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第11話
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過去にさよなら 第11話
「今時の財閥のお坊ちゃまも大変だね。彼の両親、彼が学校に賄賂を送ったことを知り、彼を引き戻したね。もしかしたら、両親にひどく叱られるかも」私の隣で、瑠々は笑いながら言った。夜、屋台の片付けをしていると、鉄板を袋に入れたところで、母と弟である神原悠斗（かんばら はると）が街灯の下に立っているのを見た。「悠斗の結納金、まだ120万足りない。沢人は金持ちなんだから、いい加減にして、今すぐ彼と仲直りしなさい！」母は私の腕をつかんで、行かせまいとした。私は手を振りほどき、服の埃をはたく。「私は沢人と仲直りしないし、お金もあげない」「お嫁が360万の結納金を要求してるのよ！お金を出さなきゃ、神原家は絶えてしまうわ！」悠斗は慌てて前に出て、私を捕まえようとしたが、瑠々が突然、棒付きキャンディを咥えながら横から現れた。「おや、これが時音の家族か。ちょうどいい、話があるよ。時音は私に1000万借りて、この週に返す約束だったのに、今逃げてる。家族として、彼女の代わりに返してくれる？」母は呆然とし、悠斗も手を半分伸ばしたまま止まった。「1000万？知らないよ！」瑠々はポケットからくしゃくしゃの紙を取り出し、鉄板に「パッ」と置いた。「はっきり書いてある！この前、時音が私に借りたのは屋台の資金よ。今稼いでるくせに、私に忘れたふりしてるの？」彼女は前に一歩踏み出すと、声を低くして、わざと怖そうな態度を作りながら、後ろにいる「子分」を手招きした。「今日中に返さなきゃ、あなたたちが代わりに返すしかない。逃げるなよ！さもないと、明日、子分を連れて、あんたらの家に行くさ。あんたらの価値のある物を全部取り上げるからな！」母は顔を真っ青にして、悠斗を引っ張りながら、後ろへ退いた。「お金なんてないわ。全部彼女の借金で、私たちには関係ない！」「関係ない？」瑠々はキャンディを噛みながら笑った。「彼女はあんたの娘でしょう？ほっとくの？」彼女はわざと間を置いて、目線を悠斗に向けた。「来年結婚するって聞いたけど、家に金あるんでしょうね……」悠斗は顔色を変え、もう前に出られず、母を引っ張って逃げるように去った。私は瑠々の後ろにいる「子分」を見た。制服を着た二人の男子で、手には千円札を握っている。焼きそばを買いに来た客のはずが
過去にさよなら 第10話
琴美は床に崩れ落ち、涙と化粧が混ざって流れ落ちた。突然、彼女は私を指差して叫んだ。「なんで？あんただって昔から沢人さんに頼ってばかりじゃない！どうしてあんたは指導教授に目をかけられて、論文も出せるの？私じゃダメなの？もともと沢人はずっと私に優しかったのに、あんたが彼を独占していたから……」誰も彼女に耳を貸さなかった。スタッフが駆け寄って彼女を支え、連れ去った。彼女は振り返って叫びながら抵抗したが、声は次第に遠くなり、最後には空虚なこだまだけが残った。沢人の友人が近づいてきて、手にはあのUSBメモリを握っている。「神原さん、説明したいことがあります。沢人さんが以前浅野に贈り物をしたのは、当時あなたをなだめて復縁してもらうと思ったからです。その贈り物は全てあなたに渡すつもりでしたし、彼女には余計なことを言わないよう伝えてありました」彼はチャット記録を開き、確かに沢人のメッセージがあった。【時音に、俺のことを言うな！物を渡したら、そのまま立ち去れ】「しかし、浅野は戻った後、物を渡すどころか、逆に沢人さんに嘘をつきました。あなたは受け取らず、新しい恋人がいると言ったんです。そして、送金の件も、ご両親への連絡も、神原さんに冷たくするように唆したことも、全部浅野の仕業です。そうすれば、あなたが折れて戻ってくると、彼女はそう言っていました。屋台の件も、沢人さんが事前に手配してくれたので、誰も邪魔しませんでした……」私はメッセージを読むと、目を閉じて、ため息をついた。彼はまた聞いた。「沢人さんが今外にいます。彼ときちんと話しますか？」「いいえ」私は荷物をまとめてバッグにしまい、「もう過ぎたことです」と答えた。実はさっき彼が入ってきたとき、壁の影で沢人が立っているのをちらっと見た。髪を乱した沢人は、近づく勇気もなく、陰に立ち尽くしていた。でも、それはどうした？もうどうでもいい。会場を出ると、博士課程の指導教授からメッセージが届いた。【論文を拝見しました。アイデアが素晴らしいですね。来週、研究室で話しましょう】【わかりました】私はそう返信し、スマホをポケットにしまった。後ろから足音が聞こえる。沢人だ。彼は何も言わず、私の後ろを少しだけついてきた。寮の入り口に着くと、彼はよ
過去にさよなら 第9話
「何度も言ったでしょ、私たちはもう別れたって」そう言い残して、私は振り返らずに歩き去った。図書館の入口に差しかかるころ、視界の端で、沢人がまだその場に立っているのが見えた。彼の手首には病院のリストバンドがついていて、目は私に釘付けだ。私が足を止めると、彼の目にはまた期待の色が浮かんだ。だが、私は止まらず、そのまま図書館に戻った。後になって、ルームメイトの雑談で琴美のことを知った。沢人が入院している間、琴美は沢人のお金や名義を利用して、沢人の親友であるほかの御曹司たちに近づいていた。彼女は彼らから贈り物を受け取り、関係を持った。また、沢人が騙しやすいと嘲笑し、彼の物を持ち出して売っていたという。この件を沢人の母が偶然耳にしたらしく、沢人は即座に琴美をブロックした……その2週間後、学術誌の編集者から、投稿した論文について連絡があった。私の論文は盗用の疑いがあり、原作者の提出時期は私より半月早かったという。リンクを開くと、「原作者」の欄には琴美の名前があった。内容はほとんど同じで、違うのは些細なデータだけだった。私が寮に戻って彼女を探すと、彼女は鏡の前で新しいネックレスを試している。「あんた、私の論文をパクったの？」琴美は一瞬戸惑ったが、すぐに笑った。「パクったって？明らかにあなたが私を真似したんでしょ！このテーマ、前から沢人さんに話してたのよ。聞きかじったんでしょ？」「ふーん、パクってないの？私が勘違いしてるってわけ？この文章、内容がまったく同じだなんて！まさか、パクれば頭がよくなると思ってるの。でも残念ね……泥棒は所詮泥棒よ」私は冷笑し、琴美の表情の変化を無視して立ち去った。その夜、私は別に用意していた論文を修正し、別の学術誌に投稿した。さらに1か月後、学校から突然、政府の視察団来校の通知があった。2つの関連分野の論文が自校から出ているため、「若手学術力」を視察したいという。座談会で、カメラが私たちを向き、視察団の者は何か報告したいことがあるかと尋ねた。私は手を挙げた。「報告したいことがあります。浅野琴美さんは5単位落としているにも関わらず、私の代わりに学生奨励賞を受賞しました。研究科長は選考結果を改ざんした疑いがあります」場内は静まり返り、琴美の顔は真っ青にな
過去にさよなら 第8話
夜の屋台を片づけて寮に戻ると、二人のルームメイトが噂話に花を咲かせている。酒の飲みすぎが原因で胃から出血し、沢人が入院したらしい。一人のルームメイトが言った。「琴美ね、この間授業に全然来ないで、毎日病院通いよ。お見舞い品も山ほど買ったの。あと避妊用品も……」もう一人が続いた。「だって沢人だよ？イケメンで金持ち。私だってそうするわ」「でもさ、胃出血してるのに、まだそんなことできるの？それに……ねえ」もう一人が吹き出して、二人で笑い合った。私は何も言わず、ベッドを整えてから、論文を書き始めた。「オオカミ少年」の教訓は、一度で十分だ。指導教授が出した博士課程の研究テーマは、今月中に決めないといけない。他人の噂に構っている暇なんてなかった。私はしばらくじっと画面を見つめ、スマホをマナーモードに切り替えた。しばらくして、琴美が高級ブランドの袋を手に戻ってきて、私の机の前を通るときにわざと立ち止まった。「時音、沢人さんが入院しちゃってさ。肌が敏感だから綿素材にしてって先生が言ってたのに、本人がカップル用パジャマ欲しいって言うのよ。見て、これ可愛くない？」彼女は袋の中から女性用のパジャマを取り出した。シルク製だが、極めて露出の高いパジャマだ。彼女の声にはどこか誇らしげな響きがあった。「ほんとにもう、胃が悪いくせに酒を飲むんだから。でもね、私にカップル用品を買いに行かせるなんて、可愛いでしょ？」私は顔を上げ、静かに笑った。「そうね。彼、胃が悪いのは、別れるたびにたくさん酒を飲むからね。前にも一度、胃出血したことがあって、病院に運んだのは私だったわ。そのとき、泣いてたわよ。あなた、見たことないでしょ？それとね、彼、シルクのものを着るとアレルギー出るの。言われなかった？」琴美の顔から血の気が引いた。それを聞くと、他の二人のルームメイトも黙り込んだ。「聞いてみたら？」私は視線を戻し、また論文の続きを書き始めた。「彼がそのパジャマを着てアレルギーが出たら、自然にわかると思う」琴美は何も言わず、勢いよくドアを閉めて出ていった。午後、家庭教師の授業を終えた私は、そのまま図書館へ向かい、閉館までこもって作業した。そして、夜はまた屋台を出す。その途中で瑠々からメッセージが届いた。
過去にさよなら 第7話
ちょうど寮の下まで来たとき、沢人の車が路肩に停まっているのが見えた。彼は車から降りず、窓越しにこちらを見ている。私は無視して、そのまま寮に入った。階段を上がろうとすると、またスマホが震えた。今度は見知らぬ番号からのメッセージだ。【時音、俺が琴美と一緒にいることで怒ってるのはわかってる。俺はお前が一番大事なのも知ってるだろ？もう怒らないで。明日は週末だし、遊びに連れてくよ】私はそのメッセージを2秒ほど見つめたあと、削除し、スマホをマナーモードにした。翌朝早く目が覚めると、私は以前保存しておいた家庭教師のグループチャットを開き、ある小学生の保護者に連絡した。そして、午後に1対1の体験授業を行った。子どもはとてもお利口で、保護者も満足した。そのため、毎週の月、水、金の午後に指導することになり、1回2000円で契約した。屋台に戻り、焼きそばを二人前焼き始めたとき、声が聞こえた。「焼きそば、ソース多めで！」見上げると沢人が立っている。彼は両手をポケットに入れ、私の手の火傷をちらりと見ると、思わず近づこうとしたが、近づく途中で顔を背けた。私は黙ったまま、そばを焼き続け、渡すときに「500円」とだけ言った。彼はわざと大きく咳払いをし、周囲の視線を集めるようにして、一万円札を数枚取り出した。近くで串焼きを売る店主たちが、一斉にこちらを振り向いた。その注目を浴びる中、私はお釣りを返した。「多すぎる。500円だけで結構。これは39500円のお返し」「お釣りはいい」彼は焼きそばを隣のテーブルに置き、あっけらかんと言った。「屋台開いたばかりだし、俺が少し場を盛り上げてやるよ」「必要ないわ」お釣りを返すと、私はすぐに次の客に声をかけ、手を拭いた。「私たちはもう関係ないよ」彼の顔の笑みは一瞬固まり、身を乗り出してきた。「まだ怒ってるのか？前は何日もすれば機嫌直してたじゃないか。俺も来て場を盛り上げてやっただろ。もう十分だろ」私は無視して、焼きそばを焼き続けた。彼はしばらく横に立ったまま動かない。しばらくしてまた口を開いた。「夜は暗いけど、寮まで送ろうか？」「いらないわ」焼きそばを渡し終え、私は手を拭きながら言った。「ここで商売の邪魔しないで」彼は一瞬ぽかんとし
過去にさよなら 第6話
夜中に屋台を片づけ、売上を数えてみると、純利益が1万円以上あった。私は胸をなで下ろした。新参者がよくいじめられるなんて噂も聞いていたが、どうやら大げさだったらしい。屋台を片づけた後、私はパンを二つ買って、一つを瑠々に差し出した。瑠々は袖をまくって、パンにかぶりつきながら言った。「うちの母親、いつもまともな仕事もしないでって怒るけどさ、私はただ、いつか自分の店を持ちたいだけなんだよ。あなたは東山や家から離れたいんでしょ？一緒に頑張ろ。自分たちの力でお金貯めて、誰にも頼らない」パンを噛みながら、私は初めて瑠々に会ったときのことを思い出していた。彼女は私より一学年上で、金髪に染めていて、腕には小さな蝶のタトゥーがのぞいていた。そのとき、私は彼女を怖い人だと思い、目を合わせないようにしていた。しかしある日、食堂で沢人の友人たちが「援交女」と私をからかったとき、彼女は通りかかって、トレーを机にガンッと置いてから、冷たい声で言った。「おとなしい子ばっかりいじめんな。もう一回でもほざいてみろ」そのあと彼女が慰めてくれて、いつの間にか友達になっていた。「何考えてんの？」瑠々が私の腕をつまんだ。「なんでもないよ」私は笑った。「最初に会ったときのこと思い出してただけ。あのときは、瑠々のことクールな人だと思ってた」彼女は眉を上げて、パンを食べきると、手についたパンくずを払った。「今は私がいい奴だってわかったでしょ？前から東山のあの性格が気に入らなかったのよ。でも、あなたが好きだったから黙ってた。でも今、やっとあなたが自分で立とうとしてるんだし、私はずっと味方よ。あいつがまた絡んできたら、私が代わりにぶっ飛ばしてやる。お母さんがまた無理言ってきたら、一緒に言い返そう」彼女はそう言いながら、私の肩を抱き、沢人の悪口を思い切り吐き出した。その話の中で、私は初めて知った。沢人が学校に私を迎えに来ていたとき、琴美は毎回彼のそばに寄っていた。彼はそれを嫌がりもせず、むしろ笑って受け入れていた。そして私を炎天下で何時間も待たせたまま、琴美を乗せてドライブに行っていた。私はあのとき、渋滞で遅れたという彼の言葉を馬鹿みたいに信じていた。今思えば、自分でも笑ってしまうほどだ。寮へ帰る道すがら、私の
