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第3話

作者: 天然水
結婚式はあるホテルのバンケットホールで行われる。

入り口のところで、真司と友人が嬉しそうに何か話している。

「政略結婚というのに、本当に好きな人と結ばれるなんて、まさに縁だね。

そういえば、真司、南市にいるあの子はどうした?

もう二年も会ってないんだろ?」

真司はしばらく黙り込んだ。

「やめろ、その話は」

その話から、政略結婚かどうかは別として、真司と絵里はよく似合ていて、今幸せな暮らしをしていることが分かった。

一方、私となると、しばらく沈黙した後、「やめろ」で終えられる存在だけだった。

私は落ち着いた様子で彼らの前に姿を現した。

真司は顔を上げるなり私に気づき、驚いたように目を見開いた。

「お、お前、どうしてここに?」

「食事に来ただけ」

真司は私の頬に触れようと手を伸ばしたが、私は顔を少しそらしてそれをかわした。

真司は小さくため息をつき、ポケットから札束を一束取り出して、私の手元に入れた。

「いいレストランを探してどんどん食べなさい。お前、この二年でずいぶん痩せたよ。あと、新しい服でも買おう。

今日会食なんだ。最近忙しいから、ごめんね。終わったらまた連絡するよ」

私は大人しく頷き、スマホで航空券の予約をした。

しばらくして、画面に【購入済み】のお知らせが表示された。

結婚式が始まった。

真司の首元には、綺麗なネクタイが付けてある。

ウィンザーノットという、かつて私が「真司に一番似合う」と言った結び方だった。

いつもの落ち着いた彼らしくなく、マイクを握る手はかすかに震えていた。

私は自虐する気分で、二人の告白の言葉を最後まで聞き続けた。

二年間の遠距離恋愛の間に、真司は何度も電話の向こうで、「まだ会う時じゃない」と言って、電話を切った。

残された私は、通話が切れたあとの無機質な発信音と、返事のないトーク画面を一人で見つめるしかなかった。

それでも、いつか必ず彼の側に立たれる日が来ると思うと、私は耐えてきた。

だが、今、すべてのことが分かった。

私が新しい土地で風土に慣れないで困っていた頃、真司と絵里はパーティーでロマンチックな出会いを果たしていた。

私が彼にふさわしい女性になろうと、毎日残業を重ねていた頃、真司はある島で、絵里への愛を盛大に告げていた。

私が写真を見ながら、会いたい気持ちをこらえきれず涙を流していた頃、真司と絵里は東都で一番高い高層ビルの上で花火を打ち上げ、口づけを交わしていた。

ハッと我に返った瞬間、涙がまたボロボロ零してしまった。

「ほら見ろよ。泥棒猫さんまで感動して泣いてるぞ」

その言葉に、私ははっと顔を上げた。

見知らぬ数人の男女が、私を見て嘲るように笑う。

「おっ、自分のことだって分かったみたいだな」

「真司さんと絵里さんは、とっくに婚約してたんだよ。それなのに、この女がしつこく付きまとってたから、南市へ赴任させたんだ。

今日は結婚式を壊しに来たってわけか。面白いじゃん」

私は呆然と、その言葉を聞くしかできなかった。

壇上に立っている絵里が涙で顔を濡らしていた。

マイクを手に握っているが、咽び泣いて言葉を詰まらせた。

真司は微笑みながら彼女の手を強く握った。

しばらくして、彼女は震える声で言った。

「私たちは五年間お付き合いをして、三年前に婚約しました。そして今日、ようやくこの日を迎えることができました。

数日前、とても不思議なご縁のある方と出会ったんです。

だから今日は、その方に私たちの指輪を届けていただきたいと思います」

その言葉が終わるより早く、会場がどよめいた。

スクリーンいっぱいに映し出されたのは、一枚、また一枚と切り替わるツーショット。

手をつなぐ姿。抱き合う姿。ホテルへ出入りする姿……

主役は、私と真司だった。

次の瞬間、一筋のスポットライトが、私を照らした。

スタッフが私の前で恭しく腰を折り、トレーに載せた結婚指輪を差し出す。

会場中の視線が、一斉に私へ集まった。

私はためらうことなく指輪を手に取り、ゆっくりと壇上へ歩き出す。

近づく私を見つめる真司の表情は、驚愕から、次第に怒りへと変わっていった。

私は新婦用の指輪を取り上げ、真司へ差し出す。

その時、客席のどこからか笑い混じりの声が飛んだ。

「愛人に指輪を渡させるなんて、最高の演出じゃないか」

その瞬間、真司は私の手を払いのけた。

指輪が床へ転がる。

そして私の手首を乱暴につかみ、低く問い詰めた。

「全部、お前の仕組んだことか。今回戻ってきたのも、このためだったのか」

無数の視線が棒立ちになった私に突き刺さる。

あちこちから聞こえる囁き。

「愛人」という言葉だけが、はっきりと耳に届いた。

一本一本の鋼の針のように、胸を深く刺していく。

母が息を引き取る間際まで叫び続けていたのは、父の愛人の名前だった。

血を吐くような恨みを残したまま、母はこの世を去った。

私は、愛人という存在を心の底から憎んでいる。

その後、父は再婚した。

結婚式の日、父は私を無理やり床へ跪かせ、その女を「母さん」と呼べと強要した。

今の私も同じく唇を噛み締めているが、屈辱感は、あの日のより遥かに強かった。

あの日の真司は、扉を壊して私の家に入り、父を殴り倒し、その女を激しく罵倒してから、私の手を引いて連れ出してくれた。

だが、今の彼は大勢の人々の前で私を乱暴に突き飛ばし、冷ややかな目で私を見つめながら言った。

「この女性とは何の関係もありません。

二年前、しつこく付きまとわれたので、お金を渡して南市へ行ってもらいました。今日はなんでここに姿を現したか、私、まったく知りませんでした。

みなさん、申し訳ないです。私が解決しますから、任せてください」

床に倒れ込んだ私は、小刻みに震えながら聞いていた。

真司は警備員を呼び、私を無理やり立たせて下の方へ連れた。

絵里の前を通り過ぎた時、涙で濡れた彼女の瞳だけが、不思議なくらい冷静だった。

「わざわざ来てくれて、ありがとうね」

その一言で、私は分かった。

航空券が入っていたブラインドボックス。飛行機での偶然の出会い。そして、わざわざ手渡された招待状。

すべて納得できるのだ。

絵里はもちろん知っていた。全て彼女が仕組んだことだから。

真司は私をホテルの外まで送ってくれた。別れる際、彼は私の腕をつかんで低い声で言った。

「ごめん、お前悔しいんだろうが、八木家と葵家のために、そうするしかないんだ。

お前、やりすぎたよ。

これでは、これまで積み上げてきたものが、全部台無しになってしまうぞ。

取りあえず、帰って待っててくれ。全部片づけたらまた連絡する。安心しろ」

彼は私をタクシーへ押し込み、運転手にアパートまで送るよう告げると、そのまま式場へ戻っていった。

私は遠ざかっていくその背中を静かに見つめ、窓を閉め、そして運転手に言った。

「空港までお願いします」

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