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第592話

Author: 風羽
九条時也は一瞬、固まった。

彼は何も考えずに、階段を駆け上がりながら「高橋さん、田中さんを客間に案内しろ」と大きな声で言った。

さっきの二人の様子を、

高橋はとっくに見ていたが、何も口に出せなかった。

水谷苑のことが痛ましく思った。あんなに純粋な人が、そういう光景を見たら、どれほど傷つくことだろうか。奥様はもともと旦那様のことを嫌がっていたのに、これからでは触れられることさえ拒むようになるだろう。

高橋は田中詩織が気に入らなかった。

彼女は田中詩織の前に立ち、厳しい表情で言った。「田中さん、行きましょう」

田中詩織は気が収まらなかった。

九条時也が情け容赦なく、さっさと行ってしまったことが信じられなかった。せっかく体が火照ってきたのに、彼がいないんじゃ......

田中詩織は甘えるように「時也!」と呼んだ。

九条時也は彼女を無視し、水谷苑の方へ歩いて行った。水谷苑は後ずさりし、背後の手すりに背中が当たるまで下がった。彼女の頬には涙が流れていた......

悲しみではなく、嫌悪の涙だった。

照明は柔らかな光を放っていたが、二人の見つめ合う視線は、どこかぎこちなかっ
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