LOGIN大賢者セージは己の命と引換えに邪神を封印する。女性と話すのが苦手で、非モテ人生を歩んでいたセージが死の間際に願ったのは、美少女に生まれ変わること。自分が女の子なら、女の子と話すときも緊張しないだろうと思ったのだ。セージの最期の願いは謎の存在によって叶えられ、病弱な美少女に転生する。しかし、少女の本来の魂が生きていることに気づいたセージは、回復魔法で少女を救い、自身はヒツジのわたぐるみに魂を移すのだった。 ――これは、ヒツジさんボディに憑依したかつての大賢者が、美少女パーティを結成してわいわいきゃっきゃの冒険を目指す物語。
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「上手く、いったか……」
肺からせり上がった血を吐いて、その場に膝をつく。
幸い、術式は無事成ったようだ。薄れかける意識に、これまでの冒険と仲間たちの思い出がよぎる。
へっ、走馬灯ってやつか。本当にあるんだな……。勇者のヒロト。
笑うと白い歯がキラッと光る暑苦しいイケメンだった。暑苦しい正義漢で、事あるごとに正義がなんだと叫ぶ暑苦しい男だった。女にモテるのに、モテていることに気がつかない鈍感で暑苦しいやつだった。正直イラッとした。戦士のイエロー。
カレーが好きなやつだった。カレーを食べている姿しか思い出せない。つか、あいつカレー食べる以外に何かしてたっけ? だが女には「かわいい~」とか言われてモテていた。照れながらカレーを食べるあいつには正直イラッとした。錬金術師のミスト。
何を考えているのかよくわからないやつだった。何に使うのかよくわからないものをたくさん集めていた。一回、やつの部屋に勝手に入ったら、床いっぱいに見たことがない生き物の骨が転がっていて怖かった。それでも俺よりモテた。女なんかに興味がないぜって態度があからさまで正直イラッとした。……クソみたいな仲間ばっかりだったぜ。
だが、不思議とあいつらとの冒険は楽しかった。 死を目の前にした今でも、後悔はない……ない……ないよな? ないよね? どうなの自分?「って、あるわボケぇっ!」
俺は肺に残った最後の空気を吐き出した。
いったい何年だよ!? 野郎ばかりの4人パーティで旅をして! 暑苦しいんだよバーカ! もっとこうさあ、女の子だらけのパーティでわいわいきゃっきゃと旅をする展開とかなかったの!?いやねぇわ。
考えてみたら、俺って女の子とまともに話せないわ。 俺って非モテだもん。女の子と話すとキョドるもん。反射的に丁寧語になっちゃうもん。女の子だらけのパーティとか、たぶん緊張からのストレスで禿げ散らかして死ぬ。
セミみたいに1週間でこてっと死ぬ。 その未来が確実にわかる。 いや、もう未来とかないんだけど。せめてさ、自分が女の子だったらなとか思うよ。
女同士ならさ、こう、気安く友だち付き合いできそうじゃん。 それでさ、宿屋で同じ部屋に泊まってさ、「好きな人いるー?」とか恋バナしちゃうの。「えへへー、秘密ー」いたずらっぽく笑うのは魔法使いの魔女っ娘だ。
「もうー、不真面目ですよう」腰に手を当ててぷんすか怒るのは神官の神官っ娘だ。 「男にうつつを抜かすなどたるんでいる!」きりっと睨んでくるのは女騎士の騎士っ娘だ。こんなパーティでさ、楽しく旅をするのさ。
女子耐性がなさすぎて女の子の名前すらぱっと思い浮かばなかったのが残念だが、そういうさ、平和でほのぼのした冒険もしてみたかったなあ。我、願わくば美少女に生まれたかった。
もはや視力を失った瞳から、熱いものがあふれて頬を伝った。――その願い、叶えよう。
あれ、なんだ、なんか脳内ボイスが聞こえてきたんだけど?
――邪神を封じた汝の功績を称え、次なる生は望みのままにしてやろう。
えっ、ナニコレ? 神様転生的なやつ? 俺って無宗教だったんだけどさあ、かまわないのかな。いや、いまはそれどころじゃないな。できればそうですね。金髪で小柄な女の子がいいっす。おっぱいは大きすぎず小さすぎず、こう、コンプレックスを感じないくらいの大きさ? 目の色はねえ、グリーン系がいいかな。あっ、でもどうだろう。青っぽいのもいいよね。
脳内ボイスに膨大なリクエストをしているうちに、俺の意識は闇に呑まれた。
建国王により公爵位を授けられ、王国西方の安寧を任された偉大なる黒竜シュバルツ・ドラゴクロウ。その爪は山をも削り、その牙はミスリルさえも噛み砕く。一度ブレスを吹けば、地平線まで焼け野原となる――という千年前の伝説の存在だ。 何百年も人里に姿を現した記録がなく、歴史学者の中でさえ架空の存在だと断ずるものさえいた。そんな黒竜公の娘だという人物(?)が王都に現れた。 その名をシロ・ドラゴクロウ。銀糸の如き髪を持ち、肌は最高級の白磁を思わせる華奢な少女だ。だが、見た目に騙されてはいけない。自身よりも長大な戦棍を自在に振るう怪力は、その身に竜の力を宿していることの証である。 ……あと、面倒くさいことが起きると本当に竜になって飛び去ってしまう。王都の上空を白銀の竜が舞ったときにはそれはもう大騒動となった。 そのシロは冒険者として活動している。《大賢者》にして《凶獣》セージが率い、《金色幼女》メリスと《銀竜嬢》シロの三人で構成される冒険者パーティ《落ち着きがない》はいまや冒険者たちの畏怖を集める存在であった。 今回は、そのシロの休日を紹介しよう。【午前11:00】 宿屋で目覚める。 アキバ遺跡の探索成功にはじまり、数々の高難度クエストを達成した金級冒険者であるシロはお金持ちである。朝からあくせく働くつもりなどない。日が高くなり、空気がぬるんでからベッドを抜け出すのが習慣である。 髪を適当に手ぐしで整える。 乱暴な手入れだが、それだけで腰まで伸びた長髪がまっすぐに伸びる。宿からもらったお湯でざぶざぶと顔を洗うと、柳の房楊枝で歯を磨く。毎日の風呂は欠かさないが、朝の支度はじつに手抜きである。 寝間着を脱いで、着替えに袖を通す。 やたらに白いフリルやレースのついた黒い衣装だ。アキバ探索以前はメイド服がお気に入りだったが、メイドゴーレムが着ているのを見て何やら思うところがあったらしい。いまはアキバから流入してきた新しいファッションである『ゴシックロリータ』を愛用している。【午前11:30】 宿屋の1階にある食堂で軽く腹を満たす。 正午を回ると混み合うので、それより早い時間を狙っている。 今日のメニューはベーコンエッグとウインナー、ツナサラダという簡単なものだ。平皿に盛り付けた白いご飯に、それらを慎重に並べる。おっ
「ええー、というわけで本日は墓参り兼、青空バーベキュー大会となります」 ドンドンパフパフーと俺はオプション装備したラッパやらタンバリンやらを打ち鳴らした。「おい、ちょっと待て。そんな話は聞いてないぞ」「うん、言ってないからな」 丸メガネをくいっと中指で持ち上げ、眉間にシワを寄せているのはミストである。「さすがにお墓でバーベキューっていうのは不謹慎なんじゃないかなあ」「墓で眠ってる当人たちが納得してりゃ問題ないだろ」「うーん、そう言われたら、別にボクも反対ってわけじゃないんだけど」 黄色いアホ毛を風に揺らし、首を傾げているのはツカサである。「バーベキューだなッ! オレの正義の炎で燃やし尽くしてやるぜッ!」「炭への着火だけ頼むわ」 事情もわからず拳を握り締めているのはヒロトである。 こいつに料理をさせると文字通りすべてが灰燼と化すから絶対に任せられない。百年前の旅でも、ヒロトだけは絶対に料理当番をさせなかった。「ヒツジ先生ー、シロちゃん連れてきたー」「……バーベキュー、はじめて」 メリスちゃんが金色のゆるふわヘアーに風をはらませて駆けてくる。手を引かれてやってくるのは銀色のさらさらヘアーを風にたなびかせるシロちゃんだ。うふふ、絵になるね。映魔機を回しっぱなしにしていた甲斐があるというものだ。「おい、ヒツジ野郎。あーしらも来てやったぞ」「姐御ぉ、こんなやつに義理立てする必要あるんすかね?」 ピュイが率いるハーピーチーム、魔土怒羅権も舞い降りてくる。 きっかけはメリスちゃんが気まぐれにエサをあげたことだったのに、気がつけば結構長い付き合いになっていた。ミストの地上帆船が量産に入ったこともあり、王国は魔物として認定していたハーピーたちを国民として組み入れようと働きかけているところらしい。 ピュイはその端緒となったハーピーとして、王国に属したハーピーの代表ポジションに収まっているようだ。本人曰く「このまま全国制覇してやるぜ!」ということだが、ちょっと意味がわからない。「墓場でバーベキューとはのう。相変わらず常識のないやつじゃ」「おっ、降ろしてくださいにゃ! 吾輩は高いところが苦手なんですにゃ!」「む、そういえばはじめて拉致……共に旅をしたクロネコ族もそんなことを言っておったのう」「拉致!? いま拉致って言った
「着いたぜ。じゃあな、ヒツジ野郎」「ちょっ、投げるなよっ!?」 俺は青空から乱暴に放り捨てられた。 いやあ、落下ダメージ無視な身体だけどさあ。さすがに扱いが雑すぎませんかね? 俺はむいっと力を込め、全身をぼふっと膨らませる。 風をはらんでタンポポの綿毛のごとく宙を漂うと、ミストの研究室の窓ガラスにべたっと張り付いた。「よう、ミスト。開けてくれー」「お前はいい加減ドアから来ることをおぼえろ」 ミストが黒髪をかきながら、呆れた様子で窓を開ける。 俺はきゅっと身体を縮めて、ミストの研究室へ転がり込んだ。「相変わらず元気そうじゃのう」「師匠こそ変わってねえなあ。たまにはカラーリングでも変えてみたらどうだ?」「お主の目は節穴か? ほれ、脚部パーツの装甲の素材を一新したのじゃ」「さ、さっぱりわかんねえ……」 謎の薬剤と謎の骨格標本でいっぱいだったミストの研究室には、半機械の等身大人形――またの名を師匠という――が増えていた。アキバ遺跡から回収できた技術を研究するために、引きこもりをやめて王都に出てきたのだ。 円環の内側の創立メンバーのひとりであり、伝説の《黒鉄の魔女》であるという名声を活かして学院の名誉教授にすんなり収まっている。隠者気取りのくせになかなか生き汚いところがあるのが我が師匠だ。「それで、今日は何の用だ?」 俺はどんぐりの蹄でとてとてと歩き、ソファに座って要件を尋ねる。 どうせ魔力操作関連だろうとは思うのだが、呼び出されるたびに突飛な実験に付き合わされるので具体的な内容は予想もつかない。「うむ、その前に確認したいのだが……セージ、お前は人間の体に戻りたいか?」「人間の体に?」 ミストから問われ、俺は思わず考え込んでしまった。 ヒツジさんボディで過ごすこと2年弱。あまりにも馴染んでしまってもはや人間の体だった頃の感覚が思い出せない。メシも食えるし、伸縮自在だし、怪我もしないし……。アキバ遺跡から回収した魔石で寿命の問題も解決したし、ぶっちゃけこの身体のままの方が便利なんじゃないかと思うところもある。「うーん、ぶっちゃけわからん。もはや人間だった頃が思い出せん」「結婚したいとか、こ、子を成したいなどとは思わないのか?」 なぜかミストが頬を赤らめながら聞いてくる。 その様子になぜか俺までドギマギし
およそ1年後。王都の壁外にて。「カカカカッ! この《大魔王》セージ様に楯突こうというのか!」「《凶獣》セージが現れたなっ! みんなっ、かかれー!」「「「わぁー!」」」「うぎゃー!」 俺は手に手に棒を持った貧民窟のガキどもに追われていた。 ヒツジさんボディはいくらぶん殴っても怪我しないもんだから全員遠慮なしだ。まったく、ガキってのは加減しないから困る。まっ、俺は1発も喰らわないけどな。「ヒツジ先生ー、ごはんできたよー」「おっ、メリスちゃんありがとう。おらっ、ガキども! 冒険者ごっこは終わりだ。メシ食いに行くぞ!」「「「わーい!」」」 メリスちゃんが作った羊肉のスープに、欠食児童どもが群がる。 え、えと、メリスちゃん? ここで羊肉を使ってることに他意はないよね……?「さあ、みんないっぱい食べるっす! いっぱい食べて、立派な悪の組織の戦闘員になるっすよ!」「くっくっくっ、孤児を幼少からみっちり育て上げてジャークダーの精鋭戦闘員に育て上げる。それがしが言うのもなんであるが、完璧な計画でござるよ」 木皿にスープをすくい、配膳しているのはマサヨシ君とサムライお姉さんの夫婦だ。 アキバとチョーダ王国の交易路が確立したら、アキバの守りを六鬼将のポンコツどもに任せて王都に引っ越してきた。名目は貧民窟のガキどもをジャークダーの引き込むことだが……どっからどう見てもボランティアのお兄さん、お姉さんである。 なお、戦闘員スーツを脱いだマサヨシ君は細マッチョの精悍な男であった。ろくに手入れもしていなそうな赤茶けたボサボサヘアーがワイルドな魅力を放つイケメンである。くそっ、爆発しねえかな。 1年前、俺たちがあの蛇野郎を撃破した後からが忙しかった。 亜空間とやらから2万人もの異世界人を助け出し、生活の基盤を整える手伝いをしなければならなかったのである。あのYADOBASHIビルには大量の物資が残されていたが、2万人で消費するとなると心もとない。あっちこっちに畑やら工場やらを作らせて、チョーダとの交易で経済が成り立つように整えなければならなかったのだ。「おい、ヒツジ野郎。ミストの姐さんが呼んでっぞ」「ハッ! 俺がハーピー如きに捕まえられると思ったか!」「ったく相変わらずめんどくせえな……。メリスの嬢ちゃん、頼むよ」「わかったー





