

言い終える前に、女の声が割り込んだ。

「佐久都、足が痛い……」

佐久都はしばらく黙ったあと、慌ただしく告げた。

「いい子だから、先に寝ていて。あとで帰るよ」

そのまま電話は切れた。

朱莉は笑い、涙をすべて拭うと、テーブルへ目を向けた。

そこには、佐久都に贈る二つの「プレゼント」があった。

一つは離婚届と合意書。もう一つは、引き取った二人の子どもを納めた、小さな白い棺だった。

人の真心を踏みにじれば、いつか必ず報いを受ける。

朱莉は確かに若かった。だからといって、これほど欺かれても耐えられるわけではない。

自分を欺く人など、もういらなかった。

あれほど愛せたのだから、きっと手放すこともできる。

どれほど座り続けていたのか。やがて立ち上がると、子どもの眠る白い棺を、葬儀社が用意した保冷用の安置ケースへそっと納めた。

そのとき、玄関から物音がした。

「朱莉ちゃん、まだ起きていたのか?」

佐久都はスーツの上着を脱ぎながら近づいてきた。ネクタイは首元で緩んでいる。

「そこで何をしてる?具合でも悪いのか?」

朱莉は答えず、ただ静かに彼を見つめた。

いつもと違う態度に戸惑いながら、佐久都は背後に隠していた上品な箱を差し出した。

「何軒も回って、やっと買えたんだ。最近、これが好きだっただろ?」

並べられた菓子はどれも、つわりの続く朱莉が好んで口にしていたものだった。

以前なら、すぐに抱きついてキスしていただろう。

今はただ、皮肉にしか思えなかった。

「どうして黙ってる?またつわりがつらいのか?」

佐久都が下腹部へ手を伸ばしたため、朱莉はそれを遮り、一枚の書類を差し出した。

「サインして」

佐久都がわずかに目を見張り、中身を確認しようとしたとき、スマホが鳴った。

画面に表示されていたのは、一条絵里(いちじょう えり)の名前だった。

電話の相手が何を言ったのか、佐久都の顔色が変わった。通話を切ると、書類には目も通さず、急いで署名した。

そして車のキーをつかみ、出ていこうとした。

「朱莉ちゃん、急用ができた。先に休んでいて」

玄関まで行ったところで、優しく付け加えた。

「これからは欲しいものがあれば自由に買えばいい。いちいち俺のサインをもらう必要はない。夫婦なんだから、俺のものは朱莉ちゃんのものだ」

朱莉は、佐久都の署名が入った離婚届と合意書を握り締め、かすかに唇を歪めた。

「佐久都。私たち、もうすぐ夫婦ではなくなるのよ」

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