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第1話
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逆境を力に変えて 第11話
新居聡利はその両親と、いつも私たちに頼ってばかりの弟を連れてきて、一家そろって私の前で土下座し、離婚だけはやめてくれと懇願してきた。しかし、最終的には私の両親の介入もあって、威圧と説得の末に離婚が成立した。新居聡利は完全に非があったため、財産分与を放棄し、身一つで家を出ることになった。市役所を出たとき、新居聡利の顔には明らかな不安が浮かんでいた。横領した公金が明るみに出ることを恐れていたのだ。「夫婦の縁はこれで終わりだけど、私はあなたを追い詰めたりしない。年末までに返済すれば、何事もなかったことになるでしょう」これが私が新居聡利に最後に言った言葉だった。その後、私は家を売却し、そのお金をすべて両親に渡した。仕事面では以前から進めていた転動が決まり、出発前に安衣と白鳥康森を食事に誘った。しかし、その席に白鳥康森は現れなかった。彼は別の都市の地域マネージャーに異動となり、偶然にも私と同じ都市に配属されることになった。この異動については、私や安衣は何も関与していない。すべて彼自身の努力の結果だった。しかも、彼は私から一銭も受け取らず、安衣にも何の手助けも求めなかった。つまり、完全に無償で私を助けてくれたのだ。私がその街に移り住んでから半年後、新居聡利は横領が発覚して会社を解雇され、然るべき処罰を受けた。彼が以前「借金返済のために思いついた妙案」というのは、公金をこっそり横領することだったのだ。その知らせを聞いた日、私は一人で酒を飲んで過去と完全に決別することを祝った。その席で偶然、白鳥康森と再会した。「君は、俺が出会った中で、最も頭が良くて冷静な女性だ」これが、彼の開口一番の言葉だった。そして、この言葉は後に、私たちの双子の息子を教育する際、彼がよく口にするフレーズにもなった。「お母さんみたいに、頭が良くて冷静な女性を奥さんに選べよ」
逆境を力に変えて 第10話
大内羽嵐の件がまだ片付いていないうちに、新居聡利はローンの利息が雪だるま式に膨らみ、とうとう返済不能に陥り、債権者が家に押しかけてくる事態となった。このクズ男はまたも泣きながら謝罪し、私に共に困難を乗り越えようと懇願してきた。私は、以前の貯金を全て資産運用に回しており、今解約すれば大損失になることを理由にお金を出せないと伝えた。さらに、その程度の金額では焼け石に水で借金返済には到底及ばないとも言った。それに、プライドが高い新居聡利は、周囲にお金を借りることを拒否し、自ら作った泥沼に完全に足を取られてしまった。実は、何年も同じ屋根の下で暮らしてきた夫婦だからこそ、ある瞬間、私はこの復讐をやめようかと迷ったこともあった。しかし、こんな状況に陥っても、新居聡利は相変わらず乱れた性的な交際という悪癖を、捨てきれなかった。1ヶ月の間に私の目を盗んで2～3回も外で遊び歩いていたのだ。彼は「花音を愛している」と口では繰り返し、実際にいくつかの改善も見せたが、結局のところ、その本性は簡単には変わらない。そんな中、彼は悩み抜いた末に、ある方法を思いついたようだった。私は彼が考えたその「方法」について深く聞くことはなかったが、彼の表情からして、すでに覚悟を決めていたことは明らかだった。彼のその妙案を利用して、借金を返済した後の数か月間、新居聡利は目に見えて行動を改めていった。外で不倫することもなくなり、仕事にも真剣に取り組み、家庭生活も堅実に送っていた。きっと、私が彼の困難に寄り添い、見捨てなかったことに感謝していたのだろう。彼の私に対する愛情が徐々に戻ってきているのを感じることができた。だが、「遅れてきた愛情ほど価値のないものはない」という言葉がある。私は彼を許すつもりなど全くなかった。その頃、大内羽嵐は子供を出産したが、外見は明らかに劣化していた。新居聡利に頼れないと悟ると、白鳥康森に色仕掛けで近づこうとしたが、すべて空振りに終わった。おそらく外見への不安と、依存できる相手がいない焦りが重なり、彼女にとっては非常に大きなストレスだったのだろう。結果として、産後うつを患った。最終的に、新居聡利の会社に内部告発書を送るという手段に出た。だから、新居聡利は上司に呼び出され、厳重注意を受けた後、怒りに任せて大内羽嵐を訴えた。訴訟の
逆境を力に変えて 第9話
一石を投じると波紋が広がるように、その場は一瞬で騒然となり、見物人たちはそれぞれ表情を変えながら、ひそひそと話し合い始めた。私は人混みをかき分けて前に進んだ。新居聡利は私を一目見るなり、顔が真っ青になり、明らかに動揺していた。それに気づいた大内羽嵐も、彼の視線を追ってこちらを見て、私だと気づいた瞬間、一瞬目に怯えの色が浮かんだ。私は新居聡利をじっと見つめ、微動だにせず、大内羽嵐には一切目もくれなかった。新居聡利は慌てて駆け寄り、私の両腕を掴んだ。「花音、いつからここにいたんだ？」私は反射的に彼の腕に手を置き、衝撃で立っていられないようなふりをした。「全部......聞こえたのよ......」この瞬間、大内羽嵐は私の罠にはまったことを悟ったのだろう。しかし、さすがに一筋縄ではいかない相手だ。私の前に出てきて、言い訳を始めた。「実は、先輩は最初から知ってたんだ。先輩の助けがなかったら、私はこんなに順調に出産なんてできなかった」新居聡利は驚いたように、私と大内羽嵐を交互に見つめ、その場で考えがまとまらない様子で黙り込んでしまった。私は嫌悪感をあらわに大内羽嵐を一瞥し、崩れ落ちそうなほどの衝撃と困惑を装って言った。「なんで嘘をついたの？」大内羽嵐は明らかに焦っていたが、彼女が口を開く前に私は続けた。「もしこの子がいらないなら、私たちに預ければいいじゃない。正式な養子縁組をすれば済む話なのに。長年の友人関係だし、私たちがずっと子供を欲しがってたのは知ってるでしょう？でも聡利は......」私はそこで言葉を詰まらせ、まるで新居聡利のプライドを守っているかのような態度を見せた。しかし実際には、新居聡利が妻を裏切り、さらに愛人にも裏切られていることは、その場にいる全員に知れ渡ったも同然だった。その日のうちに大内羽嵐は泣きわめき、騒動を起こした。最終的には、私が警察を呼んでようやく解決した。警察に連行される際、私は人混みの中に隠れていた白鳥康森の姿を見つけた。彼はこっそり親指を立て、私以上に嬉しそうな表情を浮かべていた。大内羽嵐が騒動を起こしたその日、新居聡利は事態を隠しきれないと悟り、大内羽嵐との愚かな関係について全てを白状した。彼は本当に反省しているかのように振る舞った。「本当に、酒に酔ってつ
逆境を力に変えて 第8話
私が転勤の手続きを進めていた頃、大内羽嵐が予定より早く出産した。もし私が裏で手を回していなければ、彼女は本当に運が良いとしか言いようがない。生まれたのは男の子だった。これで新居家の望んでいた跡取りが誕生したことになる。彼女が出産している間、私は一切動きを見せず、普段通りに彼女を見舞いに行き、赤ん坊に対しても大きな関心を示してみせた。その結果、大内羽嵐はすっかり信じ込んだ。「私はただ子供が欲しいだけ」と。赤ん坊が生後1ヶ月を迎え、彼女を迎え入れる日、私は彼女と話をした。そして、彼女に1枚のクラッシュカードを差し出した。「千万円。この子は私が引き取るから、あなたはここを出て行って」予想外に寛大な条件を出されたからか、大内羽嵐は明らかに驚いていた。そして、クラッシュカードを受け取った後、泣きそうな表情で私を見つめてこう言った。「最後にもう一晩だけ、この子と一緒に過ごさせてください。明日になったら、この子を渡しますから」まるで子供と別れるのが本当に辛そうで、それでもお金が欲しいという、非常に巧妙な演技だった。私は、翌日の午後に子供を引き取りに来る約束をした。それは、彼女に翌日の午前中の自由な時間を与えるためだった。おそらく、私が本当に馬鹿だと思っていたのだろう。大内羽嵐は、私が彼女に対して何か警戒心を抱いているとは全く思わなかったようだ。監視カメラの映像を見ると、彼女は午前中、とても落ち着いて過ごしていた。何か大きな計画を実行する緊張感など一切感じられなかった。そして、午前9時半頃、赤ん坊を抱えて外出した。白鳥康森が母子の逃走に気づいて電話をしてきた時、私は新居聡利の会社の向かいにあるカフェに座っていた。それも、かつて大内羽嵐と初めて顔を合わせた窓際の席にだ。ここからは、新居聡利の会社の正面入口が一望できた。安衣は私の向かいに座り、コーヒーを飲みかけて吹き出しそうになりながら窓の外を指さした。「時間の読みが完璧すぎるよ、大内羽嵐が来たわ」私も窓の外に目を向けると、大内羽嵐が赤ん坊を抱え、顔を上げてビルを見上げているのが見えた。新居聡利のオフィスは9階だ。彼女はおそらく、彼のオフィスの窓を正確に見つけ出せるのだろう。ついに、計画の仕上げをする時が来た。私は安衣の手を引き、外に出た。すべては
逆境を力に変えて 第7話
新居聡利のスマホには、2つのLINEアカウントが登録されていた。私が知っているアカウントの他に、別のアカウントにはほとんど女性ばかりがリストに並んでいた。その中で、大内羽嵐が一番上に固定されていた。大内羽嵐とのチャットを開いてみると、「情に厚いな聡利」と称する彼は、ほぼ毎日のように「会いたい」「早く戻ってきてほしい」といったメッセージを送り続けていた。しかし、あの日病院で彼女に出会った時を境に、メッセージがぴたりと止まっていた。どうやら、私が彼に話したことを深く信じ込んでいるらしい。そして、大内羽嵐に裏切られたということについても疑いを抱いていないようだ。新居聡利は執念深く仕返しをする性格だ。大内羽嵐が子供を抱いて彼を訪ねてくる日には、彼がどんな行動に出るか、ほぼ想像がつく。もし大内羽嵐の存在が、私に新居聡利との離婚を決意させたのだとしたら、新居聡利が他の女性たちとの露骨な会話や送金記録は、その決意をさらに固めるものだった。その後、新居聡利との「仲睦まじい夫婦」を装う日々は、毎日が刑罰のように感じられた。目の前の人間はかつての新居聡利のままだが、そこにあった感情はもはや微塵も残っていなかった。新居聡利は以前と同じように、私の望みを何でも叶え、甘やかし続けた。しかし、私には彼から愛情を感じ取ることは一切なかった。一方、大内羽嵐はというと、白鳥康森に世話をされ、すべてが順調そうだった。彼女っが本当に忍耐強いのか、これまで一度も新居聡利に連絡を取らなかった。おそらく、新居聡利が彼女に本気で惚れていると確信し、彼を完全に掌握していると思っているのだろう。この間、私は白鳥康森と数回会って、状況を共有した。彼は言葉には出さなかったが、私は薄々感じていた。大内羽嵐は確かに彼を新たなターゲットとして見ているのだと。この女性に対して、もう感心するしかなかった。仕事では何の成果もないが、男を利用して出世することには驚くほど努力を惜しまない。もし白鳥康森が誠実で、器が大きく、賢明な人間でなければ、すでに彼女に落とされていたかもしれない。彼女が出産予定日に近づくにつれ、私は胸が締め付けられるような切なさを感じていた。もし不倫がなければ、今生まれようとしているのは私の子供だったはずだ。白鳥康森は聡い人間で、この数ヶ月で事の大半を察していたよ
逆境を力に変えて 第6話
新居聡利は、私がずっと何も知らない女性だと思ったから、私に対して、私が彼に対する以上の信頼を寄せていた。だから、彼の中に疑いの念など一切なかった。むしろ、私に対する申し訳なさを示すようになった。それが本心か偽りかはともかく、以前より何倍も私を大切に扱い、ほとんど何でも私の言うことを聞いてくれるようになった。結局のところ、彼もバカではない。不妊の原因が彼にある以上、まだ若い私が彼を見限る可能性も十分に考えられる。もし私が去って、彼が私や私の実家から得ている資源を失えば、自分の力だけで出世の階段を上るのは不可能ではないが、非常に苦労することになるだろう。新居聡利は計算高い性格で、損をするようなことは絶対にしない男だった。最初、すべてが自分の掌握の中にあり、精神的に彼を追い詰めるという初期の目的は達成したと思い込んでいた。しかし、新居聡利という人間の底の浅さを見誤っていたことに気づかされることになる。間もなく、横山考司が私に会いたいと連絡をしてきて、さらに驚くべき情報をもたらしたのだ。「奥さん、新居さん、最近すごい金額を使って高級会員制クラブに通い始めたみたいなんです。そんな会員制クラブって、入るのに高額な費用がかかる上に、新居さんの場合、そこで一日何十万、下手すれば何百万も使ってるみたいですよ」横山考司は話しながら、周囲を警戒するようにきょろきょろと見渡していた。どうやら、このカフェで知り合いに会うことを恐れているらしい。上司の妻と密かに会うのは、あまりいい印象を与えないからだろう。「何百万？」私は驚きを隠せなかった。新居聡利の年収はせいぜい数百万といったところだ。それなのに、そのクラブのために年収を丸ごと使い切るような額を費やすとは、その魅力は並大抵ではないに違いない。クラブそのものにはさほど興味がなかったが、新居聡利がどこからそのお金を工面しているのかには非常に興味が湧いた。横山考司は、私の考えを即座に察し、小声でささやくように言った。「新居さん、小口融資を利用してるみたいですよ」それを聞いた私は腹が立った。婚姻関係が続いている以上、借金の返済には夫婦の共有財産が使われる。大内羽嵐を2、3年も私の金で養ったことには、目をつぶってきたが、今度は私の金を使って好き勝手やるつもりだなんて、絶対に許せな
