Masuk透子は本当に会いに来てくれていた。自分は彼女を抱きしめて長い間泣き、お爺様が自分のもとから去ってしまったことを話し、もう自分を見捨てないでほしいと懇願した。だが、透子は結局、立ち去った。彼女はもう自分を必要としていない。自分はやはり、一人きりなのだ。細かなやり取りを思い出すと、蓮司は再び声を詰まらせ、目に涙を浮かべた。執事は慌てて慰めた。「若旦那様、もうお泣きにならないでください。栞お嬢様が会いに来てくださり、お粥まで持ってきてくださったのです。喜ぶべきことではございませんか」蓮司は鼻をすすった。確かにそのとおりだと思い直し、お粥を受け取ると、勢いよくかき込み始めた。「でも、どうして透子がここへ来たんだ?」蓮司は何口か食べたところで尋ねた。透子はもう自分を好きではない。自分を見る目には、悲しみも喜びもなかった。道ですれ違う他人を見るような眼差しだった。蓮司も、その程度の自覚はあった。透子がまだ自分に同情し、好意を抱いているから来てくれたなどとは思えなかった。「ええと、実は、若旦那様が何も召し上がらず、水分も取らず、ろくに眠ってもいらっしゃらなかったので、わたくしが栞お嬢様にお願いしたのです」執事は正直に打ち明けた。蓮司は顔を上げ、呆然と執事を見つめた。透子が来てくれたのは、執事の顔を立ててくれたからだったのか。執事はため息交じりに言った。「さあ、早く召し上がってください。一食でも口にできるのと、何も食べないのとでは大違いです。早くお元気になっていただかないと、次はわたくしも、また恥を忍んでお願いに行くことができません」その口ぶりは、まるで蓮司が手にしているお粥が、執事が頭を下げて恵んでもらったものであるかのようだった。だが実際、それと大差はなかった。蓮司は執事の言葉を聞き、唇を引き結んだまま、しばらく黙り込んだ。それから、再びお粥を食べ始めた。執事の言うとおりだった。一食でも食べられるなら、その一食を大切にしなければならない。毎回、簡単に手に入るものではないのだ。一粒たりとも粗末にはできなかった。その翌日、蓮司はかなり気力を取り戻していた。完全に立ち直ったわけではない。それでも、自ら会社へ出社した。これ以上、落ち込んだままではいられなかった。悲しみが残り、胸が痛んでいても、生きていかなければならない
「命に別状はありません。ここ最近、ほとんど食事を取っていなかったため、体力が落ち、低血糖を起こしたのでしょう。それに、顔に涙の跡があります。感情が激しく高ぶったことで、さらに症状が悪化したものと思われます」医師の説明を聞き、執事はほっと息をついた。蓮司が栄養補給の点滴を受けるのを見守っていると、医師が続けた。「もともと水分もあまり取っていなかったうえ、激しく泣いたことで、ひどい脱水状態になっています。どちらも同時に補わなければなりません。今後は、決まった時間に食事と水分を取るよう見守るか、感情が激しく高ぶる事態を避けてください」透子はベッドで目を閉じている蓮司を見つめ、唇を引き結んだ。「感情が高ぶったのは、私が引き起こしたというより……本人が勝手に、爆発したというか……」執事は言った。「おそらく、若旦那様は長い間、感情を抑え込んでおられたのでしょう。旦那様の納骨を終えてからも、ずっと深い悲しみの中から抜け出せずにいらっしゃいましたから」自分たちの前でも、蓮司は悲痛な様子を見せていた。だが、一度も涙は流さなかった。透子が来た途端、もう耐えきれなくなったのだ。執事は医師に尋ねた。「感情を吐き出せたのは、むしろ良かったのでしょうか。ずっと胸の内に押し込め、心を病んでしまうよりは」医師が頷くと、執事は蓮司を見つめて言った。「それなら、今度目を覚まされた時には、ずいぶん楽になっておられるでしょう」執事は透子へ向き直った。「ありがとうございます、栞お嬢様」透子は言った。「私は何もしていません。なぜお礼を言われるのか分かりません。お粥だって、一口も食べないうちに気を失ってしまったのに」執事は微笑んだ。「栞お嬢様が来てくださったこと自体が、何よりの助けになったのです。わたくしどもも若旦那様とは親しくさせていただいておりますが、関係が違います。わたくしどもでは、代わって差し上げられないこともあるのです」透子は執事の言葉を聞きながら、蓮司も先ほど似たようなことを言っていたと思い出した。だが、自分がいったい何の役に立ったというのだろう。泣きだすきっかけになっただけではないのか。あの時の蓮司は、まさに堰を切ったように泣いていた。大人の男が、どうすればあれほど泣けるのかと、透子自身も驚いたほどだ。透子は言った。「今は眠っ
透子は冷淡に言った。「もう芝居はやめて。早く気を取り直して、きちんと自分の生活へ戻りなさい。新井グループも、あなたの復帰を待っているのよ」そして、掴まれていた手を振りほどき、今度こそ完全に背を向けて立ち去った。「透子、透子!」蓮司はその名を叫んで引き留めようとした。床からどうにか立ち上がり、後を追おうとする。だが、立ち上がった途端、全身から力が抜け、目の前が激しく回り始めた。すでにドアまで歩き、消えようとしている透子の後ろ姿へ手を伸ばし、蓮司は必死に前へ進もうとした。「と……」かろうじてその一音だけを発した次の瞬間、蓮司は再び床へ倒れ込んだ。今度は本当に気を失い、意識が完全に途切れていた。ドアのそば。背後で鈍い音が響き、透子は振り返った。蓮司がまた床へ倒れている。だが今度は、慌てて駆け寄ろうとはしなかった。先ほどすでに一度、騙されているからだ。透子は再び背を向け、そのまま部屋の外へ出た。一方、壁の反対側では、執事が透子の姿を見るなり、慌てて身を隠していた。ところが、少しして、階段を下りかけていた透子が戻ってきた。ドアの前に立ち、部屋の中をうかがう。蓮司は依然として床に倒れたまま、ぴくりとも動かなかった。透子は眉をひそめ、声をかけた。「ちょっと、もう芝居はやめて。同じ手を二度も使われたら、本当に腹が立つんだけど」だが、床に倒れている蓮司は、まったく反応しなかった。腹を立てた透子は、それ以上声をかけるのも面倒になり、背を向けて数歩進んだ。それでも結局、また足を止めた。部屋へ戻った透子は、まずドアのそばから周囲を見回した。それからハンガーを手に取り、安全な距離を保ったまま、その先で蓮司をつついてみた。それでも反応はない。脇の下のようなくすぐったい場所をつついても、蓮司はぴくりとも動かなかった。「ちょっと、演技なの?それとも本当に……」透子は眉をきつく寄せた。さらに何度か試してから近づき、蓮司の肩を揺さぶった。少し力を込めて押すと、蓮司はそのまま仰向けに転がり、頭が力なく横へ倒れた。ここまで何の反応もないのなら、演技とは思えなかった。透子は急に不安になり、ドアの外へ向かって大声で叫んだ。「誰かいないの?早く来て!医者を呼んで!」透子は蓮司の頬を軽く叩いた。だが、まるで意識のない人形のよう
「俺には、過ぎたことになんてできない」透子のあまりにも淡々とした言葉を遮るように、蓮司は再び激しく泣きだした。透子は本当に過去を手放し、自分への想いを何一つ残していない。それこそが、蓮司の胸を最も深くえぐる事実だった。「どうしても、ただ過ぎ去ったことにはできないんだ。俺が今まで愛したのは、君一人だけだ……前に、君を祝福すると言った。これから幸せになってほしいとも言った。でも、心の底ではそんなこと、少しも思えなかった……君のそばにほかの男がいるなんて耐えられない。口では祝福すると言いながら、本当は嫉妬で狂いそうだった……君に近づく男は全員憎い。柚木聡も、桐生駿も、常田明も、池田拓海も……」透子は、蓮司が泣きながら駄々をこねるのを呆れ果てて聞いていた。だが、聞き覚えのない男の名前がいくつも出てくると、眉をひそめて尋ねた。「常田さんって、誰のこと?」「君のお見合い相手だ」蓮司はくぐもった声で答えた。透子は絶句した。そういえば、以前、何人かとお見合いをした時期があった。自分ですらもう忘れていたというのに、蓮司は一人一人の名前をはっきり覚えていたのだ。事情を知らない者が聞けば、お見合いをしたのは蓮司のほうだと思うだろう。透子は無表情になり、今度こそ蓮司を押し退けながら、呆れた声で言った。「放して。お爺様を亡くした悲しみにかこつけて、これ以上、駄々をこねないで」透子を抱きしめていた蓮司の腕が強張った。「違う。俺は本当に苦しいんだ……」蓮司はくぐもった声で答えた。透子は呆れて、返す言葉もなかった。「俺には、ほかに話を聞いてくれる人がいない。叔父さんも高橋もよくしてくれるが、年が離れすぎているから、二人には言えないこともあるんだ……」蓮司はそう言いながら、なおも透子を抱きしめたまま、放そうとしなかった。透子は言った。「それなら、佐藤さんに聞いてもらえばいいでしょう」「佐藤は部下だ。あいつにも、こんな本音は話せない」透子はますます呆れた。――だから私には話せるというの?私とあなたは、そんな話ができる関係だとでも思っているの?蓮司はわざと駄々をこね、透子が振り切れないようにしている。もう間違いないと、透子は確信した。あの時、弁当箱をドアの前に置くだけで、部屋へ入らなければよかったと心から後悔した。
だが、透子が現れた途端、蓮司は完全に堪えきれなくなった。もう気丈に振る舞うことなどできず、堰を切ったようにあふれ出した感情は、透子まで飲み込んでしまいそうだった。「透子……うっ、俺……もう、お爺様がいないんだ……」蓮司は目の前の透子を、自分の人生に残された最後の支えであるかのように、きつく抱きしめた。そして、悲痛な声を上げて泣き崩れた。透子はその言葉を聞きながら、あまりにも強く抱きすくめられていたため、しばらく何も言えなかった。「俺にはもう家族がいない。この世界に、たった一人取り残されてしまった……」透子は言った。「義人叔父様がいるじゃない。水野家の方たちだっているわ」蓮司は悲痛な声で訴えた。「意味が違うんだ。新井家は、俺が子供の頃から育った場所だ。この家では、俺は本当に一人きりなんだ……」透子は、自分の肩がすでに涙でぐっしょり濡れていることに気づいた。腕から抜け出そうとしたが、蓮司はびくともしなかった。「新井家には高橋さんがいるでしょう。高橋さんだって、あなたの家族よ」蓮司は言った。「高橋とは、血が繋がっていない……」透子は唇を引き結んだ。どうしても血の繋がりが必要だと言うなら、残っているのは博明だけだった。だが、蓮司はとっくにあの男を父親とは認めていない。そうでなければ、もう家族がいないなどとは言わないはずだ。「血が繋がっていなくても、血縁以上の関係でしょう。高橋さんは、あなたが幼い頃からずっと見守ってきた人なのよ」透子は言った。「違うんだ。やっぱり、違う……」蓮司はむせび泣きながら答えた。透子は絶句した。ちらりとドアの外を見る。幸い、執事はまだ戻ってきていなかった。もし今の言葉を聞かれたら、深く傷ついたに違いない。それでも、蓮司が何を言いたいのかは、おおよそ理解できた。彼が言っているのは、本当の意味で身近な血縁者が、もうこの世にいないということなのだ。母方の水野家で親しいのは、叔父の義人くらいだった。それも、ここ数か月でようやく距離が縮まったにすぎない。それまでの二十年以上、顔を合わせたことすらなかったのだ。蓮司は泣きじゃくりながら、透子を抱いたまま、幼い頃に祖父と過ごした日々を語り続けた。大切な宝物を一つずつ取り出すように、思い出の断片を次々と言葉にしていった。透子は身動きできないほ
ドアの前。執事がそっとドアを開けると、透子の目に、部屋の一番奥にあるベッドの端に座り、両膝を抱えたまま、うつろな目で窓の外を見つめている蓮司の姿が映った。昼間だというのに、部屋の明かりはついていなかった。この部屋の周囲には庭が造られ、木々が日差しを遮っているため、室内は薄暗かったが、温度は心地よく保たれていた。蓮司の姿はちょうど大木の影に包まれていた。まるで一人だけ暗闇の中に切り離され、自分だけの世界に閉じこもり、外のすべてを拒んでいるようだった。透子がその悲しげでうつろな姿を見つめていると、ベッドの端で両膝を抱える十歳の子供の姿が、ふと脳裏に浮かんだ。あの時も、こうして黙り込み、うつろな目をしていた。深いうつ状態に陥り、一度は生きようとする気力さえ失っていた。それは、蓮司がまだ幼かった頃のことだ。父親の不倫が原因で、母親は悲しみに沈んだまま若くして世を去った。この世に残されたのは、まだ幼い子供一人だけだった。蓮司は、父親の裏切りによって壊れた家庭に生まれた。物心ついてからも父母の愛情をほとんど知らずに育ったため、幼い頃から陰鬱な性格になり、深刻な心の問題を抱えていた。透子はドアの前にしばらく立ち尽くしていた。傍らで控えていた執事は、その様子を察すると、気を利かせて口実を作った。「わたくしは少し用事を済ませてまいります。お粥は部屋のテーブルに置いていただければ結構ですので」そう言うと、執事は足早に立ち去った。透子も我に返り、弁当箱を手にしたまま部屋へ足を踏み入れた。ベッドのそば。蓮司は相変わらず、そこにじっと座っていた。身じろぎ一つせず、うつろな目で窓の外を見つめている。先ほどの執事の言葉も、誰かが部屋へ入ってくる足音も聞こえていた。食事を運んできた使用人だろうと思い、蓮司は口を開いた。「下げろ。食べる気はない」声は石が地面を擦るようにかすれ、ひどく憔悴し、生気がなかった。だが、相手の足音は止まらず、そのまま蓮司へ近づいてきた。苛立った蓮司は、振り返って怒鳴った。「いらないと……!」だが、そこに立つ人物を見た瞬間、爆発しかけた怒りが喉の奥で止まった。蓮司は呆然とし、信じられないものを見るように目を大きく見開いた。不意に怒鳴られた透子は、ようやくその場で足を止めた。そして反射的に背を向け、部屋を出よう