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第3話

Author: マンゴー
寧々の胸にはさまざまな感情が渦巻いたが、何も言わずただ静かに座っていた。

雅臣も相変わらず、寧々のことをこの上なく可愛がっていた。

上着を肩にかけてやり、フルーツを口元まで運ぶ。口元についたミルクの汚れを拭ってやり、ふと瞳の奥を暗く沈ませると、愛おしそうにキスをした。

寧々はそっと目を閉じたが、かつてのようなときめきは、もうこれっぽっちも感じられなかった。

彼女が顔を上げると、汐梨が暗い目をしてこちらを見つめていた。

それを見て、汐梨を嫉妬させるという、雅臣の目的は果たされたのだと分かった。

しかし、その芝居がかった時間は唐突に終わりを迎えた。汐梨が眉間にしわを寄せ、ソファに崩れ落ちたのだ。

周りの人たちが慌てて声を上げる。「汐梨ちゃん、どうしたの……」

「分からない、お腹がすごく痛くて……胃の調子が悪いのかも。誰か、お薬を持ってきて……」

その様子を見た雅臣は表情を一変させ、思わず勢いよく立ち上がった。

汐梨のテーブルに置かれたグラスを見るなり、雅臣は目つきを鋭くした。その声には、抑えきれない心配の気持ちがにじみ出ている。

「自分の胃が弱いのを知っているだろ?どうしてこんなに飲んだんだ?すぐに病院へ行くぞ!」

雅臣はそう言うと、汐梨を横抱きにして、足早に立ち去ろうとした。

その間、彼は一度も寧々のほうを振り返ることはなかった。

寧々は目を閉じ、自分の役目はこれで終わったのだと静かに悟った。

熱っぽくてだるい体にムチを打って立ち上がり、「お先に失礼します」と一言残して、その場を後にした。

それから数日間、寧々は雅臣の邸宅で体を休めながら、少しずつ身の回りの荷物を整理し始めた。

雅臣がプレゼントしてくれたアクセサリーやバッグ、無理やり一緒に撮ってくれた写真、雅臣の好みに合わせて買ったシャツやマグカップ……

最低限必要な生活用品だけを手元に残し、思い出の品々は、すべて未練なく処分した。

どんどん物がなくなっていく部屋を見つめながら、寧々はぽかんとした。そして、消え去りゆく思い出の数々が頭をよぎった。

ソファで雅臣に抱きしめられながら映画を観たこと。夜更かししてレゴに熱中したこと。ベランダいっぱいに二人で花を植えたこと。

こんな穏やかな毎日が、この先もずっと、永遠に続いていくのだと信じて疑わなかった。

だがどうやら、いい加減夢から覚めるべき時のようだ。

そんな物思いに耽っていると、不意に庭から車のエンジン音が聞こえてきた。

寧々が顔を上げると、雅臣が汐梨を伴って家に入ってくるのが見えた。

彼の表情はいつも通り淡々としていたが、汐梨のほうは嬉しそうに微笑みながら、しきりに話しかけていた。

二人で楽しそうにリビングに上がってきたが、部屋の様子があまりにひっそりとしているのを見て、雅臣はかすかに眉間にしわを寄せた。

「どうしてこんなに、家の中のものが少なくなっているんだ?」

「使わなくなった、いらないものを整理しただけだよ」

寧々は視線を落とし、さりげなくそう言い訳した。

雅臣は深く気に留める様子もなく、寧々を一瞥しただけで、すぐに汐梨へと視線を戻した。

「汐梨の体調が悪くて、家の水回りにも不具合が出たらしいんだ。だから、数日間ここに泊めることにした」

寧々は小さくうなずいた。「分かったわ」

雅臣は飼い主で、自分は籠の中の鳥にすぎない。

だから、わざわざ言い訳をする必要なんて、本当は最初からないのだ。

寧々の追及も詮索もしない不自然な態度に、雅臣は怪訝そうに少し顔をしかめ、問い質そうとした。しかしそれを遮るように、汐梨が別の話題を切り出した。

「ねえ雅臣、日当たりのいい南側の部屋を使ってもいい?それから私、花粉アレルギーがあるから、ベランダの花はどこかに移しておいてほしいな。このカーペットもヒールが引っかかりそうで嫌だから、片付けてもらえる?」

雅臣は短く頷くと、使用人に指示をして、すぐに汐梨の言う通りに手配させた。

汐梨は満足そうに口元をゆがめ、マウントを取るかのような冷ややかな視線を寧々に送った。

お気に入りのカーペットや花が運び出され、寝室があっさりと汐梨に明け渡されていくのを見ながら、この家が自分の知らない場所に変わっていくようで、寧々の胸にはさびしさがこみ上げた。

しかしその痛みをやり過ごすと、ふっと気持ちが軽くなるのを感じた。どうせここを出ていくのだから、この家のことなんて、もうどうでもいいのだ。

そう自分に言い聞かせると、寧々はただ静かにうつむき、誰にも気づかれないように部屋へと戻っていった。

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