転生聖女の幸福譚~悪役令嬢を救うため、断罪劇で恋人宣言してしまいました~

転生聖女の幸福譚~悪役令嬢を救うため、断罪劇で恋人宣言してしまいました~

last updateHuling Na-update : 2026-10-23
By:  白野ましろIn-update ngayon lang
Language: Japanese
goodnovel4goodnovel
Hindi Sapat ang Ratings
34Mga Kabanata
208views
Basahin
Idagdag sa library

Share:  

Iulat
Buod
katalogo
I-scan ang code para mabasa sa App

「私たち……お付き合いしているのですわ!」 よくある断罪劇の一幕で、聖女リリエルが放ったまさかのお付き合い宣言。それは、悪役令嬢ローザリアを断罪させないための、咄嗟の言い訳で―― 転生聖女リリエルは知っていた。 この世界は乙女ゲームで、抗えない“強制力”に支配されていることを。 けれど諦め気味のリリエルが学園で出会った悪役令嬢ローザリアは、ゲームとはどこか違っていて。 これは、この爆弾宣言に至るまでの舞台裏。 リリエルは自分の“現実”を一つずつ選んでいく。

view more

Kabanata 1

これはよくある断罪劇の一幕――の、はずだった

 これはよくある断罪劇の一幕──の、はずだった。

 煌めくシャンデリアの光が降り注ぐ大広間。

 その中心には、王太子と貴族の子弟たち。

 正義と信仰を掲げる若者たちが並び立ち、場はまるで神聖な裁きを思わせた。

 前に立たされたのは、公爵令嬢ローザリア・フォン・クロイツ。

 金の髪が波打ち、紅玉の瞳が静かに光を返す。

 こんな場面に立たされているというのに、怯えも動揺もなく、そこにあるのは、ただ、威厳と美。

「ローザリア・フォン・クロイツ!

 お前の罪は明白だ!」

 王太子の声が大広間に響き渡った。

 張りつめた空気のなか、ざわめきが広がる。

「聖女リリエルを妬み、数々の嫌がらせを仕組んでいた。

 ──違うとは言わせない!」

 王太子の断言に、視線が一斉に移る。

 そこに立つのは、淡い金髪に光を宿し、エメラルドの瞳を凛と輝かせた少女。

 可憐な花のように立つ彼女の肩が、かすかに震えた。

「可憐なリリエル……可哀想に、こんなに震えて」

 王太子が彼女の肩を抱き寄せる。

 それを側近の魔術師と騎士が取り囲み、向かい合うように立つローザリア。

 光と影が対峙するような、その光景はあまりに完璧な構図だった。

 舞台の上ではそれぞれが役割を果たし、観衆は息を詰めて“結末”を待つ。

 それは、望まれた予定調和。

 だが──

 その夜、観衆の誰もが想像しなかったセリフが響くことになる。

 ◇

(もう!ローザ様はどうして何も言わないのよ!)

 私――聖女リリエルは、頭の中で必死に叫んでいた。

 背中にはじっとりと嫌な汗が伝っている。

「嫉妬に駆られて聖女を陥れ──盗賊事件でも、魔力暴走でも、必ずお前が現れた!」

「本来ならば、安全なところで守られるべき聖女を──お前は自ら危険に追いやり、都合よく救うことで信頼を得たのだ!」

「そうだ、聖女を狙って事件を仕組んでいたとしか思えぬ!」

 王太子たちは、いかにも重大そうに罪状を並べ立てている。 

 ――こんなの、証拠というにはお粗末すぎるのに、どうしてだれもつっこまないの。

 視線をやると、当のローザリアは完璧な微笑みを浮かべていた。

「さすが公爵令嬢」「動じないわ」なんて囁かれているけれど──

 あの表情を私は知っている。

 余裕なようでいて――ただボーっとしているだけの、あの顔。たぶん何も考えていないか、今日のデザートのことでも考えているのだろう。

(ねぇ、ほんとしっかりしてよ! 自分のことだってわかってる?

 なにこれ、やっぱり私がどうにかするしかない感じ?やっぱりそうよね!? 

 でもどうする?強制力を全部ぶち壊す何かいい案は………)

 私の脳裏に、これまでの光景がよぎる。

 ──あのときも、助けてくれたのはローザリアだった。

 盗賊にさらわれた夜。

 恐怖で膝が震え、声も出せなかった私の前に、彼女は躊躇なく現れた。

 月明かりを浴びた金の髪が揺れ、赤い瞳は宝石のように輝いていた。

 彼女の放った魔法は、盗賊たちを一瞬で薙ぎ払って――

「リリィ、遅れてごめんなさい」

 そういって、半泣きで私を抱きしめた彼女。

 魔力暴走に巻き込まれた時だって……

 自分の制服の裾が燃えているのになんでもない顔をして、私の前に立ち続けてくれた。

 強制力には抗えないからと諦めていた私を守ってくれたのは、いつも彼女。

(だめ、このまま断罪なんて──!)

 もしこのまま断罪されれば、ローザリアは修道院送りだ。

 そう、"決まっている"。

 彼女が洗濯や料理なんてできると思う?無理に決まっている。まだ辺境の地へ追放なら、クマくらい軽く倒して、逆に大活躍だろうけど……って、いやいや。

(そういう問題じゃないのよ!)

 広間にいる誰もが、私を心配そうな瞳で見つめている。

 それに、さっきの王太子のセリフ。

 ……笑わせないで。

 私が震えていたのは、恐怖とか、心配とか、そんなんじゃない。

 怒りと、どうにかしなくてはという焦り。

 私の中で、答えはひとつしかなかった。

 強制力なんて、知らない。

 私が、ぶち壊してやる。

 ――私は深く息を吸い込んだ。

 心臓はうるさいほど打ち鳴らしている。

(やるのよリリエル。ローザ様を守れるのは、私しかいないのよ!)

 喉の奥から突き上げてくるものを、そのまま声に変える。

「──お待ちくださいませ!」

 大広間の空気が張り詰め、一瞬にして静寂に包まれた。

(声震えなかった。奇跡!!)

 場内の視線が一斉に突き刺さる。

 背筋に冷たいものが走るけど、もう退くつもりはない。

「そのような事実は一切ございません!」

 観衆の間に、静かな波紋が広がっていく。

 張り詰めた空気を切り裂くように息を吸い込む。

「なぜなら――」

 誰もが息を呑み、次の言葉を待っていた。

「わたくしたち……お付き合いしているからですわ!」

 ――爆音のようなざわめきが広間を揺らした。

「お付き合い……!?」

「まさか聖女様が……!」 

「ローザリア様と……!?」

 観衆のざわめきは波のように押し寄せ、誰もが信じられないという顔をしている。

 聖女リリエルは堂々と胸を張っていた。

 ……ように、見えていたと思う。

(……言っちゃった――!!!)

 心臓が跳ね上がり、背中にじっとりと汗が伝う。

 もう引き返せない。

 顔だけは冷静を装って、私は胸を張り続けた。

「わたくしは、何度もお伝えしたはずですわ。

 その“証拠”とやら──

 もう一度、きちんと検証なさってくださいませ。

 それが意図的に作られたものではないと、

 胸を張っておっしゃれるのならば、ですけれど」 

「こ、恋人……!?」

「嘘だろ……聖女様とローザリア様が?」

「やっぱり!あの二人、いつも一緒にいたもの!」

「でも、王太子殿下は……」

 憧れの眼差しと困惑の声が交錯し、場は混乱の渦に巻き込まれる。

 そりゃそうよ、私だって混乱してる。

「り、リリエル、一体どうしたのだ」

 王太子が血相を変える。後ろに控えている二人が顔を見合わせたのがわかった。

「ふ、ふざけるな! ローザリアが仕組んだに違いない!」

 騎士が声を荒げ、隣の魔術師は淡々と睨みつける。

「自らの罪を覆い隠すために、聖女を巻き込むとは……」

(そう。あくまでこの茶番を続けるというのね)

 緊張していた心が、逆に冷たくなっていく。

 当のローザリアは──赤い瞳を大きく見開き、言葉を失っていた。

「リ、リリィ……!? ちょ、ちょっと待って……っ

 それ、どういう……っ」

 しどろもどろになり、耳まで真っ赤に染まっていく。

 赤い瞳は泳ぎ、唇はかすかに震えて――なんだか、ちょっと可愛い。

(なんで照れてるのかわからないけどナイスよ!そのまま余計なことは言わないで!!)

 観衆は一斉に息を呑み、やがてため息混じりの声を漏らした。

「ご覧なさい、ローザリア様が……照れておられる!」

「いつも余裕を崩さないお方が……! なんて初々しい……」

「尊い……!」

「並ぶと絵のような完璧さ……」

 ……うん。

 自分が言ったことだけど、なんかこれ、大丈夫かな。

 でもおかげで優勢なのはこちらのようだ。

「……こんな茶番、うんざりですわ。ローザ様、行きますわよ」

 修道院、という言葉はまだ発せられていない。

 ここは混乱に乗じて逃げてしまおう。

 私は強気に言い放ち、ローザリアの腕を取る。

 観衆は割れるように道を開けた。

 その視線はもはや、まるで祝福を送るかのようだ。

「ど、どうしたんだい……リリエル……!」

 混乱した様子の王太子が声をかけてくる。

 見た目も魔力も兼ね備えた、完璧と名高い王子様。

 でも私から見たら――そ・う・い・う・役・割・な・だ・け・の、つまらない男。

「わたくしはどうもしませんわ。……昔から、こういう性格でしてよ」

(そうよ。何をしても、何を話しても、勝手に自分の理想通りに見ようとしていたのはあなたたち)

 それが、ゲームの強制力だったのだろうけれど。

(もしかして、断罪が崩れたせいで、それも弱くなってきているのかしら)

 そのままローザリアの腕をとって、颯爽と会場を後にする。

 ……堂々と、見えていたならいいのだけれど。

 会場を後にすると、なんだかとんでもないことをしてしまった気がしてきた。

 隣のローザリアはまだ耳まで真っ赤にして、完全に固まっている。

(……うん。

  まずは、こっちの誤解を解くところからか)

  ふぅ、と何度ついたかわからないため息をつく。

(きっと殿下が今の私の表情を見たら、ローザ様が私を困らせている、と言うんでしょうね)

 それでも。

 私は、初めて「自分が変えた」という達成感に、胸が高鳴るのを感じていた。

Palawakin
Susunod na Kabanata
I-download

Pinakabagong kabanata

Higit pang Kabanata
Walang Komento
34 Kabanata
これはよくある断罪劇の一幕――の、はずだった
 これはよくある断罪劇の一幕──の、はずだった。 煌めくシャンデリアの光が降り注ぐ大広間。 その中心には、王太子と貴族の子弟たち。 正義と信仰を掲げる若者たちが並び立ち、場はまるで神聖な裁きを思わせた。 前に立たされたのは、公爵令嬢ローザリア・フォン・クロイツ。 金の髪が波打ち、紅玉の瞳が静かに光を返す。  こんな場面に立たされているというのに、怯えも動揺もなく、そこにあるのは、ただ、威厳と美。「ローザリア・フォン・クロイツ! お前の罪は明白だ!」 王太子の声が大広間に響き渡った。 張りつめた空気のなか、ざわめきが広がる。「聖女リリエルを妬み、数々の嫌がらせを仕組んでいた。 ──違うとは言わせない!」 王太子の断言に、視線が一斉に移る。 そこに立つのは、淡い金髪に光を宿し、エメラルドの瞳を凛と輝かせた少女。 可憐な花のように立つ彼女の肩が、かすかに震えた。「可憐なリリエル……可哀想に、こんなに震えて」 王太子が彼女の肩を抱き寄せる。 それを側近の魔術師と騎士が取り囲み、向かい合うように立つローザリア。 光と影が対峙するような、その光景はあまりに完璧な構図だった。 舞台の上ではそれぞれが役割を果たし、観衆は息を詰めて“結末”を待つ。 それは、望まれた予定調和。 だが── その夜、観衆の誰もが想像しなかったセリフが響くことになる。 ◇(もう!ローザ様はどうして何も言わないのよ!) 私――聖女リリエルは、頭の中で必死に叫んでいた。 背中にはじっとりと嫌な汗が伝っている。「嫉妬に駆られて聖女を陥れ──盗賊事件でも、魔力暴走でも、必ずお前が現れた!」「本来ならば、安全なところで守られるべき聖女を──お前は自ら危険に追いやり、都合よく救うことで信頼を得たのだ!」「そうだ、聖女を狙って事件を仕組んでいたとしか思えぬ!」 王太子たちは、いかにも重大そうに罪状を並べ立てている。  ――こんなの、証拠というにはお粗末すぎるのに、どうしてだれもつっこまないの。 視線をやると、当のローザリアは完璧な微笑みを浮かべていた。「さすが公爵令嬢」「動じないわ」なんて囁かれているけれど── あの表情を私は知っている。 余裕なようでいて――ただボーっとしているだけの、あの顔。たぶん何も考えていないか、今日のデザートのことでも考
last updateHuling Na-update : 2026-09-07
Magbasa pa
始まりの日
 胸の奥に燃える高揚感を抱えながら、私は思い返す。 どうしてこんな茶番めいた断罪に至ったのか── その始まりの日を。 ◇ 私は、生まれたときからずっと違和感を抱えていた。 ──前世の記憶があったから。 もちろん、最初から「ここはゲームだ」と思っていたわけじゃない。 けれど物心ついたころから、世界がどこか作り物めいていると感じていた。 口答えをすれば「まあ、なんて聡明でいらっしゃる」(ただの屁理屈でしょ!) 庭で泥だらけになれば「冒険心もおありなのね」(違う!ただのイタズラ!) わざと悪いことをしてみても同じ。 お菓子をつまみ食いして知らん顔をしたり、わざとお行儀を崩してみたり。 それでも返ってくるのは「お茶目でかわいらしい」「自由な発想ね」と笑顔ばかり。 明らかに特別扱いされているのに、妬まれるどころか、同世代の子供たちすら私に好意的だった。 一応男爵令嬢とはいえ、庶民同然に暮らしていた私に、そこまで気を使う理由なんてない。 ……世界が私にだけ、都合のいいフィルターをかけているみたいだった。 その違和感が確信に変わったのは、七歳のとき。 庭園の奥にある湖畔で、私はすべって水の中へ落ちてしまったのだ。 冷たい衝撃が体を包み、視界は一気に暗く沈んでいく。 必死に手足を動かしても、服は重く絡みつき、光がどんどん遠ざかる。 ──あ、ここで死んじゃうんだ。そう思った瞬間、胸の奥がぱっと熱くはじけた。 まぶしい光が水中いっぱいに広がり、泡のように舞い上がる。 湖の底から天へと突き抜けるような光柱となり、私の体はふわりと押し上げられて―― 次に気づいたとき、私は岸辺に横たえられていた。 駆け寄った大人たちが、あおざめた顔で私を囲んでいる。「い、今の光は……」「まさか……聖女の奇跡……!」 震える声が頭上から降りそそぐのを聞きながら、私ははっとした。 ──そうだ。前世で夢中になっていたあのゲーム。 幼少期に命の危機で力が目覚める、あのプロローグのイベント。(……ここは、ゲームの世界……!) 鏡をのぞいて、私は愕然とした。 昨日までの平凡な茶色の髪が、光をまとったような淡い金髪に変わっていたのだ。(見た目が違ったから……気づくのが遅れたんだわ) もっと早くに気づいていれば……なんてそのときは思ったけれど。 結
last updateHuling Na-update : 2026-09-07
Magbasa pa
想定外の、想定通り
 学園生活には、大小さまざまな“イベント”が存在する。 攻略対象との恋愛イベントはもちろん、「聖女は守られるべき存在だ」と印象づけるだけの演出のような出来事まで。(これの何が嫌かって、私、毎回気絶するのよね) よくある「か弱いヒロインの目眩」なんて可愛らしいものなんかじゃない。  呼吸ができなくなるほど苦しんだ末の、本気の気絶。  ……なんなの、その恐怖と理不尽の象徴みたいなイベントは。  ローザリア様との出会いが鮮烈だったから、実は少し期待をしていた。  今まで「強制力に逆らえない」と思っていたこと気のせいだったのではないか、と。(避けるべき対象が明確なら、もしかしたら変えられるのかもしれない) ……なんていうちょっとした希望を持った私は、この最初の中庭イベントを避けるべく行動していた。 ちなみにローザリア様との出会いは、”イベント”じゃなくて"シナリオ"だから、これが正真正銘、初めてのイベントなのである。  ――この最初のイベントが起こるのは、入学直後、放課後の中庭。  興味本位の上級生に囲まれて、魔道具で遊ばれるのだ。 耐えきれずに失神してしまう私は、失神後、回復のために淡い光を放つ。  そこで生徒達に「本当の聖女だ」という印象をつけるというわけ。 このイベントの何が恐ろしいかって――  選択肢が「耐える」か「反撃する」しかないというところだ。「反撃する」を選ぶと、私は魔力の暴走を起こして、上級生をズタボロにしてしまう。そして退学処分となってしまい、ゲームオーバー。  学園になんか来たくなかったんだから、ゲームオーバーでもいいって思うでしょう?  それが、退学処分ってものすごく、ものすごーく不名誉なことだから、私の人生も実家も、ジ・エンドなのよね。  つまり、私はこのイベントは”耐える”しかない。  魔道具で魔力暴走を起こされかけてるのに失神するまで耐えるなんて、一体なんの拷問なんだろ
last updateHuling Na-update : 2026-09-09
Magbasa pa
結局、予定通りに予定は進む
 気がついたとき、私は保健室のベッドの上にいた。「あら、気が付いた?」 ローザリア様の優しい声が降ってくる。「ローザリア様……?私……あれからどれくらい……」「そんなに長くないわよ?午後の授業が二つ終わって、丁度みんな帰るころかしら」 クロイツ令嬢ではなくうっかり名前で呼んでしまったのに、ローザリア様はまったく意に介した様子はない。 白い天井と薬草の匂い。隣の机には、あのストレステスターの残骸がある。 金属は歪み、宝石のような心核は粉々に砕けていた。 青く光っていたはずの部分は、今はただ灰色の欠片になっている。「……これ、壊れたんですか」「ええ。少し古かったのかもしれないわ」 ローザリア様の口調は、まるで天気の話でもするみたいに軽やかで。 あの時、私の体を蝕んでいた魔力を強引に止めたのは間違いなく彼女なのに、まるで他人事みたいだ。「ローザリア様は……どうして平気だったんですか? あの出力だったら……私じゃなくても、大変だったはず……」「私はちょっとだけ、ほかの人よりも魔力の耐性が高いの。あなたの”光”は純粋過ぎて、過剰にストレステスターの魔力に反応するでしょう?私は、逆。むしろ、機械の方が先に悲鳴を上げるくらい」「えっ、それって……」「昔ね、いたずら半分で、テスターから流れてくる魔力を押し返して、私の魔力を逆流させたことがあるの。そしたら爆発しちゃって。すごく叱られたわ。あれって結構高いのよね」「怒られたの、そこですか!?」「他にどこかあるかしら?」 ローザリア様は小さく肩をすくめて笑う。その仕草すら完璧で、言っていることはぶっ飛んでいるのに、まるで劇中の女王のようだった。 私は息を呑む。彼女の放つ気配は、ただ優雅というだ
last updateHuling Na-update : 2026-09-10
Magbasa pa
静かな日常と消えない灯り
 あの事件から数週間がたち、私は“日常”を送っていた。 学園を騒がせた伝説はとうに落ち着き、生徒たちも次の噂話に夢中になっている。(悪役令嬢と聖女の伝説なんて、強制力の概念どうなってるのよって思ってたけど……。結局、ただの一時期の噂だったわね) けれど――私の中ではまだ、あの光が消えきっていなかった。 予定調和の中の、ほんの少しの、輝き。 それでも世界は平然と回っていて、私も漏れず、その流れの中に戻っていった。 授業に礼拝。  そして……クラヴァール先輩。 そう。  あの、王太子の側近候補で、公爵家の跡取りで、魔法の天才――  攻略対象の、ノエイン・ド・クラヴァール。 やっぱりというかなんというか、事件以来、顔を合わせることが増えている。 最初は保健室での謝罪。  次は、私が復帰した日に、わざわざ安否を確認しに来てくれた。 そこからは偶然が続いて、至る所で遭遇する。  最初は毎回ナーバスになっていたけど――慣れって怖い。  今では、廊下ですれ違えば軽く挨拶するくらいの距離感になっていた。 やけに丁寧だった言葉遣いも、いつのまにか正しく上級生と下級生のものになっていて。(ちゃんとシナリオ通りなのよね) ゲームなら「えっ……今、言葉遣い……!」ってテロップが出て、好感度パラメーターがピコンと上がる。 好感度が上がるってことは、イベントが始まるってことだから―― 正直嬉しくはないんだけど。 でも現実では、気づいたときにはもう変わっていて、その自然さは、なんだかちょこっと感動的だった。  ――そんなある日の放課後。 講義のあと、私は気分を落ち着けようと中庭を歩いていた。  あんな事件があった場所なのに、中庭は嫌なイメージどころか、今や私のお気に入りだ。 春の風が薬草の香りを運び、沈みかけた陽が石畳を照らす。  すべてが穏やかで、あの騒ぎが幻だったかのようだ。(あ……まただわ) ふいに中庭の灯りが揺らめいたことに気づく。  昼間の太陽の下、ほんのわずかな揺らぎ。  最初は偶然だと思ったけれど……時々起こるのだ。 あの事件以来、魔力の流れに少し敏感になった気がする。  光の粒が空気に混ざるような、そんな微かな変化でも、今ははっきり分かる。 目の端に、灯りよりも鮮やかな金の光が揺らめいたように見えて、ふいにそちらに
last updateHuling Na-update : 2026-09-11
Magbasa pa
静かな日常と消えない灯り②
(き、き、き、緊張した……!!!) あのあとクラヴァール先輩と一緒にジュリアン殿下のもとへ行った私は、それはもう、魂ごとすり減っていた。 ジュリアン・アステリア第一王子。 お気づきかもしれないけれど、攻略対象のひとりである。 正直……殿下とのイベントはしばらく後だから、遭遇することもないだろうなんて思っていたのよね。 どうやら、たまたま下級生の棟に来たからと、私に挨拶をしに教室まで寄ってくれたらしい。「下々の暮らしぶりはどうか」とか、「聖女の力に目覚めた経緯」とか、そんな他愛もない話をした。「聖女、リリエル・フォーン。ともに良い国を作ろうではないか」 なんて言われてしまって、泡を吹くかと思ったわ。「聖女」と「次期国王」としての言葉だとはわかってはいるけれど、ゲームを知っている私からすると、壮大なフラグに思えてしまう。 とは言え、ゲーム的には当然ながら好感度が上がる前の口調。 うん。良かった。王子とのイベントは、まだまだ先だ。 それにローザリア様との仲も悪くないようだった。 ローザリア様とジュリアン殿下は幼馴染であること、 ローザリア様は昔から優秀だったから随分刺激を受けたこと、 私と一緒に楽しそうにしているところを目撃したことがあることなど―― 親しげに語る王子からは、ゲームの断罪イベントの想像ができない。 ゲームでは―― ローザリア様は、私に嫌がらせを、する。 でもそれは、私に王子を奪われそうになったからで―― ……ん? そこまで考えて、ふと疑問がよぎる。 ローザリア様は、ジュリアン殿下が、好き、なのかしら? 嫌がらせの原因だって、聖女の存在そのものが気に入らなかった可能性もある。(そのあたり、ほとんど描写はなかったわね。 そりゃそうか。”悪役令嬢として消費される存在”っ
last updateHuling Na-update : 2026-09-12
Magbasa pa
攻略対象者1 クラヴァ―ル先輩の暴走
あの日以来、クラヴァ―ル先輩の姿をほとんど見かけなくなった。 授業の合間や廊下でも、前みたいに偶然出くわすことがない。ここ数日、何かに囚われたように研究を続けているらしい――そんな噂を耳にした。 たまに出くわしても、「すまない、あとで」とだけ言って去ってしまう。(会う頻度が減るのは、私にとってはいいことのはずよ)そう思いながらも、胸の奥に小さなざわめきが残っていた。 結局私は、また研究棟へ向かっていた。「先輩、差し入れを……甘いものです」扉の奥で椅子が引かれる音。 少しして顔を上げた彼の頬は、やつれて見えた。「フォーン嬢か……? すまない、今は少し――」「これ、ローザリア様に頂いたんです。  よかったら、少しは休憩してください」その名を口にした瞬間、空気がわずかに張りつめた。 ペンが机の上を転がり、静かな音が響く。「……そうか。クロイツ令嬢が」低い声。その奥に、わずかな苛立ちが滲む。「先輩は、学業も魔法も完璧だと評判です。  それ以上、何を求めていらっしゃるんですか」思わず余計なことを言ってしまう。 でもーー嫌な予感がしてならない。複雑だ。 イベントが起きてほしくないのも、先輩が心配なのも、本当。(分かってる。私が何を言っても、きっと変わらない)「……完璧、か」 小さく笑った唇が、寂しげに歪む。その笑みが妙に胸に残った。 翌日の午後。 魔術理論の実技授業。 教室は、炉の熱でいつもよりずっと暑かった。「……今日、やけに暑くない?」 隣でローザリア様が小声で言う。「昨日の試験の余熱だろうな」 後ろからクラヴァ―ル先輩の声がした。(よかった、少し顔色が戻ってる……)「まったく、これでは集中できませんわね」 「クロイツ令嬢、今は実験中です。冷却魔法は――」 「ふふ、大丈夫、魔力の流れは乱しませんわ」その瞬間、空気がひと呼吸止まり――すうっと冷えた。(……いまの、なに?)外から声が上がる。 『あっつ!? 噴水が温水になってる!? なんで!?』窓の外では、春の光を受けた噴水が湯気を立てていた。 ローザリア様は扇で口元を隠し、くすりと笑う。「……いまのは闇か? 熱を吸収して……安全なところで放出した……? 可能だ。だが……闇単体をここまで制御できるものなのか……?」低い声。「……ローザリ
last updateHuling Na-update : 2026-09-14
Magbasa pa
攻略対象者1 クラヴァ―ル先輩の暴走②
闇が、すべてを飲み込もうとしていた。その瞬間、熱と冷気がぶつかるような衝撃が走った。熱風の中心で、金の髪がひるがえる。一瞬、風が止まった気がした。(ローザリア様……? なんで、帰ったはずじゃ……)周囲の炎が、彼女を避けるように歪んでいく。炎の中を歩いてきたはずなのに、煤ひとつついていない。そこだけ、世界から切り離されたみたいだった。「リリエル! 無事!?」いつの間にか、引き抜かれる感覚がなくなっている。(何が、起きたの……?)目を向けると、薄い膜のようなものが、クラヴァール先輩を包み込むように広がっている。闇の奔流を押さえ込みながら、膜の表面が淡く脈打っている。「結界……!?」いや、違う。あれは――「ただの防御膜よ! 長くは持たないわ!」爆ぜる音が連なり、破片が光の粒になって飛び散る。熱風が巻き上がり、ローザリア様の制服に焦げ目が走った。さっきまで異様なほど整っていた姿が、みるみるうちに黒く汚れていく。(防御膜を、自分じゃなくて先輩に使ってるから……!)それでも彼女は、まっすぐクラヴァール先輩から目を逸らさなかった。「リリエル、今は回復に集中して。できる?」「は、はい!」できないなんて、そんなこと――あっていいはずがない。(中庭イベントをクリアしたんだから……!)胸の奥に意識を沈めると、そこにあるはずの光が、かすかに脈打つのを感じる。痛みの隙間に温度が生まれ、光の粒が血流を伝って全身に散っていく。(……この感覚。 あの時は、ストレステスターの魔力に翻弄されて分からなかったけど……)鼓動の音が、遠くで雷みたいに
last updateHuling Na-update : 2026-09-15
Magbasa pa
魔力暴走イベントの終幕
朝の学園は、どこか落ち着かない空気に包まれていた。昨日の騒ぎのせいで、授業は午前中だけ。廊下のあちこちには修復班の上級生がいて、焦げた壁やひび割れた床に魔法をかけている。廊下を歩けば、どこからともなく噂話が耳に入ってくる。「聖女の光が暴走を鎮めた」とか、「クロイツ公爵令嬢が身を挺して守った」とか。(合ってる……合ってるんだけど、なんか違う……!)パンとスープだけの朝食を済ませ、中庭へ抜ける。外はすっかり晴れていて、昨日の熱気が嘘のようだった。でも、石畳の隙間に残る黒い焦げ跡だけが、あれが現実だったと教えてくれる。「おはようございます、ローザリア様」中庭の中央で、風の流れを操りながら落ち葉と煤をまとめている後ろ姿。珍しく後ろで編みこんでいるのは、髪の毛が焦げてしまったからだろう。それでも鮮やかな金髪は光を集めて、まるで何事もなかったみたいに美しい。焼け焦げていたはずの制服は、新品に取り換えられていた。……さすが、公爵令嬢。私はというと……うん。ちょっと黒ずんでるけど大丈夫。すぐにパトロンである王家から新しい制服が支給されるはずだ。「おはよう、リリエル。今日は授業が短縮されたの、ご存知?」「はい。先生方、徹夜で対応されてるみたいですね」「ええ。おかげで魔導学科の講義が二つ飛んだそうよ。 研究棟の修復は時間がかかるでしょうね」ローザリア様の声はいつも通り穏やかで、でも、指先の動きは昨日より少し早い。ガシャンガシャンと、魔力で浮かせた瓦礫を一か所に放り込んでいく様子は、どこか無言の苛立ちを含んでいるように見えた。(……怒ってるのかな。怒るよね、そりゃ)私は迷った末に口を開く。「クラヴァール先輩は……その、どうしてるんでしょう」「まだ眠ってるわ。命に別状はないそうだけれど、魔力の回復には時間がかかるでしょうね」「そう、ですか」風が止まり、沈黙が落ちる。ローザリア様は、きらりと光るガラスの破片を手に取る。「彼、目を覚ましたらきっとすぐに研究に戻るわよ」「……そんな気がします」「止めても聞かないでしょうね」(確かに……それに、落ち込んでいないか心配だわ)そう思うと、なんだか少しだけ心がざわついた。「お見舞い、行ってもいいでしょうか」「もちろん。行くならこれを持っていって」「ローザリア様は?」
last updateHuling Na-update : 2026-09-16
Magbasa pa
休日のひととき
 柔らかい光が、まぶた越しに差し込んでいた。 光がまぶたの裏でゆらめき、意識がゆっくり浮かび上がる。 香りの記憶が先に戻ってくる――花と紅茶と、ほんの少しの魔力の気配。 (……あれ? 神殿じゃ、ない?)  目を開けると、見覚えのない天蓋とレースのカーテン。 クロイツ公爵家の紋章入りのカップが、すぐそばのテーブルで湯気を立てていた。 「やっと起きたのね、リリィ」  ソファに腰かけていたローザリア様が、ほっと息をつく。 いつもの制服ではなく、家用のゆったりした服。 淡い金糸の刺繍が光を受けてやわらかく輝き、 それだけで、ここが“学園の外”だと実感する。 「……ローザ様、私……?」 「神殿の司祭たち、慌ててたわよ。あなた、結界用護符を十五個も作ったんですって?」 「……十六個目で気絶しました」 「ふふ、そうでしょうね。見学に来ていた修道院の子供たち、聖女様の献身に感動していたわ」  ローザリア様は微笑んで、カップを持ち上げた。 紅茶の表面に光の粒が揺れ、室内に淡い金の反射を散らす。 ……どうやら、ゲーム通り、ちゃんと名誉ポイントが上がっているらしい。 嬉しいような、嬉しくないような。 (そういえば……ローザ様ってあんなに魔法を扱えるのに、結界は張らないのかしら。 この間も防御膜を応用していたわ。結界用護符が高級品とは言え、公爵家ならいくらでも用意しそうだけど)  思い
last updateHuling Na-update : 2026-09-18
Magbasa pa
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status