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第236話:正人と、付き合いたい

Author: Sunny
last update publish date: 2026-09-25 22:46:57

夜風が、少しだけ強く吹いた。

神保町の通り。

仕事終わりの人たちが足早に駅へ向かっていく。

遠くで信号が変わる音。

車のライト。

ビルの谷間を抜けていく風。

誰かの笑い声。

街はいつも通り動いている。

それなのに、その一瞬だけ、周りの音が少し遠くなった気がした。

正人は、立ち止まっていた。

けれど、真正面から私を逃がさないように見るわけではなかった。

ほんの少しだけ視線を外している。

私が答えに詰まったら、笑って流せるように。

違う意味だったと言われても、大丈夫だと返せるように。

自分が傷ついた時のためにではなく、私が困らないように。

逃げ道を残すみたいに。

その距離の作り方が、あまりにも正人だった。

また、無意識なのだろう。

正人の指先が、ネクタイの結び目に触れた。

ほんの少しだけ。

触れたあと、すぐに離れる。

でも、その指先だけが、いつもより落ち着かなく見えた。

そんなに怖かったんだ。

胸が、少しだけ苦しくなる。

今日、少し固かった空気。

近づきすぎない距離。

解散前提みたいな言い方。

本屋で本を読んでいた時の横顔。

ネクタイに触れる仕草。

全部、期待しすぎないようにしていたんだ
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