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第3話

Author: 夏川 建
恵が六歳のとき、両親は全身傷だらけの十歳の少女を家に連れ帰った。

その子が華だった。

その頃の華は傷口の炎症で高熱を出し、熱が下がった後も自分の名前さえ思い出せなかった。

もちろん実の両親のことなど知る由もない。

恵の両親は、彼女を医者に診せながら、あらゆる手段を尽くして身寄りを探した。

だが手がかりは得られないまま――。

やがて学校に通わせるため、両親は養子縁組の手続きを整え、華を正式に家族として迎えた。

そして外には「田舎に預けていた長女だ」と言い続けてきた。

本当の事情を知っているのは、恵だけだった。

両親が仕事帰りの道で、暴行されている彼女を見つけ、通報すると脅して加害者を退かせ、保護したことを。

警察に届け出はしたものの、人攫いは結局捕まらず、華はそのまま恵の「姉」の身分を背負い続けることになったこと。

――それが一年前、すべてが壊れる。

両親が亡くなって二年目、華はどこからか「自分は養子だ」と知り、言い放った。

「私は買われてきた。

あんな人たちがいたから、人攫いがはびこるのよ。

あの人たちも人攫いと同じくらい卑劣よ」

その瞬間から、二人の姉妹関係は完全に決裂した。

華はあらゆる場面で恵に対立するようになった。

「華、胸に手を当てて思い出して。

私の両親があなたに冷たかったことが、一度でもあった?

二人が亡くなった後に、よくもそんなことが言えるわね。

良心は痛まないの?」

四人で過ごした、かつての穏やかな家庭の情景。

両親が華をどれほど気遣っていたか。

その思い出と今の彼女の冷酷な態度が胸を引き裂き、恵の目からは涙が止めどなくこぼれ落ちた。

華は視線を逸らして答えない。

代わりに明がティッシュを取り、しゃがみ込んで華の脚の血を拭いながら、冷ややかに言った。

「恵、君の両親がどんなに彼女を大事にしたところで、それは元をたどれば華を親から引き離された傷を埋め合わせるためだったんだ。

もしあの人たちがいなければ、華は人攫いに遭うこともなかった」

そう言うと、華を抱き上げ、失望を浮かべた視線を恵に投げる。

「両親にあんな目に遭わされても、華はなお君を姉妹だと思っているのに。

君はその仕打ちか。本当に見損なったよ」

去り際に残されたのは「見損なった」というひと言。

恵はただ呆然と、言葉を失ったままベッドに腰を下ろした。

どうすればここまで事実を歪められるのか、理解できなかった。

長い沈黙ののち、ようやく込み上げる怒りを抑え込むと、頬に走る痛みに気づいた。

洗面所に行き鏡を覗くと、頬には細長い傷が走っている。

先ほどの花瓶の破片で切ったものだろう。

きちんと処置をしなければ、顔に痕が残るかもしれない。

ため息をつき、棚から救急箱を取り出して消毒を始めた。

綿棒を動かしているうちに、またも涙が溢れ落ちる。

もし両親が生きていたら――この傷を見て大慌てで病院に連れて行き、医師にしつこいほど質問し、傷跡が残らない薬を探してくれただろう。

昔の華なら、心配そうに薬を塗ってくれただろう。

口ではあなたの不注意だと叱りながら、手つきは驚くほど優しく。

半年前の明なら、慌ててネットで処置法を調べ、消毒しながら息を吹きかけ、涙を浮かべながら「大丈夫か」と気遣ってくれただろう。

ほんの小さな傷でも、彼らはみな、過剰なほど心配してくれた。

だが今はもう違う。

綿棒を置き、鏡に映る自分の顔を見つめる。

外見は何も変わらないはずなのに――

なぜこれほどまでに、親しい人たちが一瞬で敵に変わってしまうのか。

両親は事故で亡くなり。

姉は両親を人攫い呼ばわりし、彼女を裏切った。

自らは白血病を告げられ、そして誕生日に恋人が自分の姉にプロポーズするのを、目の当たりにした。

積み重なった出来事が、恵の心をすっかり硬く閉ざしてしまった。

それでも彼女は人間だ。

痛みを覚えるし、過去の幸せを懐かしむ。

恵は洗面所の隅に身を縮め、最初は声もなく涙を流し、やがて嗚咽が止められなくなった。

喉の奥から迸る叫びを抑え込み、裏切った者たちに弱さを晒すまいと必死に堪える。

そのとき、外から足音が近づいた。慌てて顔を拭き、涙の跡を隠す。

「恵、いるのか?」

明の声だ。

「恵、中にいるだろう?

下の救急箱にはもう消毒用のアルコールがない。

華の傷は深いから、消毒しないと感染する。

家に予備があるだろう、それを......」

――やはり、華のためだ。

鏡に映る自分の顔には、涙で濡れ白っぽくなった傷痕。

恵は再びアルコールを含ませた綿棒で消毒を済ませ、救急箱を手渡すために扉を開けた。

「持っていって。

返さなくていいから」

泣いたばかりで赤く腫れた目。

そのままの顔が、明の視線に映り込む。

「恵......泣いていたのか?」

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