เข้าสู่ระบบあの事件から数週間がたち、私は“日常”を送っていた。
学園を騒がせた伝説はとうに落ち着き、生徒たちも次の噂話に夢中になっている。
(悪役令嬢と聖女の伝説なんて、強制力の概念どうなってるのよって思ってたけど……。結局、ただの一時期の噂だったわね)
けれど――私の中ではまだ、あの光が消えきっていなかった。
予定調和の中の、ほんの少しの、輝き。
それでも世界は平然と回っていて、私も漏れず、その流れの中に戻っていった。
授業に礼拝。
そして……クラヴァール先輩。そう。
あの、王太子の側近候補で、公爵家の跡取りで、魔法の天才―― 攻略対象の、ノエイン・ド・クラヴァール。やっぱりというかなんというか、事件以来、顔を合わせることが増えている。
最初は保健室での謝罪。
次は、私が復帰した日に、わざわざ安否を確認しに来てくれた。そこからは偶然が続いて、至る所で遭遇する。
最初は毎回ナーバスになっていたけど――慣れって怖い。 今では、廊下ですれ違えば軽く挨拶するくらいの距離感になっていた。やけに丁寧だった言葉遣いも、いつのまにか正しく上級生と下級生のものになっていて。
(ちゃんとシナリオ通りなのよね)
ゲームなら「えっ……今、言葉遣い……!」ってテロップが出て、好感度パラメーターがピコンと上がる。
好感度が上がるってことは、イベントが始まるってことだから―― 正直嬉しくはないんだけど。
でも現実では、気づいたときにはもう変わっていて、その自然さは、なんだかちょこっと感動的だった。
――そんなある日の放課後。講義のあと、私は気分を落ち着けようと中庭を歩いていた。
あんな事件があった場所なのに、中庭は嫌なイメージどころか、今や私のお気に入りだ。春の風が薬草の香りを運び、沈みかけた陽が石畳を照らす。
すべてが穏やかで、あの騒ぎが幻だったかのようだ。(あ……まただわ)
ふいに中庭の灯りが揺らめいたことに気づく。
昼間の太陽の下、ほんのわずかな揺らぎ。 最初は偶然だと思ったけれど……時々起こるのだ。あの事件以来、魔力の流れに少し敏感になった気がする。
光の粒が空気に混ざるような、そんな微かな変化でも、今ははっきり分かる。目の端に、灯りよりも鮮やかな金の光が揺らめいたように見えて、ふいにそちらに目をやると――
ローザリア様が髪をなびかせていた。(あれ……もしかして)
壁に刻まれた魔法陣が、彼女の気配にだけ微かに反応しているように見えた。
本来は昼に灯されるはずのない光。 けれど……確かに、ローザリア様に合わせて、灯りが息づいている。(やっぱり、ローザリア様が影響してる。魔力干渉……? ただ歩いているだけで?)
ローザリア様が通り過ぎるたびに、金が揺れ、柔らかな赤の灯りが追いかけるように光を放つ。
(きれい……)
本人は気づいているのだろうか。
もしかしたら、気づいているのは私だけかもしれない。 そうだったらいいな、と心の端っこで思った。――それから私は、ローザリア様を目で追うことが増えた。
窓際の席の彼女は、授業中、大体窓の外を眺めていること。
光が差し込んだ紅の瞳は、宝石みたいに綺麗だということ。 日影に差し掛かった時に深みが増す、金色の髪。(やだ、私、ローザリア様に恋してるみたいじゃない?)
そう思うほどには、私の瞳はいつもローザリア様を映していて。
おかげでそのほかの憂い事――主に頻繁に遭遇するクラヴァール先輩だけど――は、頭の隅をほんの少し占める程度の、日常の一部になっていった。そうして穏やかな日々がまた積み重なっていったある日、クラヴァール先輩から手紙が届いた。
「ストレステスターの調査に、ご協力願えますか」
短い一文。
――ついに、動き出した。
相変わらずローザリア観察モードの私は、「イベントは起こるのだから、必要以上に神経質になるのは良くないよね」なんて楽観的にとらえている。
……ちょっと楽観的すぎるかもしれない。
放課後、研究棟の扉をノックすると、低い声が返ってきた。「どうぞ」
扉を開けると、淡い魔光に照らされた研究室の中で、クラヴァール先輩が机に向かっていた。
魔力の流れを可視化するための装置がいくつも並んでいる。 水晶管の中を薄青い光が流れ、極細の針が呼吸のように揺れていた。「今、何を測ってるんですか?」
「魔力の振動周期だよ。魔道具が発する魔力の波形を解析してる。
温度を一定に保つために冷却魔法をかけているのだがーー 寒くはないか?」「大丈夫です。冷却魔法……先輩がかけたんですか?」
「ああ。水魔法の基礎だから、水属性の生徒なら1年生で習う」彼は視線を動かさずに答える。
机の上には、壊れたストレステスター。
表面は無傷なのに、中心部だけが黒く焦げている。 クラヴァール先輩は、私の視線の先に気づいてストレステスターを手に取った。「最初は出力をな上げすぎたせいだと思ったんだけど」
焦げ跡を指先でなぞりながら言う。
「でも、確認したら違ってた。
出力の上げすぎならば……もっと“焼き切れた”みたいになるはずなんだ」「……?」
「でもこれは……一点だけ。正確に"閉じて"る」
「閉じて?」
興奮しているようにも見える奇妙な表情の先輩が続ける。
「ちょうど魔力の流れが一点で遮断されてるんだ。
この一点しかないって場所。狙ってやったとしか思えないけれど、狙って魔力を流すにはピンポイント過ぎる。 光の達人なら可能だけど……」そう言ってちらりと私を見上げる。
「えええ!?いや、私それどころじゃありませんでしたし、まだ基礎的なコントロールもできないんです」
「まぁそうだろうな。光を扱えるのはこの学園では限られているし……
となると、闇か?理論上は可能だが…… でも、ここまで精細なコントロールはできるものなのか……?」言いながら自分の世界に入ってしまうクラヴァール先輩を見ながら、私は小さく息をのんだ。
頭の中に、あの瞬間の記憶が蘇る。
光が弾ける直前――世界の流れが一瞬、ぷつりと途切れた感覚。
(ローザリア、様……?)
「ああ、すまない。せっかく来てもらったのに。
当時の様子をもう一度教えてもらってもいいだろうか? 確か、クロイツ嬢が一緒にいたとか……」一つ一つクラヴァール先輩の質問に答えていく。
そんなやり取りの最中だった。その横で揺れていた測定器の針が、一瞬大きく振れた。
水晶管の針が、呼吸のような動きから少しずつ速くなる。 部屋の空気まで、わずかに震えているような気がした。「ん?……故障か?」
クラヴァール先輩が眉をひそめ、ダイヤルを調整する。 「……おかしいな。こんな振れ方はしないはずなんだが……」その直後、ノック音がした。
「クラヴァール様、クロイツ侯爵令嬢がお見えです」
「……通してくれ」
扉が開き、ローザリア様が静かに姿を現した。
その瞬間、部屋の灯りがふっと明るくなる。 ローザリア様の近くの測定器が大きく振り切れる……かと思った瞬間、それは何事もなかったかのように元に戻った。「失礼いたしますわ。
ジュリアン殿下がリリエルをお探しだったので、こちらではないかと参りましたの。 お借りしてもよろしくて?」部屋の灯りも、気づけば戻っている。
まるで世界の焦点が、彼女を中心に結び直されたようだった。(……まただ。この感じ)
クラヴァール先輩が顔を上げる。
「ああ、私も殿下に用があるので、私が一緒に参りましょう」
「あら、そうでしたの? それでは、お願いいたしますわ」壊れた魔道具の焦げ跡が、彼女の魔力に反応して淡く光る。
その光を見て、彼の瞳が細くなる。「……失礼だが、クロイツ令嬢の属性は、なんだったか」
「わたくしですか? 火・水・風・土に……闇、ですわね」(ちょっと! 光以外全部じゃない!)
「……そうでしたか。なるほど」
その瞬間、クラヴァール先輩の瞳がわずかに揺れた。
「では、わたくしはこれで。
リリエル、用事がすんだら私の部屋にいらして? おいしいお茶菓子を手にいれましたの」彼女は軽く微笑み、くるりと踵を返す。
その瞬間、また灯りがわずかに明るくなった。 クラヴァール先輩が息をのむ。「クロイツ公爵令嬢、か……」
美しい紫のクラヴァール先輩の瞳に、黒が差した気がした。
(いや、まぁクラヴァール先輩の時も、ある意味原因はローザ様だったけどね!) 視線を感じたのか、ローザ様が振り返る。「どうしたの、リリィ。朝から真剣ね?」「ええ、今日は暑くなりそうだなと思って」「えぇ?なぁに、それ?」 できる限りの対策はした。 熱による気絶を少しでも防ぐための護符。 聖女の力は危機的状況でこそ発揮される。 この“ぎりぎり”のバランスを保って、なるべく覚醒の確率を上げるのが今日の目標だ。(絶対、死なない) ノートの端に「午後=確定」と書き込み、線を引いた。 それでようやく、心の準備が整った。 ◇ 午後、訓練場の門が開く。 空気が熱を帯び、焦げた匂いが漂ってくる。 封印の檻の向こうで、赤い鱗がわずかに光った。 これが――火竜。 封印されて動けないけれど、その内側で燃え続ける魔力炉のような存在だという。(ローザ様の“圧”みたいなものね。 抑えているのに、どうしても漏れ出してしまう感じ) 訓練場全体が張りつめていた。 中央の大きな封印陣の中で、火竜が鎖に繋がれたまま低く息を吐く。 そのたびに結界面が揺れ、空気がかすかに焦げる。「封印下とはいえ、竜の魔力は圧倒的だ。 呼吸ひとつで“圧”が変わる。 その揺れの中で防御を維持できるか―― それを確かめるのが本日の訓練だ」 講師の声が響き、生徒たちは順に前へ進んだ。(……やっぱり……“火竜暴走イベント”だわ) 竜を抑えている魔法陣が崩れ、火竜が暴れだす―― “原因”はローザリア・フォン・クロイツ。 ゲームでは、”彼女が封印の魔法陣に細工をした”とイベントの後に明らかになる。 それは、彼女が断罪される際の罪の一つだ。 もちろん、現実の彼女がそんなことをするとは思っていない。 思ってはいないけれど――イベントは、起こる。 何かが起きるのなら、そばで確かめないと。 私は彼女の一歩うしろに立ち、慎重に呼吸を合わせた。 この訓練の理屈は単純だ。 火竜の“圧”に耐えられる者だけが、前へ進める。 私は薄く防御膜を張り、息を整えた。 前列の生徒たちは数歩進んだだけで膝をつき、次々と下がっていく。(ここからが本番ね) ローザ様が歩を進める。 波のように強まる圧に合わせて、膜の形をわずかに揺らして受け流すその動きは、まるで圧の向きが“見えている”かの
それから数日、私は時間を見つけては、光の結界を試すようになった。 朝の訓練棟の裏手は空気が澄んでいて好きだ。 まだ誰もいない時間。 今日も何とか感覚を掴もうと、一人練習にいそしんでいる。 ……とはいっても、全く何の手がかりもないから、結局は防御膜の訓練になってしまっているけれど。 わかっている。 たぶん、イベント以外で結界を作れるようになることは、ない。 それでも、何かしていないと落ち着かないのだ。 せめて気持ちだけでも整えようと、静かな空間で魔力をゆっくり巡らせていた—— ……はずだった。「またここか」 背後から声がして、思わず肩が跳ねる。 振り返らなくても分かる。少しだけ高めの声。「ライ……アルデン先輩」「聖女殿は朝から防御訓練か」「はい。……ちょっと感覚を確かめておきたくて」「お前、もう十分すぎるほどだろ。何を目指してんだ」 以前よりずいぶん砕けた口調。 その飾り気のない問いに、一瞬、言葉が詰まった。(な、何を目指してって…… 生存……?)「……いえ、まだまだ改善の余地があると思っているだけです」「真面目だな」 そう言いなが
訓練後、選抜の発表があった。 もちろん、私は選ばれていた。ローザ様も一緒に。(……まぁ、そうよね。嬉しいような、怖いような) 今回の訓練は、魔導理学科との合同演習。 いかなる外圧下でも防御膜を維持するための、実践的な応用訓練だ。 これが“あのイベント”につながるという確証はまだないけれど、 そのつもりで動かないと、命に関わる。 ゲームでは、火竜が暴走する中、私が必死に結界を張って耐えていると―― もう駄目だ、というそのときに、ライナーが現れて火竜を鎮圧するという流れだった。 彼はもしかしたら、演習の補助として駆り出されていたのかもしれない。 あるいは、騒ぎを聞きつけて駆けつけた、という展開も考えられる。(……いずれにせよ、今回は私が“死なない”ように動かなくちゃ) 私は図書館にこもり、火竜に関する記録をあさり始めた。(気性は荒く、怒りに任せて我を忘れ、主以外のすべてを焼き尽くす―― そんな恐ろしいもの、なんで授業に使うのよ)(え、ちょっと待って。熱風だけで屍の山って……!?)(自分より強いと認めた相手を“主”とする、か。 ……ゲーム内で火竜を鎮めたライナーは、まさか火竜に“主”と認められた?)(ともかく、問題は“気絶”よ。結界を張る前に意識を失ったら即アウト) 私は神殿で学ん
あのあと私たちは、露店を覗いて、クレープを半分こして、流行りのお菓子を買って……ときおり、まるで本物の姉妹みたいに手をつないで歩いた。それがなんだか嬉しくて、気付けばもう夕方。まずい、寮の門限!と焦った私に、ローザ様はさらりと微笑んで言った。「ふふ、今日は我が家に泊まるのよ。学園の寮には、もう連絡してあるわ」そうして、両手いっぱいの戦利品を抱えて公爵家に戻ったのだった。「そういえば、ローザ様とジュリアン殿下って、幼馴染なんですよね」ふわふわのネグリジェに身を包み、ローザ様の広いベッドに横になりながら、ふと思いついて尋ねてみる。「あら、殿下から聞いたの?」「はい。以前、ローザ様が呼びに来てくださったときに」「ふふ、そうね。年も近いし、“ご学友”ってところかしら。 気づいたときには、よく王城で一緒に遊んでいたわ。 ……まぁ、婚約者候補の素行を見極める狙いもあったんでしょうけど」「婚約者候補……」その言葉に、私はどきりとした。「その……ローザ様は、王太子妃になりたいと、思っていらっしゃるんですか?」我ながらおかしな質問だった。けれどローザ様は、長いまつげをゆっくり瞬かせて、小さく首を傾げる。「そうねぇ……そこに私と殿下の意志が関係あるのかどうかを考えたことはあるけれど……実際にどうしたいのかは、あまり考えてこなかったわね」「ローザ様……」「ふふ、あなたも同じでしょ、聖女様?」「いえ。私は神殿のイベントも、学園行きも、できる限りのことをして拒みましたよ。無駄でしたけど」「ええ!? 本当に? やだ、リリィってば、真面目かと思ったら、意外とじゃじゃ馬だったのね」「……その言い方。ローザ様も、意外と破天荒ですよね」「うふふっ。そう言ってもらえて嬉しいわ」「嬉しいんですか?」「ええ。両親以外に、初めて言われたもの」「……殿下には言われたこと、ないんですか?」「あ、あったかもしれないわね。小さい頃は、今より自由に接していたし」「……殿下の片思い、か……」「ん? どうしたの、リリィ?」(……殿下は、私になんて見向きもしなかった。 ここからどうしたら、私とローザ様が“恋のライバル”になるっていうのよ?)ゲームでは、まずすべての攻略対象との個別イベントをこなしたあと、全員が私に好意を抱いた状態で“全員合同イベント”が発生する。
柔らかい光が、まぶた越しに差し込んでいた。 光がまぶたの裏でゆらめき、意識がゆっくり浮かび上がる。 香りの記憶が先に戻ってくる――花と紅茶と、ほんの少しの魔力の気配。(……あれ? 神殿じゃ、ない?) 目を開けると、見覚えのない天蓋とレースのカーテン。 クロイツ公爵家の紋章入りのカップが、すぐそばのテーブルで湯気を立てていた。「やっと起きたのね、リリィ」 ソファに腰かけていたローザリア様が、ほっと息をつく。 いつもの制服ではなく、家用のゆったりした服。 淡い金糸の刺繍が光を受けてやわらかく輝き、 それだけで、ここが“学園の外”だと実感する。「……ローザ様、私……?」「神殿の司祭たち、慌ててたわよ。あなた、結界用護符を十五個も作ったんですって?」「……十六個目で気絶しました」「ふふ、そうでしょうね。見学に来ていた修道院の子供たち、聖女様の献身に感動していたわ」 ローザリア様は微笑んで、カップを持ち上げた。 紅茶の表面に光の粒が揺れ、室内に淡い金の反射を散らす。 ……どうやら、ゲーム通り、ちゃんと名誉ポイントが上がっているらしい。 嬉しいような、嬉しくないような。(そういえば……ローザ様ってあんなに魔法を扱えるのに、結界は張らないのかしら。 この間も防御膜を応用していたわ。結界用護符が高級品とは言え、公爵家ならいくらでも用意しそうだけど) 思い
朝の学園は、どこか落ち着かない空気に包まれていた。昨日の騒ぎのせいで、授業は午前中だけ。廊下のあちこちには修復班の上級生がいて、焦げた壁やひび割れた床に魔法をかけている。廊下を歩けば、どこからともなく噂話が耳に入ってくる。「聖女の光が暴走を鎮めた」とか、「クロイツ公爵令嬢が身を挺して守った」とか。(合ってる……合ってるんだけど、なんか違う……!)パンとスープだけの朝食を済ませ、中庭へ抜ける。外はすっかり晴れていて、昨日の熱気が嘘のようだった。でも、石畳の隙間に残る黒い焦げ跡だけが、あれが現実だったと教えてくれる。「おはようございます、ローザリア様」中庭の中央で、風の流れを操りながら落ち葉と煤をまとめている後ろ姿。珍しく後ろで編みこんでいるのは、髪の毛が焦げてしまったからだろう。それでも鮮やかな金髪は光を集めて、まるで何事もなかったみたいに美しい。焼け焦げていたはずの制服は、新品に取り換えられていた。……さすが、公爵令嬢。私はというと……うん。ちょっと黒ずんでるけど大丈夫。すぐにパトロンである王家から新しい制服が支給されるはずだ。「おはよう、リリエル。今日は授業が短縮されたの、ご存知?」「はい。先生方、徹夜で対応されてるみたいですね」「ええ。おかげで魔導学科の講義が二つ飛んだそうよ。 研究棟の修復は時間がかかるでしょうね」ローザリア様の声はいつも通り穏やかで、でも、指先の動きは昨日より少し早い。ガシャンガシャンと、魔力で浮かせた瓦礫を一か所に放り込んでいく様子は、どこか無言の苛立ちを含んでいるように見えた。(……怒ってるのかな。怒るよね、そりゃ)私は迷った末に口を開く。「クラヴァール先輩は……その、どうしてるんでしょう」「まだ眠ってるわ。命に別状はないそうだけれど、魔力の回復には時間がかかるでしょうね」「そう、ですか」風が止まり、沈黙が落ちる。ローザリア様は、きらりと光るガラスの破片を手に取る。「彼、目を覚ましたらきっとすぐに研究に戻るわよ」「……そんな気がします」「止めても聞かないでしょうね」(確かに……それに、落ち込んでいないか心配だわ)そう思うと、なんだか少しだけ心がざわついた。「お見舞い、行ってもいいでしょうか」「もちろん。行くならこれを持っていって」「ローザリア様は?」







