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第7話

Auteur: 渡船
入院している間、裕司は一度も姿を見せなかった。

彼から届いたのは、素っ気ない一通のメッセージだけ。

【今出張中。プレゼント、何が欲しいかはアシスタントに言いなよ。全部買い与えるよ、お詫びの気持ちでね】

晴美は返信しなかった。

巧美が毎日欠かさず更新するSNSには、裕司との旅行写真ばかりが並んでいた。

この期に及んで、まだ嘘をつくのか。

晴美は一人で入院し、一人で食事をし、一人で薬を塗った。

退院の日、それはちょうど晴美の誕生日であり、偽装死計画を実行する日でもある。

「乗って。誕生日パーティーに連れて行く」

黒いマイバッハの傍らで、裕司はスーツ姿で背筋を伸ばして立っていた。

助手席に座る巧美は真っ赤のドレスに身を包み、紅い唇をわずかに吊り上げ、妖艶な笑みを浮かべていた。

「晴美さん、今日はフォローをよろしくね。代役として、こんな高級なパーティーに出るのは初めてなんだ」

その光景を目にして、晴美はふと自分の身にまとった純白のドレスを見下ろし、すべてを悟った。

裕司が彼女のために用意したドレスは、巧美とまったく同じデザインだ。

ただ一つ違うのは、巧美のそれがより鮮やかな赤だったこと。

自分の誕生日でさえ、晴美は小山巧美という身分で、ただ傍観するしかない。

豪華に飾られたクルーズ船の宴会ホールでは、高価な贈り物が小山のように積み上げられ、大スクリーンには裕司が晴美のために直筆で綴ったラブレターが流れている。

しかし、晴美の心は既に麻痺していた。

裕司は「伊佐山晴美」という名前を使って、華やかなヒロインを演じさせた。

けれど、本人である彼女自身は結局、何者でもなかった。

宴会中、晴美はまるで部外者のように、目立たない隅の方に立っていた。

裕司が巧美を抱き寄せ、夫婦として客を迎える姿を、晴美はただ黙って見つめるしかなかった。まるで、あの婚約パーティーの再現のように。

ぼんやりしていると、トレイを持った男性スタッフが通りかかり、うっかり晴美の肩に触れた。

はっとして手元を見ると、いつの間にか一枚の小さな紙切れが握られていた。

そこには、見覚えのある、どこか懐かしい筆跡でこう記されていた。

【今夜八時、お前を連れ出す】

「どうした?」

いつの間にか背後に立っていた裕司が、不機嫌そうに眉をひそめた。

「さっきのスタッフ、お前に何をした?」

男の声には、どこか嫉妬じみた響きが混じっていた。

晴美は首を横に振り、何事もなかったように紙片を手のひらに隠した。

裕司は目の前の彼女をじっと見つめ、胸の奥に言葉にできない違和感を覚えた。

彼女が……どこか変わった気がする。

さらに問いただそうとしたその時、背後から再び客たちの挨拶の声が響いた。

裕司は短く言葉を残し、足早にその場を離れた。

「ここは人が多いから、大人しくしていろ」

晴美は壁の時計の針に目をやった。

海に飛び込み、偽装死をするまで――あと十分。

彼女は一人、誰もいないデッキに来て、海に飛び込む時を待っている。

その時、背後から名前を呼ぶ声がした。

巧美が笑顔で近づいてきた。

「今日はあなたの誕生日でしょ。私からも特別なプレゼントを用意したの」

言い終えるや否や、彼女の背後から業界でも名の知れた数名のドラ息子が飛び出し、わざとらしく彼女を捕まえようとした。

「あなたたち誰?私を離して!」

その光景が、ちょうど声を聞きつけて駆けつけた裕司の目に映った。

巧美は彼の胸に身を寄せ、震える声で言った。

「晴美さん、この前は本当に私が悪かったの。あなたがこんな苦しみを味わったのに、どうしてそんな卑劣な手で私を罰しようとするの?」

裕司は目を曇らせて、場にいた男たちを一瞥した。

彼らは女遊びで有名なドラ息子ばかりだった。

巧美が上流社会の御曹司たちと関わる機会などなかったことを思い出し、裕司は彼女の言葉をすっかり信じ込んでしまった。

その瞬間、彼の晴美を見る目は、冷たく、まるで別人のようだ。

「嫉妬してるのか?」

裕司の瞳には、複雑な感情が入り混じっていた。

「俺のことを気にしてくれるのは嬉しい。でも、こんなやり方は本当に気持ち悪い。ちゃんと反省しろ」

裕司は巧美の手を取ると、ためらうことなくその場を後にした。

巧美は心配そうなふりをして言った。

「晴美さんを一人にして大丈夫かしら?」

「何が起こるっていうんだ?どうせあの連中は彼女が呼んだんだろう。誰も手出しなんてできないさ」

裕司の背中が迷いなく遠ざかっていくのを見つめながら、晴美は口角をわずかに引き、静かに呟いた。

「裕司……今日のこと、後悔しないでね」

折りしも潮風が吹き荒れ、晴美のささやくような声をかき消した。

裕司の足が一瞬だけ止まり、胸の奥に得体の知れない不安が広がる。

だが、晴美が失語症を抱えていることを思い出し、自分の聞き間違いだと無意識に思い込み、そのまま歩き続けた。

二人が宴会場へ戻った途端、ドラ息子たちが晴美の腕を乱暴に掴み、いやらしい笑みを浮かべた。

「いい体してるな。何人の男に触られた?」

晴美が必死にもがくうちに、首元のルビーのネックレスが何かに引っかかって切れ、ヒリヒリと疼く赤い痕が残った。

床に落ちたネックレスの中で、極小のカメラが赤い光をちらりと放った。

その光は、今の一部始終を記録し続けていた。

彼女が言うことを聞かないと見るや、連中は低く罵り続けた。

「体を使って出世した社長補佐が、今さら清純ぶるなよ。細川社長にはとっくに飽きられてるくせに!」

ちょうど八時の鐘が鳴り響く。海に飛び込み、偽装死をする予定の時刻だ。

晴美は自分を拘束していた男の腕に思い切り噛みつき、その隙を突いて手すりへと駆け出した。暗がりに停められた救命ボートを見つけた彼女は、迷うことなく身を躍らせた。

ドラ息子たちは驚き、慌てて後ずさりながら逃げ出した。「うそ!あの女、海に飛び込んだぞ!」

その瞬間、夜空に花火が咲き乱れている。

一方その頃、裕司はどこか上の空で、視線の隅で晴美が宴会場に戻ってきたかどうかを何度も探していた。

ふとした拍子に視線がフロアの大きな窓をかすめ、そこで白い影が海へと飛び込む瞬間を目撃した。

たった一瞬――裕司の心は粉々に砕け散った。

息が止まり、手にしていたワイングラスが床に落ち、酒が四方に飛び散った。

晴美が……海に飛び込んだ?
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