LOGIN姪の美咲(みさき)と、かくれんぼをしていた。 目を覆ったまま、20まで数える。 数え終えてから屋根裏部屋へ向かうと、扉には鍵がかかっていた。 私・神谷莉央(かみや りお)はそのまま引き返そうとした。 そのとき、中から、かすかな物音が聞こえた。 足音を忍ばせて扉に近づき、そっと耳を当てる。 「見つけた!」 そう叫ぼうとした瞬間。 扉の向こうから聞こえてきたのは、親友の西園寺怜奈(さいおんじ れな)の荒い息遣いだった。 「恒一……誰か上がってこないかな?」 彼氏の川瀬恒一(かわせ こういち)が低く笑う。 「大丈夫だって。美咲には、ずっと欲しがってたバービー人形を買ってやるって約束してある。 鍵もかけたし、誰にも見つからないよ」 扉の外で、私は凍りついた。全身から血の気が引いていく。 朝。 恒一と怜奈は、私にサプライズを用意すると言っていた。 二人は連れ立って車で出かけていった。 私は指先が掌に食い込むほど、拳を強く握りしめた。 そういうことだったのだ。 本当の「サプライズ」は、ここにあったのか。
View Moreそれから数日、彰は何かと理由をつけて、食事に誘ってきた。けれど私は、勉強が忙しいからと断り続けた。ある夕方、彰はついに、私の住むアパートの下で待ち伏せしていた。その姿を見た瞬間、私は美月にメッセージを送った。【美月、まさか私を売ったの?】すると美月は、舌を出したふざけたスタンプを即座に返してきた。仕方なく、私は彰と近所を歩くことにした。しばらく無言で歩いたあと、先に口を開いたのは彰だった。「そんなに俺を避けなくてもいいんだぞ。美月はお前の親友だろ。俺のことも、兄貴みたいなものだと思ってくれればいい」私は顔を上げ、素直な気持ちを伝えた。「避けてるわけじゃないよ。私、人付き合いがあまり得意じゃないの。異性と近づきすぎると、いろいろ面倒なことになる気がして」彰は足を止めた。いつものおどけた表情を引っ込め、私の目をまっすぐ見る。「美月から聞いた。この前レストランの男、長い間付き合ってたんだってな。でも、一度嫌なことがあったからって、ずっと引きずる必要はないと思うんだ」私は彼を見つめ、困ったように小さく息を吐いた。「言ってることは分かってる。でも、あなたと私じゃ、あまりにも違いすぎる。もう一度、あんな泥沼に落ちるのは嫌なの。分かってくれる?」彰はしばらく黙った。私を見つめてから、低い声で答えた。「……分かった」それからの日々、私は卒業後の進路を探すことに集中した。ほどなくして、国内の芸術大学から教員として招かれた。私はその申し出を受け、帰国することになった。そんなある日。ネットのトレンドに、見覚えのある二人の姿が現れた。【#妊娠した女性、男に捨てられ刃物を振り回す】私は一目で分かった。写真に写っている女は、怜奈だった。そして血まみれで倒れている男は、帰国後、怜奈と関係を続けていた恒一だった。しばらく静まり返っていた同級生のグループチャットが、一気に騒ぎ出した。【知ってる?恒一、あれからまともに恋愛してないらしいよ。界隈じゃ有名な遊び人になったって。帰国してから怜奈がまた会いに行ったらしくて、恒一も断らなかったみたい。結局またくっついたんだと】【うわ……これでようやく終わったってわけか】【二人とも、自業自得だね】私は見慣れた二つ
周囲のスタッフたちが、興味深そうにこちらを見ている。私は仕方なく、軽く頷いた。街の中心部にある最高級レストランを、恒一は貸し切っていた。食事をしながら、彼は次々と自分の近況を語った。「莉央、お前に感謝してるよ。お前が俺の負けん気に火をつけてくれたんだ。お前がいなくなってから、俺は必死で努力して、やっと家業を継いだ。留学中に築いた海外の人脈を使って、少しずつ事業を海外へ広げてきた。この数年間、会いに来なかったことは謝る」彼はナイフとフォークを置き、深く息を吸った。「俺はただ、一番いい姿で、お前の前に立ちたかったからだ」そう言いながら、彼は背筋を伸ばした。今の自分を、必死に見せつけようとしている。一瞬、呆気に取られた。すると、私は静かに食器を置いた。「ごめんなさい。彼氏が迎えに来たので」そう言って、私は恒一の背後へ視線を向けた。遠くから御堂彰(みどう あきら)が、柔らかく口元を緩める。数歩で私のところまで歩いてきた。彼は私の肩を抱き、恒一に軽く会釈した。「申し訳ありません。これで失礼します」私は微笑み、彼の腕に手を添えて立ち上がる。「待て!」恒一がようやく我に返った。私たちは足を止め、振り返る。「他に何か用?」恒一は、私と彰の腕を見つめていた。声が震える。「……誰だ、そいつ」私はふっと笑った。「紹介するね。私の婚約者、御堂彰さん」「御堂……彰、だと?」その名前を聞いた瞬間、恒一の顔色が変わった。二、三歩よろめいた。「そんな……あり得ない」御堂グループの名は、この国でも広く知られている。そして御堂彰は、その唯一の後継者だった。彼の会社が海外で取引関係を築けたのも、御堂グループの関連企業だった。彼がここまで必死に事業を拡大してきたのも、いつか私の前で成功した姿を見せるためだった。けれど今、彼の前に立ちはだかるのは、御堂グループそのものだ。恒一に、敵対する勇気はなかった。「もういいなら、行くね」そう言って、私は彰の腕に手を絡め、店を出た。恒一は椅子に崩れ落ちた。広大で豪華なレストランに、彼一人だけが残された。頭上からの光が、孤独に彼を照らしている。その影は、あの雨の夜よりも、さらに惨めだった。恒一はそのまま、一晩中レストランに
私の家を出たあと、恒一は街をさまよった。深夜、雨が降り始めた。通行人は皆、走って雨宿りを探す。その中で彼だけが、街角に立ち尽くしていた。空を見上げる。激しい雨が、容赦なく顔を打ちつける。まるで、それで心が洗われるとでも信じているかのように。私は、彼が思っている以上に冷静だった。最初、恒一は他の男たちと大して変わらなかった。恋人以外の怜奈に、ほんの一時的な新鮮さを感じた。長年付き合ってきた私との関係がある以上、怜奈とのことは取るに足らない一時の過ちだと思っていたのだろう。私にプロポーズしたあとで、怜奈とはきっぱり縁を切り、ただの友人に戻ればいい。そう考えていたのだろう。けれど、彼の思い通りにはならなかった。怜奈がすべてを暴露しても、私は彼なしでも生きていけた。むしろ、彼のほうが割り切れていなかった。弁明会で、私が彼の嘘を次々と暴いていくのを見たとき、彼の目は、あの頃と変わらず、私を追いかけていた。雨脚はますます強くなった。街から人影が消えていく。時折通り過ぎる車が、容赦なく彼に水しぶきを浴びせる。それでも彼は、どうでもいいように笑った。そして、道端のベンチに横たわった。冷たい雨に、何もかも洗い流してもらうように。彼は目を閉じた。土砂降りの空を見上げながら、胸の内で密かに誓う。「必ずもう一度、莉央を取り戻すのだ!」翌日、私は大学へ用事があり、そこで再びあの二人を見かけた。怜奈は周囲の目も気にせず、恒一の服の裾を掴んだ。「恒一、行っちゃったら私、どうすればいいの?今の私には何もない。卒業資格も、評判も、全部失った。私を見捨てないで」恒一は苛立たしげに手を振り払った。そして冷たい笑みを浮かべる。「お前が陰で何をしてたか、知ってるんだぞ。お前が余計なことをしたから、莉央は戻ってこないんだ!」そう言って、恒一は背を向けた。怜奈が追いかけ、無理やり腕を掴む。恒一はその手を振りほどき、怜奈を突き飛ばした。怜奈は地面に倒れ、血走った目で叫んだ。「最低!本当に莉央を愛してるなら、どうして最初から裏切ったのよ!責任も取れないくせに!」パァン!逆上した恒一が、怜奈の頬を思い切り張った。「俺がお前を大事にしてたのは、莉央の親友だったからだ。俺の中じゃ、お前な
ほどなくして、大学から虚偽告発に対する処分が発表された。予想通りの結果だった。二人とも退学処分だ。恒一の実家は裕福で、海外留学も容易だろう。だが怜奈は違う。普通の家庭に育ち、ピアノの成績だけを頼りにここまでやってきた。卒業資格を失い、この先の道も閉ざされた。せいぜい小さな音楽教室の代講が関の山だ。一方、私は海外の名門音楽大学から合格通知を受け取っていた。あと数日で、この街を離れ、新しい人生を始められる。そんな夕方。恒一が玄関に立っていた。「莉央」彼の顔は痩け、目の下は窪んでいる。私を見た瞬間、その目がかすかに光った。私はドアの前に立ったまま尋ねる。「何か用?」恒一は苦笑した。「……中に入ってから、話していい?」私は少し迷った。あと数日でここを離れる。そう思うと、もういいかという気持ちになった。ドアを開け、彼を通した。恒一はソファに腰を下ろし、部屋を見渡す。その目が赤くなった。「莉央……この部屋を見ると、昔を思い出すよ」私は口元を歪めた。「怜奈との思い出?私は今、この部屋に立っているだけで気分が悪い」その言葉に、恒一の顔色が変わった。しばらくして、言葉を詰まらせながら口を開く。「お前……今、何て言った?」私は彼の目を見た。「あなたが、気持ち悪いって言ったの。どうして私が怜奈を追い出したと思ったの?」恒一は固まった。何も言えなかった。顔色が、見る見るうちに変わっていく。しばらくして、わざと話題を変える。「莉央、これを見てくれ」スマホの画面を差し出してくる。そこには海外の住宅のリビングが映っていた。窓からの景色は、私が通う大学の近くだった。私はスマホを押し返した。「何のつもり?」恒一は顔を上げ、真剣な表情で私を見つめた。「莉央、ごめん。ずっと、直接謝りたいと思ってた。お前をどれだけ傷つけたか、分かってる」そう言って、半歩近づく。「だから、償う機会をくれないか。俺はもうすぐ、お前と同じ街に留学する。これって、運命だと思わないか?」彼が手を伸ばし、私の手を掴もうとした。私は慌てて二歩後ろへ下がる。「川瀬恒一!自分が何をしてるのか分かってるの?私を『都合のいい女』とでも思っているの?」恒一は慌てた