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第2話

作者: マンゴー
お気に入りの教え子がやっとやる気になってくれたと知り、利明の声は一気に安堵で満ちた。

「やっと決心がついたんだな、本当に良かった!君は成績優秀なんだし、この留学枠は全校で一つだけなんだから、他人に譲るなんて絶対に駄目だ。

2週間後には出発だから、しっかり準備しておくんだぞ」

寧々はこっくりと頷くと、ペンを手に取り、カレンダーの出発する日に丸をつけた。

2週間後は、ちょうど雅臣の誕生日だった。

寧々はクローゼットを開け、一着のスーツを取り出した。雅臣のために、この3ヶ月間寝る間も惜しんでデザインと仕立てに没頭した、心のこもった誕生日プレゼントだ。

留学の機会を棒に振ったのも、ただ雅臣のそばにずっと寄り添い、共に年を重ねていきたかったからだった。

だが、今の様子では、その必要もなさそうだ。

そう考えると、寧々の口元には寂しげな笑みが浮かんだ。彼女は仕立て上げたばかりのスーツを、ゴミ箱へ思い切って放り投げた。

それから温かいシャワーを浴び、ベッドの布団に潜り込んで眠りに落ちた。

雨に濡れたせいか、熱がみるみる上がっていく。

悪寒と高熱に交互に見舞われ、体からは冷や汗が流れた。意識が朦朧とし、体が鉛のように重く感じる。

夢か現実か分からない意識の中でスマホの通知音が何度か聞こえたが、身体が金縛りにあったかのように動かず、目を開けることができない。

夜が明ける頃、部屋に誰かが入ってきて、寧々の肩を揺さぶって起こした。

「鹿野さん、起きてください。御堂社長から、あなたをある場所へ送り届けるよう指示されています」

寧々は重い瞼をこじ開けた。そこには雅臣の秘書・木下圭太(きのした けいた)の姿があった。

寧々は体に残る激しい怠さを押し殺し、ベッドから出て服を着替えた。

圭太が運転する車で送られ、会員制サロンの入り口で降ろされると、車はそのまま走り去った。

寧々はコートの襟を合わせ、記憶を頼りにVIP個室へと向かった。ドアの手前で、中から楽しそうな話し声が漏れてくるのが聞こえた。

「もう1時間も経つのに、鹿野さん、遅すぎじゃない?事故で具合が悪いからって、雅臣があれだけ電話して、わざわざ人を迎えに行かせたのに。こんなにグズグズするなんて、ちょっと世間知らずが過ぎるよ」

「暇つぶしに囲っている女なんだから、可愛げがある内はいいけど、調子に乗らせるとろくなことにならないぞ。雅臣、あんまり甘やかしちゃダメだぞ。このままだと、自分の立場をわきまえなくなるだろ」

「そうよ。もともと汐梨ちゃんが離れたあと、荒れていたあんたが寂しさを紛らわせるために適当にそばに置いた女じゃない?そうでもなきゃ、あんな女が私たちの世界に入れるわけないもの。

4年も可愛がったんだから、もういいでしょう?汐梨ちゃんが戻ってきた今、あの厄介者はいつ切るつもり?」

上座に座る雅臣の冷ややかな美貌に照明が当たり、その冷淡な声をさらに引き立てていた。

「俺の女だから、俺が対処する。お前らは引っ込んでいろ」

「雅臣と汐梨ちゃんのためを思って言ってるのよ。7年も待ち続けて、ようやく汐梨ちゃんが帰ってきたのに。もう鹿野さんなんかを使って汐梨ちゃんの嫉妬をあおるなんてやめなよ。また愛想を尽かされて逃げられたら、本当に後悔することになるわよ!」

「そうだよな。この数年だって、汐梨とのツーショットを消せずに何度も見返してたじゃないか。暇さえあれば海外まで様子を見に行って、汐梨が好きだと言ったものは、どんな手を使ってでも手に入れて、人づてに届けさせていたしな……」

その一言一言が、寧々の胸に深く突き刺さり、針で刺されたような鋭い痛みが何度も押し寄せた。

最初から最後まで、自分はただ雅臣の気を紛らわせ、汐梨を揺さぶるためだけの都合のいい道具に過ぎなかったのだ。

寧々は立ち去ろうと身を翻したが、ちょうどトイレから戻ってきた汐梨に行く手を阻まれた。

汐梨は寧々の手首をしっかりと掴むと、片手で個室のドアを押し開き、部屋の中にいる面々に笑顔で声をかけた。

「何をそんなに盛り上がっているの?雅臣が呼び出した子が、怖がって中に入りにくそうにしてたわよ」

二人の姿が目に入ると、部屋は一瞬で静まり返り、一同は気まずそうに雅臣へ視線を注いだ。

雅臣はゆっくり顔を上げ、簡潔に二人を紹介すると、顎で示して寧々を自分のそばへ呼び寄せた。

「事故のケガはそれほど酷くなかったようだな。なぜ電話に出なかった?」

寧々は荒れ狂う胸のざわつきをどうにか押し殺し、無言のまま雅臣のそばへと歩み寄った。

「大したことないわ。薬を塗ってすぐ眠ってしまったから、着信に気付かなかったの。こんな夜遅くに、何か用なの?」

今日に限っておとなしく従順な寧々の様子に、雅臣は少し意外そうに思ったが、あえて深追いはしなかった。

「大した用じゃない。ただ、ここに呼んで一緒に遊ぼうと思っただけだ」

寧々の胸に、鋭い痛みが走った。

本当にただの遊びだろうか?それとも、汐梨を試すために呼ばれたのだろうか?

先ほど汐梨は、よりを戻す下準備として、金を積んで自分を雅臣から遠ざけようとした。

それなのに雅臣は、自分を利用して汐梨をあおり、彼女との復縁を早めようとしている。

二人の「好きという気持ち」を利用した駆け引きに、自分は都合のいい道具として使われているだけだった。

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