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第126話

Author: ちょうもも
「説明するようなことなんてありませんから」

悠良の表情は驚くほど平静だった。

彼女はよくわかっていた。

さっき玉巳があんなふうに言った時点で、史弥はもう自分のことなんて信じていない。

これ以上説明しようとすれば、かえって自分がやましいように見えるだけ。

でも、考えれば考えるほど可笑しかった。

史弥自身が玉巳と本当に潔白かどうか、自分で一番分かってるはずなのに。

ふとある疑問が頭に浮かんだ。

そして今それを聞けそうなのは、目の前の伶しかいない。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいですか?」

伶はどうやらそのまま食べるのは不便だと思ったのか、ゆっくりとシャツの袖をまくり上げ、引き締まった腕の一部を露出させた。

頭上の照明の光に照らされて、彼の手はさらに白く、細く長く見えた。

悠良は思わず唾を飲み込んだ。

最近の自分の脳内はどうかしてるんじゃないかと思う。

伶の手ひとつでさえ色気を感じてしまうなんて......いや、まさかあんなことが久しぶりすぎておかしくなった?

彼女は慌てて頭を振り、そういう類の雑念を追い払った。

伶は牛串を手に取り、食べる様子もどこか上品だった。

「ああ」

「男ってみんな、自分は好き放題しといて、相手には清廉潔白求めるのが普通ですか?」

「他のやつは知らんが、俺は違う」

伶はテーブルを一周見渡したが、水しか置いてないのが不満だったようで、冷蔵庫から飲み物を取りに立ち上がった。

そして律儀に振り返り、悠良に聞いた。

「君も飲むか?」

「お願いします」

彼は片手で二本の飲み物を持って戻ってきて、一本を彼女の前に差し出す。

悠良は少し気になって聞いた。

「では、寒河江さんはどんなタイプです?」

伶は眉を上げ、横目で彼女を見た。

「本気で聞きたいのか?」

「はい」

悠良は、伶のような放浪癖のあるタイプが、恋愛にどう向き合うのか知りたかった。

彼は瓶の蓋を開けると、そのまま飲まず、わざわざグラスに注ぐという無駄な儀式をこなす。

「俺は、二股なんて絶対許さない。愛するときはひとりだけを愛する」

「もし相手が他の男を好きになったら、俺は手放す。けど、裏切りだけは許さない」

悠良は、その価値観がとても気に入った。

彼女自身も同じだった。

好きなら好きで貫く、冷めたなら冷めたで、きちんと話
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