Se connecter蒼がマンションを出ていった日から私には監視がつけられた。
蒼が勝手にしていることだから好きに行動してもよかったが、仕事をしているとはいえ誰かをあちこちに連れ回す趣味はない。
結局、毎朝マンションから真っ直ぐ会社に向かって、仕事が終われば会社から真っ直ぐマンションに返ってくるような生活を送っていた。
何でも自宅に届く便利な時代。
どこかによって買い物をする必要はない。日用品も食事もネットで注文した。
私の食べたいものだけを頼み、必要なものだけを注文した。
二人分のゴミが出るからと蒼が買った大きなゴミ箱は、私一人分のゴミではなかなか埋まることはなかった。
結婚とは何か。
夫婦とは何か。
答えの出ない疑問がいつも頭の中でぐるぐる回っていたし、何なら今もまわっている。
*再び登場した白川茉莉は、今度は子どもを連れて会社にくるようになった。
白川茉莉のいない間に恋人として公の場に出ていた私はいつの間にか『捨てられた女』になっていて、しばらくすると『蒼を誘惑して白川茉莉との仲を壊した悪女』になっていた。
こんな状況だから、会社を辞めてもよかったかもしれない。
でも仕事をせずに、ただ一人あのマンションに閉じこもっていたら発狂しただろう。
毎日決められた時間に起きて、決められた時間に家を出て、決められたルートで会社にいき、定時になったら会社を出て、決められたルートでマンションに変える。
何一つ変わらない生活の中で唯一変化するのが仕事内容で、それに縋る気持ちで仕事に集中していた。
定時まではろくに休憩せず、昼の休憩も最低限に、必要のない仕事まで引き受けて我武者羅に働いていた私を神様が見ていてくれたに違いない。
『初めまして、ミズ・アサギリ。キャメロット・アーキテクツの李凱と申します』英国に拠点をおく世界的に有名な建築事務所キャメロット・アーキテクツの、日本支社長である凱が私を指名して仕事を依頼してきた。
あのとき、私は真剣に神様にお礼を言った。
藤嶋建設は名のある企業だが日本国内が主で、世界規模で見ればキャメロット・アーキテクツの足元にも及ばない。
そんな企業からの指名に気後れはしたが、それ以上に「藤嶋」より強い者の存在に血が騒めいた。
自分を押さえつけるように支配する蒼を見返したいと思った、それなのに――。
「キャメロットとの仕事は別のものに担当させる」
凱との初めての顔合わせの日、その夜に青山のマンションにきた蒼の第一声はこれだった。
何週間ぶりかの帰宅だというのに「ただいま」もなく、あのときすでに青山のマンションは蒼にとって「ただいま」の場所ではなかったのだろう。
それでも私はまだどこかで蒼に期待していて、別の担当を立てるのは経営的な判断だと思った。
私が受け持つのはいつも小さなプロジェクトだったし、大規模プロジェクトのリーダーを務めたのは失敗に終わったあの一回きりでリーダースキルのブラッシュアップはできていなかった。
経験値が足りないと言われたらそれまでの話。
多分、そう言ってくれたら諦めただろう。過去のことを、“たら・れば”で考えたらきりがないけれど。
「李凱は女性との噂が絶えない」
でも蒼はそう言った。
経営的な判断でも、私の能力を不安視したのでもなく、私の浮気の可能性を疑っていた。
「あなたがそれを言うの?」
あなたも白河茉莉との噂が絶えないじゃないかと、言外に込めた皮肉はきちんと蒼に伝わり、私の言葉は思惑通り蒼を怯ませたが、怯んだ蒼の姿が歪んで見えた。
「違う、ごめん、そんなことを言いたいわけじゃなくて……ごめん、悪かった、だから……泣かないでくれ」
浮気を疑われた憤りから生まれたなら、信じてもらえないことへの悲しみから生まれた涙ならそれで止まったかもしれないけれど、そのとき私にあったのは虚しさだけ。
虚しさから零れた涙は止まらなかった。
「陽菜を疑ったわけじゃない。でも、ただ、陽菜が心配で……」
「心配?」
おかしな言葉だった。
「その割には随分と久しぶりのご帰宅じゃない。私はずっと一人だったわ。そうよね、ここはもう私だけの家だもの」
「……陽菜?」
「だって、あなたは“ただいま”さえも言わないじゃない」
あの部屋は私を閉じ込めておくだけの籠だった。
蒼が帰ってくる場所ではなくなっていた。
蒼は私を籠に閉じ込めて満足していた。
餌を運ぶのも他人任せ、それどころか生存確認も他人任せ。
それでも、いつか蒼もくるからと籠の中で待っていた。
昨日はその“いつか”ではなかったけれど、今日がその“いつか”かもしれないと期待し続けていた。
そんな毎日を繰り返していて、唯一蒼に期待しないですむ“仕事”に私は救われていた。
「仕事くらい自由にさせてよ」
このとき、私の中で蒼が夫でなくなりつつあることを感じたけれど、このときはまだ蒼と夫婦でありたいと思っていた。
だから――。
「どうして私と結婚したの?」
そんな莫迦なことを聞いた。
「陽菜を愛しているから」
それは欲しい言葉のはずなのに、「愛している」と蒼の声で聴きたかったはずなのに、蒼の「愛している」がそれまでとは違って聞こえて、蒼のこれはもう私の欲しいものではなくなってしまったのだと感じた。
あの日から、私の中にはぽっかり空いた
いつも私の中にはぽっかり空いた虚がある。
前にあった虚は、蒼への恋心を自覚したとき、寂しいという気持ちに気づいたとき、私の中に自分では決して埋められない空虚な空間があることに気づいたけれど、蒼に初めて抱かれた日、私の体の最奥を満たした蒼の熱と、同じくらい熱い蒼の「愛している」という言葉がその虚を埋めてくれた。
蒼は私の初恋ではない。
初めての彼氏ではない。
初めての男でもない。
だからきっと、あの虚を埋めるのは蒼でなくてもよかった。
運命的に出会ったなんて設定は私たちにはない。
ただそのタイミングに蒼がいただけだったに違いない。
蒼以上の男なんていないという気はない。
でも、蒼の「愛している」を失った日にできたこの虚は永遠にぽっかりと空いたままだろう。
「蒼しかダメ」みたいな乙女な理由じゃない。
「蒼以上の男なんていない」なんて世間知らずのお嬢さんみたいなことを言う気はない。
ただ懲りただけの話。
心を預けた誰かに裏切られるのはもうこりごりだ。
もう二度と、誰にもこの虚には近づけさせる気はない。
ただそれだけの理由。
心に虚を抱えたままでも生きていくのは問題はない。
私もいい大人、ひと肌が恋しくなれば誰かと体を重ねて性欲を満たせば寂しさも忘れられる。
それを教えてくれたのは、ほかならぬ蒼自身。
あの夜、あまりの虚しさに私はひと肌を蒼に求めた。
愛してほしかったわけではないし、ましてや白川茉莉から蒼を取り戻そうなんてアグレッシブな思いでもなかった。
無性に寂しいと思ったとき、丁度よくそこに蒼がいただけ。
ある意味、あのとき蒼がいてくれてよかった。
違う方法、他の誰かで虚しさを産めずにすんだ。
いまもだけど私は蒼と結婚していて、結婚するときに私は夫への貞節を誓った。
だから私が体を許すのは蒼だけ。
蒼が私を裏切ったことと、私が蒼を裏切ることは別の問題。
「抱いてほしい」
そう縋った私を、蒼は苦し気な顔で抱きしめた。
「ごめんね」謝ったのは、私がもう今迄みたいに蒼を愛せていないことに蒼が気づいているのに気づいたから。
先に裏切ったのは蒼かもしれない。
でも、私たちの関係に先に終止符を打ったのは私。
『お前、なんでここにいる?』はあ?『ここは俺の部屋だ。俺がいて何が悪い』李凱は眉間に皺をよせ、部屋の中を見る。手前、奥、右、左、また奥……なんだ?『ヒナはどこだ?』『はあ?』唖然とした李凱の言葉に俺が驚くと、李凱の顔はめまぐるしく変化する。何語かも分からない言葉でまくしたてて、焦った様子で李凱は髪を掻き上げた。 『お前がヒナを拉致したんじゃないのか?』『なんだって?』どうして俺が?李凱は何やら唾を吐き捨てるかのように毒づくと俺に詰め寄り、胸ぐらをつかむ。『拉致したのがお前なら、身の安全はともかく命の心配はなかったのに!』なんだって?『身の安全はともかく? お前、俺が彼女に何かするとでも思っているのか?』もともと李凱のことは気に入らなかった。ささくれた感情は荒れやすい。喧嘩越しの李凱に俺の頭にも血が上り、視界が赤くなる。俺の目の熱に気づいた李凱は鼻で笑い、喧嘩に誘うような挑発的な笑みを向けた。『ヒナを孕ませて手元におきかねねえだろ』「はっ」陽菜を孕ませる?コイツにだけは言われたくない! 『俺と彼女の問題に部外者が口を出すな!』『口を、出すな?』李凱の顔が怒りで歪んだ。『口も手も出すつもりはなかったさ! お前がちゃんとヒナを幸せにしていれば、俺は……「こんなときに喧嘩はお止めなさい!」』 祖母さん!どうしてここに……は? 部屋の入口を見れば祖母さんがいた……それは分かるけど、なぜ第二秘書はバケツを持っている? 「頭を冷やさせて!」 * 『状況を整理します、いいですね?』
今でこそこんな風に冷静に分析しているけど、赤ん坊の写真を見た直後は荒れた。「どうして」って、いま思えば陽菜に理不尽だと呆れられそうなことを思って、でもかけなしの理性がここで陽菜を問い詰めてはいけないと俺の衝動を抑えて……辛うじて俺は何もせずにすんだ。体調不良と言って青山のマンションに逃げて、そこのあった酒を飲んで、それでも足りないからデリバリーで注文して、いまの時代なんでも届くなって思いながら暴飲を重ねて二日酔い。胃をぐるぐるさせながら気分の悪さに耐えて、ただベッドに横になりながらあの赤ん坊の写真を思い浮かべた。最初は、陽菜の裏切りだと、許せないと思った。俺を捨てたこと。李凱に抱かれたこと。そして、李凱の子どもを産んだこと。……完全に八つ当たりだ。許せない?それは違う。許さないという、ただ単に俺の我侭。陽菜にだって幸せを求める権利があり、そのために俺との別れを選んだのだから、陽菜はもう俺の赦しなんて求めていないのだ。陽菜が求めた幸せが、李凱との子どもだったというだけ。……俺は我侭だから、陽菜は寂しさで人肌を求めただけだと思おうとした。李凱が陽菜の傷心につけ込んだとか、あの李凱の見た目に陽菜がちょっと蹌踉めいたとか、自分に言い聞かせようとした。……馬鹿だな、陽菜のこと、分かっていたくせに。陽菜はそんなに弱い女じゃない。――― I love you, Kai.陽菜は電話でそう言っていた。愛しているって……とても優しい顔と声で、李凱に「愛している」と言っていた。あれを見て、分かってしまった。陽菜は李凱を愛している。あの言葉を、表情を、感情を俺は疑うわけにはいかない。――― 愛しているわ、蒼。あの全てはかつて俺に与えられ
キャメロットと打ち合わせしている会議室に行くと陽菜がいなかった。陽菜のサポートだと紹介された褐色の肌色をした女性に陽菜の所在を問うと、陽菜は別件で今日はこっちに来ないとのこと。様子を見にきたと言って顔を出しておきながら、陽菜がいないならとこの場を去るのはあからさま過ぎるのでしばらく会議室にいることにした。 始動してもう少しで一ヶ月、プロジェクトは順調に進んでいる。藤嶋は日本では有名企業だが、世界的に見れば知名度は低く、日本の知名度に奢って天狗になっていた藤嶋のメンバーはキャメロットのメンバーに最初は圧倒されていた。ここで例の『朝霧セラピー』の発動。陽菜の手助けで藤嶋のメンバーは自分を見直し、いまは自分が求められている長所をいかしてプロジェクトに取り組んでいる様子。自信を取り戻した彼らは陽菜を崇拝する目で見て、俺に「何で朝霧さんと別れたのか?」という疑問の目を向けることが増えた。あの目で見られると「別れていない」と言いたくなるが、「まだ別れていない」というだけでカウントダウンは残り少ない。陽菜には一ヶ月以内、遅くても四十日以内に離婚届を提出してほしいと言われている。遅くてもって、十日しか納期が伸びていないぞと文句は言いたくなるが、離婚届を俺に渡してから一年以上放置されていた陽菜の立場からしてみれば大した譲歩なのかもしれない。俺は、スーツの上から離婚届の入った封筒を押さえる。離婚届はすでに全項目記入済みで、いつでも渡せる。薄い紙切れ一枚入っただけのペラペラの封筒は軽いが、これを渡したら全てが終わりと思うと異様に重たい。 『ミスター・フジシマ。本日アサギリはおりませんが、このあと李がきますのでお話しなら……』『いや、進捗を確認したかっただけだから気にしないでくれ。そろそろ次の予定があるので失礼するよ、ミズ・トラオレ』社交的な笑みを心がけつつ、口の端が歪みそうになるのを必死に抑えて会議室を出る。後ろからついてくる黒崎の、次の予定なんてあったかと問う視線が痛い。でも、
あの子は、蒼の子どもじゃない。……私、いま喜んでいる。あの蒼に似た子どもがいたから、蒼は白川茉莉と関係を持ったと思っていた。でも、裏切ってはいないのではないかと思ったりもしていた。何かしらの手段で白川茉莉との関係を強要されたのではないか、とか……仕方がないという状況をそれなりに想像していた。だから、蒼にお兄さんがいて、あの子どもが蒼のお兄さんの子どもかもしれないという今、裏切りはなかったという可能性が高まって嬉しい。女として白川茉莉に負けたかなって思ってもいたから、そうじゃないかもしれないと気分も上がる。でも……それなら離婚はなしにしよう、とはやっぱり思えない。やっぱり、それとこれは別。これを聞いても、知らなかった蒼のことを知って、それなりに事情を理解しても、離婚するという気持ちは変わらない……変わらなかったことに、ホッとしている。我慢させられたという屈辱はあった。 この屈辱を海には味あわせない。 おそらく、蒼はあの子どもを守ろうとしているのだろう。経緯は分からないけれど、あの子どもの父親が西山蓮というなら、母親は白川茉莉なのだろう。あれだけ堂々と連れ歩いているのだから、あの子どもをどこかから攫ってきたとは考えにくい。子どもに対して母親が何をするのか、実母から虐待を受けていた蒼は白川茉莉に子どもを預けることを危惧した。でも、白川茉莉から親権を奪うことは難しい。私も調べたから、子どもがまだ幼い場合の親権争いは母親のほうが有利だということは知っている。父親が勝つのは大抵は母親が子どもに適した環境を与えられない場合で、白川家が背景にあることを考えれば環境を理由に子どもの親権は奪えないだろう。それに、なによりも父親が意識不明。二年も意識がないということは目覚めない可能性も高い。それでは親権争い……「祖母」や「叔父」でも争えるが、相手が白川茉莉では勝ち目はない。親権を奪えなくても、子どもの傍にいる……そのための条件が、恐らく、あの子どもを白川茉莉と蒼の子どもだという周囲の勘違いを蒼が否定しな
「怪我で私は足が不自由になり、夫と共にバリアフリーに改装したこの屋敷で暮しはじめたの。蒼と蓮も誘ったのだけど、学校もあるし、二人で大丈夫と言われたわ。あの子たちは優しいから、足が自由に動かない生活に私が慣れるのを邪魔したくないと思ったのでしょう……あのとき、強引にでもあの子たちを連れてくればと思わなかった日はないわ」翠さんは手を強く握った。「私がいなくなった屋敷で、香澄さんはあの子たちを虐待していた。最初は蓮だったけれど、誰もそれに気づかなかった。高校生の男の子だから虐待されることはないだろうという先入観もあったし、なによりも蓮自身がそれを隠した。蓮は、香澄さんがああなったのは司の隠し子である自分のせいだと思っていたの」「隠していたなら……どうして、それが分かったのですか?」「蒼が、証言したの。私たちと、そして父親を呼び出して、自分たちが母親に虐待されていたこと……母親に、性的暴行をくわえられそうになったと言ったわ」!「母親に襲われたなんて、言いたくなかったでしょうに……ただの暴力ならば躾ですまされるかもしれない、自分たちは男だから理解してもらえないと、だから自ら恥部を明かしたのだとあのあと蒼は言っていたわ」恥部……。「蒼のその行動は蓮を動かした。蓮は自分が香澄さんに虐待されていたこと、蒼と違って未遂ではなく被害にあったのだと言ったわ。襲われている間、自分は『司』と呼ばれていたと……だから香澄さんが蒼のことを『司』と呼んだから危険だと思い、執事に注意を促していたことも……。限界だったのでしょうね。まるでコルクの栓が抜けたみたいに蓮は全てを話したわ」……蒼は、母親から性的暴行を受けた。そんな母親がいるなんて、同じ子の母親として信じられない思いだけど、この世にはたくさん「あり得ない」が溢れている。蒼はそれを私に知られたくなかった。だから、養子にいった理由が
お手伝いさんが女性を連れてきた。西山三奈子と名乗ったその女性は、私の親世代になるだろうか。上品だけど、どこか疲れた雰囲気がある。「三奈子さん、そんなに不安がらないで。大丈夫よ、蒼に怒られるのは私だけだから」「そんな、あの温和な蒼君が怒るだなんて」蒼が怒ることを信じられないという西山さんに私のほうが驚いた。私としては「怒ります、むしろ短気です」と言いたかった。……あの蒼を“温和”なんていう女性。蒼とはどのような関係だろう。 「実はね、蒼には異母兄がいるの」……蒼にも?「名前は蓮。蒼の四歳上で、彼は十八歳のときに西山家に養子にいったわ」養子……西山家ということは、彼女は……。「私は蓮の養母です」「蒼さんから異母兄さんがいたと聞いたことはありません」さっき翠さんは蒼のお兄さんは彼が十八歳のときに養子にいったと言った。つまりそれまで彼は藤嶋家で育ったということになる。四歳差だから、お兄さんが養子にいったとき蒼は十四歳。流石に「知らない」はないだろう。「どうして教えてくれなかったのですか」二人は不仲だったなら敢えて教える必要はないと思ったのか。それなら、なぜ今になって彼の存在を私に教えているのか。 「陽菜さんは、蒼の母親が遠くにいることは知っているかしら?」「それは……まあ……」蒼の両親が別居状態であることは、藤嶋の社員なら誰でも知っている。妻が病気療養中であることから、蒼の父親はあの白川百合江を公然とパートナー扱いし、藤嶋がホストのパーティーでは彼女がホステス役を務めている。「息子の司と蒼の母親の香澄さんは政略結婚だったけれど、香澄さんは司を愛していた。司には幾人も愛人がいたけれど、公の場では香澄さんを妻として厚遇はしていたし、蒼という司の子どもの唯一の母親という矜持が彼女を支えていた。そんな香澄さんのもとに、生母が亡くなったからと引き取った蓮を司は連れていったの。その日から香澄さんの精神状態は目に見えて悪くなり、私と夫は蒼と蓮が彼女に近







